タンデム・ロード〜地球一周ふたり旅を夢みて③

祖父のカブから始まった“冒険”が、やがてパートナーのアユミといく地球一周のバイク旅となり、ドキュメンタリー映画「タンデム・ロード」へと結実した。バイク旅と人生の交差点で見つけた夢と成長の軌跡を描くストーリー

文/滑川将人

バイク旅のテーマにしたことは「世界中の人たちと出会うこと。そして生きて帰ってくること」

海外旅行すらまともにしたことがない、英語も喋れない旅の経験値のない僕たちにとってロシアからの旅が始まって、1番頭を悩ませたのが、「いかに人を信じるのか」ということでした。

日本を出発しロシアに入り3000キロを越え整備をするためにチタという街に滞在しました。
車の用品店の前でバイクの整備をしているとアレキサンダーという同年代くらいの男性に出会いました。

彼は率先して僕達のバイクの整備を手伝ってくれたうえに家に招待したい、泊まっていけと誘ってくれました。
とても良いやつなんだけれど、彼を信じて着いていって良いものか、、、しかも銃持ってるし、、、

僕は旅に出る前に日本で冒険者の方々にどうやって、人を信じて良いのですかと聞いてまわりました。

そこでの言葉は、初めて出会った人とは何かを一緒に行動する前にじっくり時間をかけて、相手と話をする。そして、家族ぐるみで交流できるかのかが大事だと。

そして僕たちが実感したことは相手がバイクに乗っているかも重要、バイクに乗っている人に悪い人はいなかった(笑)。世界中でライダーとの出会いには幾度となく助けられました。

ホテルに泊まって、部屋にこもっていれば、安全ですし、体力の消耗も抑えられる、走行距離も稼げます。けれども工程をこなすだけでは旅をする意味がないのです。

アレキサンダーとその家族との出会いは生涯忘れることのない素晴らしい出会いになりました。

「どんな旅がしたいのか?」という問いかけを常にイメージするようになりました。

427日間の間バイク旅、僕たちの感じた景色ベスト3

第3位 ノールカップ(ノルウェー) 

ヨーロッパ最北の地。眼下には北極海が広がる。

白夜、こんな美しい夕日を見たことがない。宇宙に浮かぶ夕日、そんな感じ。

なぜか岬に大きな「あゆみ」の石碑が!!

第2位 パタゴニア地方(チリ、アルゼンチン) 

アウトドアブランドのロゴとしても有名な地、世界中の旅人が目指す、風の大地。

風に刻まれた大地を見ると地球の歴史をダイレクトに感じられる。

自身も地球に在る生命なのだなと実感する。

  • 第1位 モンゴル

大草原にポツンとゲル(伝統的な移動式住居)を発見。小雨が降り出して「怖いから隣にテント立てていい?」とお願いする。やがて子供たちが遊びにきて馬に乗せてくれる。

その瞬間、雲が割れ、光が差し見たこともない巨大な虹がふたつ。

曼荼羅の世界に迷い込んだような、この世でない世界に足を踏み入れてしまったと感じた。

僕たちにとってバイク旅をする醍醐味

バイク旅は、飛行機やバスと違って、目的地に連れて行ってもらえる旅ではない。

バイクは自身で決めた目的地までを自走しなければならない。思い通りにいかない事だってよくある。

飛行機やバスが、目的地に到着する「点の旅」だとすると、バイク旅はスタート地点から目的地までを自走して結ぶ「線の旅」というイメージ。

ルート選択は自分次第。

風の匂いが変わる、そうするとやがて国境が変わる、そして人が変わってゆく、そんな文化のグラデーションを肌で感じることができる。

そして僕たちは今この瞬間にも時代が動いているというような激動の「時代の風」を感じながら走った。

二人の旅の形を探す〜 ドキュメンタリー映画『タンデム・ロード』 

僕達の旅の目的はバイク旅の一部始終を映像にのこして、ロードムービーを作ること。

バイクでアンデス山脈を越えるよりも、アタカマ砂漠を抜けるよりも、二人の旅の形を探す方が難しい。

僕たちの旅のスタイルはバイクでタンデム。運転している自分よりも、後部シートに乗っているアユミの方が過酷なのだ。一日中、何もない地平線に消えゆく一本道を5、6百キロ走行するなんて日もある。

北極圏に近づけば寒さ、季節の移り変わりもダイレクトに体力を奪う。

旅の過酷さが日々増すほどに毎日些細なことで喧嘩が絶えなくなる。どこに野宿するかとか、荒野の中ご飯をどうするかとか。日本に帰りたいとか、、、

どんなに嫌でもタンデムである以上は毎日、体を寄り添いバイクに乗り前に進まなければならない。

それでも、ふたり旅を続けるのは、人との出会い、美しい景色、美味しい食事、旅の感動を共感できることが、ふたりの救いになっていることを体の芯で感じているから。

あまりにも美しい景色を見るとその先にあるだろう景色を見てみたくなってしまうのだ、沢山の素晴らしい出会いも待っているはずと、、、

守ってあげなければならない相方だったアユミが、やがてバイク旅を通して命を預け合う相棒になり、気がつけば僕自身が助けられ守られていることを知るようになる。

数えきれない出会いがあった。日々一期一会、世界中の家族の輪に入れて頂いた。永遠と親が子を思い、また愛する人を想う気持ち、おいしい食事を共にする喜び。

どんな異世界だろうが、信じるものが違おうが、肌の色が違おうが人の本質は変わらない、そんな頭では理解している当たり前な事を真実として目の当たりにすると心が震えた。

僕たちの映像は、人見知りで、人と関わるのが苦手な普通の女の子「アユミ」がいきなり世界にバイクで飛び出して、人と世界と出会って成長しようともがく物語。

世界中の家族の輪の中で救われ、その中で自身の故郷を思い、やがては自身の家族を形成していくドキュメンタリーロードムービー。

映画を観て頂いた方には僕達と一緒になって旅を体感してもらいたい、共に旅をする3人目の登場人物になってもらいたい、そんな思いがあります。

目の前にある道をたどると世界と繋がっているという、ささいな日常のみなさんとの旅物語。

ドキュメンタリー映画「タンデムロード」7/12(土)から大阪・シアターセブン7/19(土)から東京・ケイズシネマ他、全国のミニシアターにて順次公開予定

映画監督 滑川将人さん
茨城県の山間で育ち、幼少期より祖父のバイクで自然の中を走る体験を通して「冒険」の感覚を育む。3歳のとき、祖父との遠出中にその死を目の当たりにし、一人で山道を歩いて帰った記憶は、映像表現の原風景となっている。
地元には映画館がなく、図書館のビデオブースで観た『スタンド・バイ・ミー』が映画制作を志すきっかけとなる。上京後、映像業界に入り、映画監督として活動を開始。
バイクとテントを携えた旅をライフワークとし、旅先で出会ったアユミと共に、バイクで世界を巡る旅をスタート。人生と風景が交差する瞬間を、映画を通じて描き続けている。

タンデム・ロード〜地球一周ふたり旅を夢みて
タンデム・ロード〜地球一周ふたり旅を夢みて②

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