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【Thinking Time】⑯「脱炭素」とは何か? バイクはどう変わるのか?

*BikeJIN vol.224(2021年2月号)より抜粋

昨年10月、政府は2050年までにカーボンニュートラルの実現を
目指す方針を出し、今年の1月には菅首相の施政方針演説において
「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」と表明した
各国も同様であり、自動車産業のみならず生活に関わるものすべてに対して
脱炭素化社会への変革が迫られている。バイクはどうなるのか?

脱炭素化社会の実現に向けあらゆる産業に変革が必要

地球温暖化の問題が予測通りならば、あらゆる人間の生活環境が一変することになる。それを防ぐために脱炭素社会が必要であれば、それは自動車産業だけではどうにもならない。エネルギーの生成、資源の採取から消費、廃棄、リサイクルまで循環型の社会経済が実現できるかどうかは全産業の変革にかかっている。

パリ協定は日本が主張 脱炭素は欧州・中国の思惑?

地球温暖化の問題は国際社会の流れだ。1992年の国連気候変動枠組条約に基づいた国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)が毎年開催され、温室効果ガスをどう減らしていくかが議論されてきた。2015年にはパリ協定が採択され、後進国も含むすべての国による取り組みが実現したが、これは京都議定書の成立以降、日本政府が主張してきたことだ。
 

自動車業界での脱炭素の動きには、様々な見方と視点がある。ディーゼルゲート事件のように日本のハイブリッド技術に勝てない欧州の思惑だ、日本の内燃機関優位に対抗し次代をリードするための中国の思惑だ、といった具合だ。欧州や中国の思惑に乗ってどうする、という声も根強い。部品点数が少なくコモディティ化(価値低下、一般化)の速いEV関連技術にシフトすれば、就業人口の1割にあたる約550万人の自動車産業関係者がどれだけ路頭に迷うのか。こうした危機感も至極当然だろう。

 日本の二酸化炭素排出量、ましてや国内排出量のうちバイクが占める割合などほんのわずかだ。「情勢を見極めたい」「雇用の確保が重要」「製品を作ってもユーザーが選ばなければ意味がない」といった慎重な意見は、バイクメーカーからもよく聞く。製造業である以上、作った物を買ってもらえなければ事業として成り立たない、事業として成り立たなければ、脱炭素の取り組みにも貢献できないのだから、これもまた当然の意見だ。

日本の二酸化炭素排出量は5番目 断トツは中国で約3割
地球規模で見れば、最も二酸化炭素を排出しているのは「世界の工場」とも呼ばれる中国で日本は5番目。国内における部門別の排出量を見ると運輸部門は18.6%、そのうち自家用乗用車は45.9%(排出量9458万トン)で、二輪車はわずか0.3%(排出量72万トン)に過ぎない(2019年度)

出典:温室効果ガスインベントリオフィス/全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(https://www.jccca.org/)より

バイクはエコな乗り物!EV以外の選択肢も多い

「バイクはそもそもエコな乗り物だ」という意見もまったくもってその通りだ。原付バイクなんてリッター50㎞は当たり前に走る。二酸化炭素の排出量についても自動車や船舶などが含まれる国内運輸部門のわずか0.3%しか占めないし、ライフサイクルアセスメントで見てもクルマの約30%しか排出していない。バイクを脱炭素化するということの優先順位は決して高くないと思うのが普通だろう。

 しかし、そうこうしているうちに、脱炭素社会でのバイクの姿もかなり見えてきた。原付一種に関しては、都心部や市街地からバッテリー交換ステーションが設置されていき、電動バイク(EV)に置き換わる。原付一種に令和2年排ガス規制が適用される2025年11月から約10年くらいの間はガソリン原付とEV原付が混在し、より良い利活用のため課題の抽出と改善が進むだろう。。
 

他方、250㏄クラス以上のファンバイクは航続距離の問題からも水素を用いた燃料電池車(FCV=水素と酸素の化学反応による電気でモーターを回す)、または水素エンジン車(ガソリン同様に酸素との結合による内燃機関)となりそうだ。燃料電池車にはバッテリーに関わる諸問題が、バイクの水素エンジンにいたっては実用化の目途が立っていないのでまだ先の話だが、今後数年で計画に目途が立つだろう。
 

また、発電所や工場などから出た二酸化炭素を再利用する合成燃料(e‐フューエル)にも期待したい。2040年時点でもガソリン車は8割以上を占めると見られているが、合成燃料やバイオ燃料が登場すれば、ガソリンスタンドなど既存のインフラが活用できる。いずれにせよ、脱炭素=電動化という単純な話ではない。日本の優位性である内燃機関技術を活かす取り組みも並行して行われていく。

日本の技術力による様々な動力源と燃料の技術革新に期待したい。

CO2排出量はライフサイクルアセスメントで判断

二輪車製造における二酸化炭素排出量は、ライフサイクルの各段階(資源採取、原料生産、製品生産、流通・消費、廃棄・リサイクル)の環境負荷を定量的に評価して決められる。これがライフサイクルアセスメント(LCA)という評価手法だ。ICE(ガソリン車)でもBEV(電動車・ピュアEV)でもバイクはクルマの約30%ほどの排出量しかない。
バイクはクルマに比べて「そもそも環境に優しいエコな乗り物」であることが分かる。

居住環境や使い方によって動力源が変わる可能性も?

スズキ バーグマン フューエルセル(FCV)

次世代エネルギーという点では、日本はもともと水素の活用に焦点を当てていた。将来的には、都市部や市街地にバッテリー交換インフラが整備され、原付クラスはEVに。長距離ツーリングを楽しむようなファンバイクは燃料電池車(FCV)または水素エンジン車となり、バイクの動力源は電気と水素に二分化すると思われる。燃料電池車ではスズキ「バーグマンフューエルセル」が知られる

Writer 田中淳磨(輪)さん

二輪専門誌編集長を務めた後、二輪大手販売店、官庁系コンサル事務所への勤務を経て独立。三ない運動、駐車問題など二輪車利用環境問題のほか若年層施策、EV利活用、地域活性化にも取り組む

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脱炭素化社会の実現に向けて

地球温暖化の問題が予測通りならば、あらゆる人間の生活環境が一変することになる。それを防ぐために脱炭素社会が必要であれば、それは自動車産業だけではどうにもならない。エネルギーの生成、資源の採取から消費、廃棄、リサイクルまで循環型の社会経済が実現できるかどうかは全産業の変革にかかっている。

地球温暖化防止のための脱炭素への取り組みは加速しており、2050年に二酸化炭素などの温室効果ガスの排出をゼロにするカーボンニュートラルを表明してから、各社の施策が表に出てくるようになった。直近だとトヨタの水素エンジン車両による24時間耐久レースへの出場やカワサキのグループビジョン2030に見られる水素エンジンや燃料電池システムを採用したバイクの開発などだ。

日本の二酸化炭素排出量は5番目 断トツは中国で約3割

地球規模で見れば、最も二酸化炭素を排出しているのは「世界の工場」とも呼ばれる中国で日本は5番目。国内における部門別の排出量を見ると運輸部門は18.6%、そのうち自家用乗用車は45.9%(排出量9458万トン)で、二輪車はわずか0.3%(排出量72万トン)に過ぎない(2019年度)

出典:温室効果ガスインベントリオフィス/全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(https://www.jccca.org/)より

パリ協定は日本が主張  脱炭素は欧州・中国の思惑?

 地球温暖化の問題は国際社会の流れだ。1992年の国連気候変動枠組条約に基づいた国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)が毎年開催され、温室効果ガスをどう減らしていくかが議論されてきた。2015年にはパリ協定が採択され、後進国も含むすべての国による取り組みが実現したが、これは京都議定書の成立以降、日本政府が主張してきたことだ。
 

自動車業界での脱炭素の動きには、様々な見方と視点がある。ディーゼルゲート事件のように日本のハイブリッド技術に勝てない欧州の思惑だ、日本の内燃機関優位に対抗し次代をリードするための中国の思惑だ、といった具合だ。欧州や中国の思惑に乗ってどうする、という声も根強い。部品点数が少なくコモディティ化(価値低下、一般化)の速いEV関連技術にシフトすれば、就業人口の1割にあたる約550万人の自動車産業関係者がどれだけ路頭に迷うのか。こうした危機感も至極当然だろう。 

日本の二酸化炭素排出量、ましてや国内排出量のうちバイクが占める割合などほんのわずかだ。「情勢を見極めたい」「雇用の確保が重要」「製品を作ってもユーザーが選ばなければ意味がない」といった慎重な意見は、バイクメーカーからもよく聞く。製造業である以上、作った物を買ってもらえなければ事業として成り立たない、事業として成り立たなければ、脱炭素の取り組みにも貢献できないのだから、これもまた当然の意見だ。

バイクはエコな乗り物! EV以外の選択肢も多い

「バイクはそもそもエコな乗り物だ」という意見もまったくもってその通りだ。原付バイクなんてリッター50㎞は当たり前に走る。二酸化炭素の排出量についても自動車や船舶などが含まれる国内運輸部門のわずか0・3%しか占めないし、ライフサイクルアセスメント(下記参照)で見てもクルマの約30%しか排出していない。バイクを脱炭素化するということの優先順位は決して高くないと思うのが普通だろう。
 

しかし、そうこうしているうちに、脱炭素社会でのバイクの姿もかなり見えてきた。原付一種に関して、都心部や市街地からバッテリー交換ステーションが設置されていき、電動バイク(EV)に置き換わる。原付一種に令和2年排ガス規制が適用される2025年11月から約10年くらいの間はガソリン原付とEV原付が混在し、より良い利活用のため課題の抽出と改善が進むだろう。
 

他方、250㏄クラス以上のファンバイクは航続距離の問題からも水素を用いた燃料電池車(FCV=水素と酸素の化学反応による電気でモーターを回す)、または水素エンジン車(ガソリン同様に酸素との結合による内燃機関)となりそうだ。燃料電池車にはバッテリーに関わる諸問題が、バイクの水素エンジンにいたっては実用化の目途が立っていないのでまだ先の話だが、今後数年で計画に目途が立つだろう。
 

また、発電所や工場などから出た二酸化炭素を再利用する合成燃料(e‐フューエル)にも期待したい。2040年時点でもガソリン車は8割以上を占めると見られているが、合成燃料やバイオ燃料が登場すれば、ガソリンスタンドなど既存のインフラが活用できる。いずれにせよ、脱炭素=電動化という単純な話ではない。日本の優位性である内燃機関技術を活かす取り組みも並行して行われていく。日本の技術力による様々な動力源と燃料の技術革新に期待したい。

CO2排出量は ライフサイクルアセスメントで判断

二輪車製造における二酸化炭素排出量は、ライフサイクルの各段階(資源採取、原料生産、製品生産、流通・消費、廃棄・リサイクル)の環境負荷を定量的に評価して決められる。これがライフサイクルアセスメント(LCA)という評価手法だ。ICE(ガソリン車)でもBEV(電動車・ピュアEV)でもバイクはクルマの約30%ほどの排出量しかない。バイクはクルマに比べて「そもそも環境に優しいエコな乗り物」であることが分かる。

出典:ヤマハ発動機「環境技術説明会」資料P17より

居住環境や使い方によって 動力源が変わる可能性も?


次世代エネルギーという点では、日本はもともと水素の活用に焦点を当てていた。将来的には、都市部や市街地にバッテリー交換インフラが整備され、原付クラスはEVに。長距離ツーリングを楽しむようなファンバイクは燃料電池車(FCV)または水素エンジン車となり、バイクの動力源は電気と水素に二分化すると思われる。燃料電池車ではスズキ「バーグマンフューエルセル」が知られる

Writer 田中淳磨(輪)さん

二輪専門誌編集長を務めた後、二輪大手販売店、官庁系コンサル事務所への勤務を経て独立。三ない運動、駐車問題など二輪車利用環境問題のほか若年層施策、EV利活用、地域活性化にも取り組む
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