
ブレーキタッチにこだわればバイクはもっと楽しくなる!|気になるブレーキパッドを一斉インプレッション【DAYTONA/ENDLESS/RK JAPAN/VESRAH/ZCOO】
ブレーキタッチの好みは人それぞれ異なるもの。そのタッチの違いに大きく影響するのが、ブレーキパッドだ。製品の特性によって、ブレーキングの“苦手”が解消されることもあるので、ブレーキパッドは単なる消耗パーツではなく、調整パーツと言える。今回は、レーシングライダーの高田速人さんが5ブランドのパッドをテスト。それぞれのタッチの特徴や効き具合をインプレッションしてもらった。
ブレーキパッドの基礎知識
好みのタッチが得られればブレーキが楽しくなる!?
現代のバイクでサーキットをファンライドしていて、「絶対的な制動力が足りない」ということはまず無いだろう。しかし、ブレーキのタッチや効き方が自分の好みに合わない事はよくある。そこでオススメしたいのが、ブレーキパッドのカスタムだ。
パッドは「減ったから交換する」という人がほとんどだろうが、じつは「手軽な調整パーツ」とも言える。製品によってタッチは大きく異なるし、ライダーのレベルによっても扱いやすい製品は変わってくるのだ。
また、リプレイス品はライフが長い製品が多く、耐久レースを無交換で走れる物も存在する。通常の使用なら純正同等かそれ以上の耐久性があるので、ある意味コストパフォーマンスの高いカスタムパーツなのだ。
サーキット走行において、多くのライダーが苦手意識を持っているのがブレーキングだ。その不安を少しでも解消できれば、スポーツライディングはもっと楽しいものになる。
ブレーキパッドの種類
製法としては大きく2つ。昔からあるレジン系は、アラミド繊維に金属粉などを混ぜ、樹脂(レジン)を結合材として熱成型する。金属成分が50%を超えるとセミメタルパッドと呼ぶこともある。近年主流のシンタード系は、銅を基材としてカーボンやセラミックなどの摩擦向上材を混合し、高圧・高温で焼き固めて(焼結)製造。高温に対する耐フェード性の他に、低温時の安定性やライフの長さもメリットだ。
レジン系パッド
樹脂、アラミド繊維など
他の呼称:セミメタル、オーガニックなど
街乗り向き|摩擦力が一定で扱いやすい|入力初期は穏やかに効く|雨天時の摩擦力が落ちる|安価
メタル系パッド
金属、カーボンなど
他の呼称 : フルメタル、シンタード、焼結など
スポーツ走行向き|雨での性能変化が少ない|入力初期から強く効く|ディスクへの攻撃性が高い|高価
レジン:熱プレスで焼き固める
メタル:高温で密着させて成型


パッドの効力を見分ける目安
純正ブレーキパッドのバックプレートには必ず(リプレイス品は一部)、アメリカのAMECAという自動車部品の登録機関が定めた摩擦係数の評価コードが記載されている。C ~Hのアルファベット2文字で表記され、常温時と高温時の摩擦係数を示す。つまり、最高級グレードは「HH」となる。一般的に、純正パッドは摩擦係数が高いと摩耗も早いが、リプレイス品は摩耗が少ない材料を採用し、ライフも長めだ。

評価コード | 摩擦係数 |
---|---|
C | 0.15以下 |
D | 0.15~0.25 |
E | 0.25~0.35 |
F | 0.35~0.45 |
G | 0.45~0.55 |
H | 0.55以上 |

パット残量の確認は頻繁に
バイクメーカーは残量1mmで交換としているが、性能とマージンを考えると残量2mmを切ったら交換するのが安心。特にサーキット走行ではツーリングよりも高温になりやすい。そのためパッドが減り過ぎていると制動力やタッチが悪化するだけでなく、フェードやベーパーロックなどのトラブルを起こして「まったく効かなくなる」危険も増えるので、走行する1週間くらい前までに、しっかりと点検しておきたい。


面取りや鳴き防止材は必要?
低速時や停車寸前にキーッと響くブレーキの“鳴き”。「壊れているんじゃないか?」と不安にもなるが、鳴きの原因はパッドの共振によるもので、じつはブレーキ性能自体にはほとんど影響しないので、あまり神経質になる必要なない。とはいえブレーキをかけるたびにキーキー鳴くのが不快なら、摩擦面の角を削る“面取り”などを試してみよう。パッドとディスクの馴染みが早くなり、鳴きが収まりやすくなる。

メンテナンスの際は“アタリ”に注意
ブレーキキャリパーに汚れが溜まると、本来の性能を発揮できなくなるし、好みのタッチではなくなる可能性もある。そのため、キャリパーの清掃は非常に重要だ。清掃時にパッドを外した場合、元あった位置に組み直すのが基本。それぞれのパッドは、ピストンによる押され方や、ディスクとの当たり方が微妙に違うので、異なる位置に組むとしばらくの間、効きやタッチが変わってしまう。


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DAYTONA:すべてが中間的な性能で誰にでも扱いやすい

レバーに入力し始めてからフルブレーングに至るまで、制動力の立ち上がり方がフラット。非常にクセのないパッドです。温度依存性が低く、ブレーキング中に急激に制動力が立ち上がるようなことがありません。コントロールしやすいですね。
温度変化によって効き方やタッチが変わりにくいので、ブレーキへの負荷が比較的小さい小排気量車ではメリットが大きいでしょう。微妙なレバー操作に対して、制動力がリニアについてきますから。実際にミニバイクレースで愛用者が多いと聞いたこともあります。
フラットな特性の裏返しで、限界領域の制動力に物足りなさを感じる人がいるかもしれません。ブレーキングの〝奥〞で、ガツンと効くパッドを好む人は、〝ブレーキが効いている〞感覚に安心感を覚えていることが多いですが、その〝制動感〞と、実際にマシンを止める〝制動力〞は必ずしもシンクロしません。このパッド、制動感は弱目に感じるかもしれませんが、制動力はしっかりと確保されています。


問/デイトナ 0120-60-4955 https://www.daytona.co.jp/
ENDLESS:レバー入力が弱い段階でのコントロール性がピカイチ

コントロール性が、素晴らしいですね。特に、軽くレバーに指を当てるような、微妙な入力レベルのコントロール性は非常に優秀。
例えば、バイクをバンクさせた状態で、もう少しだけ車速を落としたい場面では、コントロールが難しい製品もあります。また、制動力の立ち上がり方が急なパッドでは、軽くブレーキをかけたつもりでもマシンが起きてしまうことも。
エンドレスのこのパッドなら、マシンの不要な挙動を出さずにスピードコントロールが可能でしょう。制動力の立ち上がり方もフラットで、レバー入力と制動力がリニアに連動しています。そこもコントロール性の高さのポイントです。もちろん、絶対的な制動力も高い。
気になるとしたら、温度依存性の問題なのか時折制動力に波が感じられたこと。ただ、非常に微妙な領域の話です。コントロール性の高さが生み出すアドバンテージは絶大です。ブレーキが苦手と感じている人なら、一度試してみて欲しいですね。


問/ワイルドハウス(館野商事) TEL03-3963-0852 https://www.wildhouse.jp/ エンドレスアドバンス TEL0267-68-6888 https://www.endless-sport.co.jp/
RK JAPAN:初期の立ち上がりが鋭くディスクへの食いつきも良好

初期から気持ち良く効くパッドですね。ブレーキの温度上昇を意識しなくても、気楽にブレーキングできます。そうした意味では、純正品のパッドに近いキャラクターですね。どんなシチュエーションでも効かせられるので、安全性と汎用性に優れています。ですが、当然純正よりRKの方が絶対的な制動力は高い。
ブレーキをリリースする時、ローターからパッドの離れ方にクセを感じます。レバー入力を減らし始めた時に、まだ制動力が残る傾向がある。グッと握り込んだ後のことですから、パッドとローターがかなり高温になっている時の症状です。低温時の制動力を重視した分、高温時に若干そういう傾向があるのかもしれません。
ただ、それは限界域の話ですし、かなりのハイペースでないと、気になることはないでしょう。純正パッドのフィーリングが好きな人が、初めて社外品にリプレイスするならば、丁度良いパッドだと思います。


問/アールケー・ジャパン 0120-127-254 https://mc.rk-japan.co.jp/
VESRAH:安定性に優れていてコントロール性の高さも◎

べスラのパッド全般に感じることなのですが、バックプレートがしっかりしているように思えます。具体的にはタッチにも〝シッカリ〞した感触がある。
パッドというと、摩擦材ばかりが注目されがちですが、バックプレートも大きな役割を果たしています。例えば、バックプレートが反っていたら、ローターとパッドの摩材が触れる面積が減ってしまいます。ピストンで押さえつけるので、最終的には摩材の全面がローターに当たるのですが、最大の制動力を発揮するまでにタイムラグが生じてしまう。制動力の立ち上がり方が不安定になったりもします。その点、ベスラのパッドは効き方が安定していて、硬めの〝シッカリ感〞のあるダイレクトなフィーリングです。
ZD-CTは基本的にストリート向けということで、初期制動が強めです。スーパーRJL XXはサーキット用というだけあり、ハードブレーキングを繰り返しての高温状態の時こそ、制動力もコントロール性も良好です。高温時のコントロール性は好印象ですね。ただ、走行ペースが遅くブレーキが温まらない低温時はZD-CTの方が扱いやすい。用途や走行ペースによって、使い分けたいですね。




問/ ベスラ TEL03-3356-2271 https://www.vesrah.co.jp/
ZCOO:制動も操作性も秀逸だがビギナーには難しいかも

制動力もコントロール性、どちらも申し分なく高い。ブレーキは、どうしても温度変化によって効力に変化が出てしまうものです。ジクーもその点に変わりはないのですが、制動力が変化する幅が小さい。長いストレートを走りきっての、ブレーキシステムが冷えた状態でのハードブレーキングでも、短いスパンでゴー&ストップが繰り返されるような、高温を保ったまたのブレーキングでも、同じようなフィーリングでレバーを握ることができます。
ネガティブに感じる部分は、ほぼありません。すべての性能が高い次元でバランスしています。ですが、ビギナーには難しいパッドかもしれません。誤解を恐れずに言えば、制動力が高過ぎるのです。パニック気味のブレーキングでは、転倒するとまではいかなくても、マシンの挙動を乱す可能性は大きい。ある程度以上のライディングスキルとサーキットでの経験があり、タイムを削りたい、レースでもっと上を走りたいと考えている人にお勧めしたいですね。
腕に覚えのある、上級者向けのパッドだと思います。使いこなせるのなら、強力な武器になります。


問/ 岡田商事 TEL03-5473-0374 http://www.okada-corp.com/
まとめ:ブレーキパッドは自分の感性に従って選ぶ
ブレーキパッドは、市販車をレーシングマシン化する時に、最初に変えるパーツのひとつです。スーパースポーツであっても、市販車である以上は一般公道での走行は無視できません。ブレーキパッドに関しては、ストリートで多用する速度域で性能を発揮するタイプが選ばれていることが多いのです。
リッタークラスのスーパースポーツでレースを走ると、300km/hからのフルブレーキングが必要になります。市販車に純正装着されているパッドでは限界性能が足りません。限界領域での絶対制動力とコントロール性が求められます。逆に低速域での性能は無視できます。レースは速く走ることが目的ですから。
自分がレースでの使用を考えた時、ブレーキパッドを選ぶ基準は、スペックや他人の評価ではなく「自分のフィーリングに合うか否か」です。レバーへの入力に対し欲しい制動力があるか? 欲しいコントロール性を発揮するか? を考えます。これは、あくまで感覚的なものです。

マシンのセットアップを進める時、「タイムは出るけれど、乗りにくいセット」「タイムは遅いが乗りやすいセット」があった場合は後者を選びます。乗りやすい方が思い切ったトライができますし、伸び代があると考えているからです。ブレーキパッド選びも同じで、自分が乗りやすいかを重視しています。
これはサーキットをファンライドする皆さんでも同じ。自分が気持ち良く走れることが一番大切です。パーツを変えて、その違いを体験するのって楽しいですよね? ブレーキパッドは、バイクパーツの中では安価な方ですし、いろいろ試して自分好みのパッドをみつけてください。
気をつけて欲しいのは、交換作業や整備。ブレーキは公道を走るバイクであれば、作業者に資格が必要な重要保安部品ですから。まずは安全最優先、その上でブレーキパッド選びを楽しんでください。
(高田速人)