1. HOME
  2. ヒストリー
  3. [Thinking Time]㉞混合交通に特定原付車両が流入!知っておきたい課題と注意点

[Thinking Time]㉞混合交通に特定原付車両が流入!知っておきたい課題と注意点

*BikeJIN vol.242(2023年4月号)より抜粋

7月1日施行が報道された改正道交法。これにより電動キックボード等の
特定原付(特定小型原動機付自転車)が公道を走れるようになる
16歳以上は免許不要でヘルメットは努力義務。混合交通下での課題とは?

7月1日、改正道交法が施行特定原付が街中に走り出す

改正道交法が施行される7月1日から特定原付区分の電動モビリティが街中に走り出す。昨年末に保安基準が示されたので、メーカーは既存商品の基準対応に忙しくしていることだろう。一方、混合交通という視点では、周知も準備もかなり出遅れてしまっている。

しかしそれほど話題になっていないし、なにより実感が沸かないと感じている人が多いだろう。都市部では電動キックボードのシェアリング(小型特殊自動車扱い)が行われ、一方では原付一種としての電動キックボードが街中に増え、いわゆる野良キックボードでの違反者が出たり、実証実験車両での飲酒死亡事故もあったことから「こんなものまともに世に出るわけがない」と斜に構えていた人も多かっただろう。ネットのコメントを見れば反対派の声も大きく、そういうマインドが多くの人を半信半疑にさせていたが、結果は当初の予定(2024年4月までに施行)よりもかなり早く実現することになった。

検討も試験もされてきたが課題や不安は残ったまま

 電動キックボードの実現にあたっては、少子高齢化、公共交通の衰退、高齢者の免許返納、インバウンド需要などさまざまな社会課題を改善できるモビリテを世に送り出そうという動きがまずあって、政府で検討が重ねられ、国交省が車体の安全基準を示し、警察庁が運用上の法令案・ルールをを示しつつ、1〜2月にかけては電動キックボードとしては恐らく最後となるだろうパブリック・コメント(国民からの情報・意見募集)も行われていた。

 こうしたことがあまり報道されない、関心を持たれない、実感が沸かないというまま7月1日を迎えて、テレビも一斉に報道、「さあ、どうなるか?」では遅いだろう。混合交通下で一緒に走ることになる我々ライダーは、特定原付(特定小型原動機付自転車)という車両区分が新設されるまでは、最も小さな自走モビリティである原付一種を利用し、その利便性の一方で、30㎞/h規制や二段階右折の怖さ、理不尽さを体験してきた。

周囲のクルマと速度差のある中で並走することがいかに怖いか、路駐車両を避けながら二段階右折に向かうことがいかに大変なことかを知っている。今回の法改正で最も不安な部分は「16歳以上は免許不要」ということだ。

16歳と言えば高校1年生、免許を持っていない子も多い。免許がないということは道路交通法というルールをほとんど知らないわけで、そんな子供たちが戦場のような朝夕の第一通行帯に最高速度20㎞/hで流入していくことは我々ライダーからすればかなり怖いことだと分かる。しかも自転車死亡事故の7割は頭部が致命傷だというのにヘルメットは努力義務なのだ。

こうした課題や注意点の想定についてはページ内の各項目で説明しているので読んでほしい。電動キックボード利用時の一助にもなるはずだ。では、なぜこのような状態で法改正が進んでいるのか、そこに至るにはどのようなことが行われていたのかについて簡単に記しておく。

 国交省が開催した「新たなモビリティ安全対策ワーキンググループ」でのやり取りを見ると、特定原付車両のサイズや重量など保安基準に関する検討がかなり細かいことが分かる。しかしミラーや速度計など法規走行の上で必要となるはずのパーツについて装着を提議すると「手軽でなくなる、コストが増える」といった意見が出ている。普及の阻害になるものは極力排除しようという力学が垣間見えているのだ。また、警察庁により電動キックボードの公道運用を想定したモニターテストが試験場敷地内で行われていたが、その際は免許の有無によってモニターを選別し分析されていた。しかし公道においてそのような試験が行われたのかは不明だ。

7月1日に備えて、どれだけのことができているだろうか。事故や違反が短期間で続けば「電動キックボードが悪い、モノを取り上げろ」というのが日本のモビリティ史観だ。三ない運動もそうした思考から生まれ、結果、今に至るまで交通安全教育を遠ざけている。特定原付車両の運用には多くの課題がまだ残されていて、注意しなければならいことが横たわっている。とくに、低速モビリティが集まる第一通行帯の危険性についてはもっと周知されるべきで、この数カ月が勝負の時になる。

【課題1】混合交通に特定原付車両が流入することの課題

16歳以上は免許不要で自転車に近い扱いだが登録(ナンバープレート)や自賠責保険加入は必要

7月1日以降、特定原付車両が混合交通に徐々に流入してくるだろう。そこにどのような問題が発生するのか、法改正への議論・審査の過程でどこまで検討されたのかは不明だ。大きなところで言うと、主に下の3つの課題が挙げられるだろう

[ 免許不要 ]

特定原付車両は16歳(高校1年生)以上は免許不要で乗れるが、現在多くの高校では年に1回程度の自転車・交通安全教室しか行われていない。細かな道交法など知らずにルールの多い第一通行帯に流入すれば……

[ 車体構造 ]

電動キックボードのタイヤサイズは一般的に6〜8インチ程度とされている。国交省で検討された保安基準骨子案では窪みや段差等も考慮されていたが、公道には想定外の様々な凸凹があり転倒の危険はぬぐえない

[ 駐輪場所 ]

警察庁の法令案には特定原付は交通反則通告制度と放置違反金制度の対象とあり危険行為を繰り返すと自転車同様に講習受講が命じられるとあるが、放置駐輪に対しては自転車同様に無法地帯になる恐れもある

【課題2】道路構造別に考える特定原付車両流入の課題

特定原付の運用は既存の原付一種よりも自転車に近いものだ。車道や自転車レーンのほか走行モードを切り替えれば自転車歩行者道も走れる。狭小路ならまだいいが、路上駐車が多くクルマの流れが速い幹線道路では多くの危険が想定される

【課題3】駐輪に関わる受入れ施設側の課題

シェアリング実証実験でのLUUPポートの様子。オフィスビル敷地内の植栽の間にテープで囲んだスペースを設けている

特定原付の駐輪がどう扱われるのかは不明だが、おそらく自転車同様となり放置すれば警告ののち市区町村から撤去されることになるだろう。施設側とすれば自転車置き場を共用する可能性もあるが転倒しやすいためトラブルの恐れもある

電動キックボードの課題は多い第一通行帯の危険を周知すべき

[第一通行帯で注意すべき点は?]

バスレーン走行時や二段階右折時には特に注意を

 注意すべきは第一通行帯の走行だ。原付一種を通勤等に使っている人はバス専用時間帯でのバスレーンでは特に気を付けたい。また、特定原付は二段階右折だが、基準を満たさない電動キックボード(一般原付)だと二段階右折禁止の交差点は小回りとなる。特定原付にはウインカーはあるがミラーはないので急な車線変更には注意しよう。

朝夕のバスレーンはカオスな状況になりそうだ。路線バスのほか、荷下ろし等で停車中のトラック、原付一種、自転車、そして電動キックボード等の特定原付が速度差のある状態で同じレーンを走るのだ

[求められるものは抑止力と教育]

罰則は自転車同様? 教育も必要

警察庁の法令案では特定原付の交通方法等の規定は自転車に近いものとなるようだ。従う信号は自転車と同様で、信号無視、遮断踏切立入り、酒気帯び運転、携帯電話使用、妨害運転などで違反(17類型)をすると運転者講習の受講命令の対象となる。自転車同様、一定期間で複数回の違反者が対象となり受講しなければ罰金となるだろう。

なんらかの運転免許を持っているならいいが、高校生らは免許を持たずに公に出る可能性も高い。上の写真は埼玉県での高校生に向けた二輪車講習だが、こうした安全教育の場も求められるだろう

Writer 田中淳磨(輪)さん

二輪専門誌編集長を務めた後、二輪大手販売店、官庁系コンサル事務所への勤務を経て独立。三ない運動、駐車問題など二輪車利用環境問題のほか若年層施策、EV利活用、地域活性化にも取り組む

➡ Facebook

関連記事