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[Thinking Time]㉗電動コミューターの実証実験が終了。秋から共同出資会社が社会実装へ

*BikeJIN vol.235(2022年9月号)より抜粋

大阪で行なわれていた交換式バッテリーの実証実験「eやんOSAKA」が終了
トラック調査、アンケート、ヒアリング等を通して得られた結果は
次なる社会実装「Gachaco(ガチャコ)」事業へと反映され
交換式バッテリーによる電動バイク普及へと進んでいく

交換式バッテリーの国内規格はホンダのモバイルパワーパック

 自工会による交換式バッテリーの実証実験「eやんOSAKA」ではホンダの電動バイク「ベンリィe:(原付一種)」と「PCX ELECTRIC(原付二種)」が使われた。昨年、国内4社が合意した交換式バッテリーの共通仕様はこれらのホンダ製電動バイクに使われている「モバイルパワーパック」そのものだった。普及加速に期待したい。

7月4日、日本自動車工業会(以降、自工会)により「電動バイクの課題である航続距離の短さ、充電時間の長さの改善には交換式バッテリーが有効である」を検証する実証実験「eやんOSAKA」の成果報告会が開催された。1年半、全6期にもわたる産官学連携の実験では、大阪大学の教員と学生を対象に電動バイクを用いたバッテリーシェアリングが行なわれ、先に挙げた電動バイクの課題は改善していけるという見通しを得た。

バッテリーシェアリングは社会実装の段階へ

前列左から大阪大学・土井教授、大阪府・多田課長、自工会・日髙委員長、achaco・渡辺CEO、ローソン・樋口シニアマネージャー、後列左から大阪大学・葉助教、経産省・大森自動車課長補佐、自工会・和迩常務理事、自工会・長田部会長、ALSOK山口氏

 ただし、航続距離に関しては交換式バッテリーのインフラ充実度に依存する。電欠の不安を取り除くためにはバッテリー交換ステーションがあちこちにあるのが理想だ。そこで今年4月、二輪業界は次なる社会実装のためのサービス事業者を立ち上げた。それが本発表会にも参加していたGachaco(ガチャコ)だ。 ガチャコは国内最大のエネルギー供給拠点数を持つエネオスと国内バイクメーカー4社が共同出資で立ち上げた会社であり、同社のBaaS(バッテリー・アズ・ア・サービス)プラットフォーム構想のもとリユース・リサイクルを含めた交換式バッテリーによる循環型プラットフォームの普及拡大を目指すことになる。

 こうした充電インフラの整備とともに、国内バイクメーカー4社は共通仕様バッテリーを採用した電動バイクの開発・市場への投入を急ぐという。 ガチャコによるバッテリーシェアリング事業はこの秋から開始され、2年間で1000台のバイクにサービスを提供する予定だ。ユーザーはこれまで同様に電動バイクをバイク販売店等から購入して所有するだけでなく、リース会社と契約したり、シェアリング事業者によるサブスクリプション契約等を利用して、必要な時だけ借りて乗るなどさまざまな所有・利用形態を選択できるようになる。

 いずれの形態にしろ、ユーザーは電動バイクの大きな課題のひとつであった高額なバッテリーを購入する必要がなくなる。4社共通仕様のバッテリーとして採用されたホンダのモバイルパワーパックe:は1個8万8千円(税込)もする。購入・所有するにしてもバッテリーを含まない車両本体価格はかなり抑えられるはずだ。 近年、AT小型限定免許や普通二輪免許取得者増の影響もあり原付二種スクーターが売れているが、この流れのあるうちに電動バイクを発売し、充電インフラの整備が進むだろう都市部から電動原付二種の販売を増やしていきたいところだ。そのためにも大阪府や東京都を始め、脱炭素施策による電動バイク導入を支持している自治体には、バイク販売店やユーザーへの電動バイク販売・利用におけるインセンティブ(購入補助金、減税、駐車スペースの拡大など)をぜひお願いしたい。

 特に、実証実験でも指摘されたように、駐車問題については、ガソリン車同様、バイクというモビリティを利用する上での根本的なインフラ問題であるから、公有地のデッドスペースを積極的に駐車スペースとして開放するなど、脱炭素、環境対応、サスティナブルといった視点で思い切った条例改正などに期待したい。

 ガチャコのような取り組みが成功を収めれば、いずれは国内のみならず、世界標準の交換式バッテリーとして電動バイクはもちろんのこと、多様なモビリティや機器に採用され、関連規格も含めて国際基準をリードしていくことができる。自工会は現在、日欧バイクメーカーが参加する交換式バッテリーコンソーシアム(SBMC:欧州コンソ)での活動を活発化させている。次代の〝乾電池〞規格は日本が中心となって世界に普及させていってほしい。

実証実験「eやんOSAKA」の概要

自工会、大阪府、大阪大学の産官学連携により進められ、電動バイクの課題である航続距離、充電時間という難題を交換式バッテリーで解決し普及を模索するという実験。大阪大学の教員・生徒を対象に近隣エリアのコンビニ等にバッテリー交換ステーションを設置し利便性などを検証した

・電動バイク利用上の困り事はバッテリーシェアリングで解消できる

・ノンユーザーへの新規需要も創出できる

バッテリーシェアリングの成果として、航続距離が延伸した、バッテリーが短時間で交換できた、車体とバッテリーを資産として分離できる、24時間交換可能なことにより、電動バイクがより身近かつ手軽になり新規需要創造にもつながった

電動バイクへの評価
電動バイクへの印象、興味、購入意向について調査。モーターによる静粛性、加速性能等による利用満足度は高く、今後の継続利用・購入意向も高かった
バッテリーシェアリングへの評価
バッテリーシェアリングの利便性が高く評価され、BaaS(※)への興味も増えた。課題は交換ステーションの密度を上げて航続距離を克服すること

※ BaaS = Battery as a Serviceの略。バッテリーをリースやシェアリングなどのサービスとして提供・利用する形態のこと。

※図は日本自動車工業会 電動二輪車委員会 電動二輪車普及部会による発表資料「成果報告㈰JAMAからの報告『eやんOSAKAの成果と今後の展開』」より抜粋・引用

アンケートに見る電動コミューター利用上の課題

アンケート調査では電動バイク利用上の不安も確認された。電動バイクならではの電欠のほか、目的地で停められないという駐車場不足や交通事故への不安などガソリン車との共通懸念も強かった

大阪大学の検証結果では、新たなモビリティシステムへのポテンシャルを確認でき、自治体・地域・企業などコミュニティ単位への導入も期待できるとのこと


電動コミューターの使われ方は、1〜2.5kmの往復及び6km範囲での回遊が主だった
交換場所の多様性が電動コミューターの使い方を多様に
電動コミューターの使いこなし、生活を変化させるには道や遠出体験への情報提供、安全運転への懸念払しょく、バッテリー交換場所の拡充によりポジティブな体験が必要

5社が共同出資する会社「Gachaco」がBaaSプラットフォーム構想を推進

ガチャコはエネオス、ホンダ、カワサキ、スズキ、ヤマハが共同出資して立ち上げた会社で、4社共通仕様バッテリーを用いて電動バイク向けバッテリーシェアリングサービスを提供していく。まずはこの秋、実証実験の地である大阪からスタートし、次いで東京でも事業を進める予定だ。バッテリー充電交換器は国内最大のエネルギー拠点でもあるエネオスのガソリンスタンド等に設置され、同社のBaaSプラットフォーム構想において使い切ったバッテリーもリサイクルされ、電動バイク以外のモビリティや一般家庭・事務所、災害・非常時対応、建設現場・農業、自動走行ロボ、アウトドア・レジャーなどの現場にも4社共通仕様バッテリーの利用を拡げていく考えだ

バッテリー交換インフラの普及は車両とバッテリーを同時に買わない時代の到来を意味する。車両本体価格が10万円程度下がる可能性もあるが、リースやシェアなど利用・所持形態が多様になると考えられる
Gachacoのバッテリーシェア・イメージ
便利で実用的なユーザーアプリ

※図はGachacoによる発表資料「会社概要と事業展開について」より抜粋・引用

Writer 田中淳磨(輪)さん

二輪専門誌編集長を務めた後、二輪大手販売店、官庁系コンサル事務所への勤務を経て独立。三ない運動、駐車問題など二輪車利用環境問題のほか若年層施策、EV利活用、地域活性化にも取り組む

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