[Thinking Time]㉟走れば走るほど課税される!?いま知っておきたい「走行税」
*BikeJIN vol.243(2023年5月号)より抜粋
22年10月の政府税制調査会以降、メディアで話題の走行税
電動車やハイブリッド車の普及によるガソリン税の減収により道路維持のために
必要だというけれど、バイクも対象になるのか? 走行税のいまを考える
欧州主導のBEV普及に暗雲内燃機関の可能性が現実的?
EV化を主導してきた欧州連合(EU)の足並みが乱れ始めた。2035年以降のエンジン車の新車販売禁止法案を掲げてきたが3月13日の会議でドイツを含む7カ国が合成燃料による内燃機関車を認めるべきと反対姿勢を示した。ドイツ勢とフランス勢が対峙することになり欧州のEV化には暗雲が垂れ込んでいる。
22年10月に開催された政府の税制調査会以降、その是非が問われているのが走行距離課税(以降、走行税)の導入だ。自動車やバイクが低燃費化、電動化など環境対応を進めるなかでガソリン税(揮発油税)の減収が続き、道路財源の確保が危ぶまれているため、その代替財源として検討されているのだ。現在の議論の範疇では二輪車は大きなウェイトを占めていないが、我々バイクユーザーも今から自分事として考えるべき問題だろう。
公平・中立・簡素であるか?本末転倒の可能性も
月にはさっそく日本自動車工業会が会見の中で断固反対の姿勢を示した。ただでさえ世界一高いと言われる日本の自動車関連税だが、さらに走行税を加えるとなれば反発は必至だ。自工会は抜本的な税制の見直しを訴えると共に「もっと国民的な議論をすべき」と冷静な対応を促した。
海外に目を向ければ、すでに走行税を実施している国もある。ニュージーランドでは税金がかけられていない軽油を使用するディーゼル車や大型貨物車にRUCと呼ばれる走行距離課税が課せられている。また、実証実験についてはアメリカの各州やEUの各国で長期的に実施されている。これらの多くの国ではガソリン税に加える形で走行税が徴収されている。
これは税金のお話だ。環境問題に端を発するとは言え、税金への考え方、それにまつわる法律の考え方には各国でかなりの差がある。日本やニュージーランドのような単一国家ならともかく、アメリカのような連邦国家だと州ごとに法律が異なり法システムのパッチワーク化を懸念する声や「移動の自由」の権利のもとに反対意見も根強く残っている。 日本においては、税の基本的な考え方として「公平・中立・簡素」という3つの原則があるが、走行税の議論についてもこの考え方に基づいて行う必要があるだろう。特に、テスラやプリウスといったブランドのおかげで、ハイブリッドカーやEV車を購入してきたのは中間層や富裕層というイメージがある。
自動車関連税は取得・保有・利用時の車体課税と走行時のガソリン税で徴収されるが、エコカーと呼ばれるクルマの多くは車体課税の段階で多くの減税や購入補助金を受けてきたほか、道路利用の待遇等でもインセンティブを与えられてきた。垂直的公平の観点からも、まずは負担能力の大きい彼らから徴収すべきという意見ももっともだろう。
地方に目を向ければ、軽自動車や原付一種・二種といったバイクはまさしく生活の足だ。同じ道路を使う者とは言え、水平的に徴収すれば地方在住者の生活を直撃してしまうだろう。ユーザーの経済力という観点からも「公平の原則」に反することにはならないだろうか。また、海外の事例のように道路への負担を考慮して大型貨物車から課税すれば、運送事業者の経費負担が増し、あらゆる物価を高騰させるだろう。
原付一種のような小さなモビリティからも徴収するとなると、実際の徴収金額が生活にどの程度の影響を与えるのかはともかく、消費者マインドが落ち込んで、電動アシスト自転車のような非課税モビリティに移行する可能性もある。これは税制が、個人や企業の経済活動における選択をゆがめないとする「中立の原則」に反しているようにも思える。
また、走行税を徴収するには距離計測器の装着が必要と思われるが、バイクユーザーの頭に浮かぶのはETC車載器の悪夢だ。クルマとの保有台数の差は、機器の開発・販売・使用のすべてに表れ、その後の普及を難しくした。走行税導入の際に計測報告機器が必要になるとしても、バイクユーザーが後塵を拝することはあってはならない。それができないなら、税制度そのものが複雑だと認識されるだろう。税の仕組みをできるだけ簡素にするという「簡素の原則」についても危ういのだ。
今後、二輪業界は議論に備えて準備していくだろうが、原付一種ユーザーが電動アシスト自転車に乗り換えるきっかけになるようなことがあっては税収面からも本末転倒であることを訴えてほしい。
電動化やシェアリングで減収!道路財源を補填するのが目的
走行税が議論されている理由は、ハイブリッド車やEV車の普及、カーシェアリングサービスの浸透などによりガソリン税(揮発油税)が減収しているからだ。道路の新設や維持のためには新たな財源が必要であり、走行税も財源候補のひとつ
海外ではすでに導入済みの国もある法律の考え方や国家の形も影響
EV化を見据えて走行税の実証実験を行う国は増えている。EU諸国やオーストラリアなどでは「原因者負担の原則」等の考え方により大型貨物から行う国が多いが、施策内容には法律の考え方や連邦国家と単一国家の違いなども見て取れる
自工会は11月の会見で“断固反対”の姿勢
政府税制調査会の報道を受け、11月17日の自工会記者会見ではエコカー減税の延長要望に続いて、走行税に関して「大変問題があると考えている。電動車の普及にブレーキをかけるものであり、地方在住者や物流事業者の税負担も増える。国民的議論がないままでの拙速な導入は断固反対する(永塚誠一副会長)」とコメントした
政治の現場での「バイクと税制」に期待
電動車普及による税収への影響という意味ではほぼ関与していないバイクだが、役所としては軽自動車税の枠組みでくくり、ほとんど議論されずに適用される恐れもある。これまでも雑な扱いを受けてきた二輪車税制だが、公明党オートバイ議員懇話会らの尽力により好転した。登録車(普通車)以上の細やかな議論に期待したい
バイクへの走行税導入は難しい?
現状では、バイクへの走行税導入というのは現実的ではないだろう。もちろん導入された場合のシミュレーションや議論は進めておくべきだが、これらの理由によりガソリン税の代替財源としてのメリットよりもデメリットのほうが多いと考えられるからだ
①電動化率が極端に低い
クルマのサブスクリプションサービス「KINTO」実施のアンケート(2022年)によると普通車のうち電動車保有率は8.2%、ハイブリッド車は37.3%でどちらも前年比アップだった。一方のバイクは保有率を出せる状態になく、シェアサービスも同様の状態だ
②元々低燃費でエコな乗り物
原付一種で50〜70㎞、二種でも40〜60㎞、軽二輪でも30㎞オーバーも珍しくないほどバイクは低燃費でエコな乗り物だ。一種の生活移動圏は半径2㎞。代替財源たりうるだろうか
③非課税モビリティへの移行懸念
駐車問題により配達事業者が原付一種から電動アシスト自転車に切り替えたように非課税モビリティへの移行を加速させる懸念もある。電動キックボードが課税対象となるかにもよるだろう
④距離計測用車載器の問題
走行距離を計測・報告するためのGPS車載器を搭載する場合、ETC車載器同様に積載スペース・振動・全天候対策といった問題で開発が難航し、価格にも転嫁されて導入の障害となる恐れもある
Writer 田中淳磨(輪)さん
二輪専門誌編集長を務めた後、二輪大手販売店、官庁系コンサル事務所への勤務を経て独立。三ない運動、駐車問題など二輪車利用環境問題のほか若年層施策、EV利活用、地域活性化にも取り組む