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カワサキ Z900RS&Z650RS|ストリート&サーキットで再検証【似て非なるRSの、譲れない存在意義】

’18年モデルとしての新規導入以来、トップセールスを記録し続けてきたZ900RSと、“ザッパー”の再来と言われて’22年4月に国内デビューを果たしたZ650RS。この2台のZ-RSに与えられたスタイリングの雰囲気はかなり似ているが、エンジンの気筒数から足まわりなどの装備まで、比べてみれば徹底的に異なっている。ではその乗り味はどう違うのか。ストリートとサーキットであらためて比較検証した

PHOTO/S.MAYUMI TEXT/T.TAMIYA
取材協力/カワサキモータースジャパン 0120-400819 https://www.kawasaki-motors.com/mc/
【中野真矢】レーサー現役時代はヤマハ、カワサキ、ホンダのマシンでMotoGPにフル参戦。現在は二輪アパレルブランドの56design を主宰し、多彩な二輪メディアで活躍している
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【田宮 徹】二輪媒体などで執筆活動を続けるフリーランスライター。サーキット走行からファンライドモトクロス、ロングツーリングまで、幅広いジャンルでバイクを楽しみ続けている
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同じように見えるが、車格からしてまるで違う

田宮:Z900RSは、かつてのZ1やZ2の雰囲気を纏い、’18年に新登場。昨年までの5年間、排気量400㏄超クラスでは国内トップセールスをマークしています。そして昨年、第2弾としてZ650RSもデビューしました。

中野:Z650RSは「ザッパーの再来」なんて言われましたね。恥ずかしながら、それまでザッパーというバイクの存在を知らなくて、発売されたときに何のことか調べましたよ!

田宮:Z1の弟分として、より軽快で扱いやすく、手頃な価格で’76年に発表されたZ650のことですね。もっとも当時の650は、Z1やZ2と同じく空冷4気筒でしたから、2気筒を搭載する現代のZ650RSとはだいぶ違いますけどね。

中野:とはいえ、Z900RSという人気モデルの存在があって、より軽快で廉価なZ650RSが後追いでデビューという流れはそっくり!

田宮:装備もかなり違うのに、全体的な印象が似ている点も、’70年代のZ1とザッパーの関係に近い。

中野:近年のカワサキはデザインがとても秀逸ですが、このシリーズにもそれが本当に感じられます。

田宮:でも、両車を走らせてみるとまるで違いますよね?

中野:そうなんです! スタイリングは似ているのに、完全なる別物。どちらの方が絶対にいいとか悪いではなく、セールスポイントや得意なフィールド、あるいはそれに基づいて所有するのに向いていると思われるライダー層が全然違っています。

田宮:そこで今回は、あらためてこの2台をストリートとサーキットで走らせて、それぞれの魅力を探ってみることにしたのですが……。まず大前提として、またがった段階で、印象がかなり異なりますよね?

中野:どちらもティアドロップ型の燃料タンクで、遠くから眺めていると同じようなボリューム感に思えるのですが、シートにまたがるとZ650RSのほうが圧倒的にコンパクト。加えてハンドル幅も狭いので、走らせる前から「扱える!」という雰囲気が伝わってきます。

田宮:対してZ900RSは、大柄で重厚感のある印象。スペックを調べると、全長やホイールベースや車重がそれほどあるわけではないのに、〝ビッグバイク感〞があります。大きなバイクを操っている感覚が得られ、それだけで満足できるユーザーもいるのではないかと……。

中野:ややワイドに設定されたハンドル幅や、グラマラスな燃料タンクがそう感じさせるのでしょう。こういうところも、巧みですね。

市街地でとくに生きる650の軽快な乗り味【ストリート編】

田宮:ここからは、ストリートでの走りを再検証していきたいのですが、乗り比べてみてどのような印象を持ちましたか?

中野:Z900RSには重厚感、Z650RSには軽快感や手軽さをまずは強く感じます。これに関してはサーキットでも同じなのですが、ストリートではZ650RSの存在意義がより高まる印象。1台あるだけで、通勤に使いやすいし、ツーリングも楽しいし、高速道路もそれなりに走るし……と、オールマイティにバイクライフをカバーしてくれそうです。

Z650RSのエンジンは高回転域で意外と伸びやかで、低いギアを使えば高速道路でも余裕の加速。対してZ900RSは、低中回転域でもトルクフルだ
Z650RSのエンジンは高回転域で意外と伸びやかで、低いギアを使えば高速道路でも余裕の加速。対してZ900RSは、低中回転域でもトルクフルだ

田宮:レトロなルックス重視かと思いきや、まとまりがよく汎用性にも優れています。ファッションと実用をどちらも満足させてくれるのがいいですよね!

中野:まさしくその通り。感覚的には2気筒250㏄と同じような車格なのに、当然ながらパワーは250㏄よりあるので、「ツーリングや日常の移動で重いバイクはイヤ」なんて人にも最適だと思います。

田宮:普通二輪免許クラスからのステップアップとか最初に購入するバイクにも向いているはずですが、逆にベテランライダーのダウンサイジング用にもちょうどいいということですね!

軽快で適度なパワーのZ650RSは、狭い道に踏み込む勇気を与えてくれる。隠れた絶景を見つけるための相棒にもいい!
軽快で適度なパワーのZ650RSは、狭い道に踏み込む勇気を与えてくれる。隠れた絶景を見つけるための相棒にもいい!

中野:敢えてZ650RSのネガを挙げるならエンジン音。Z900RSがかなり迫力ある排気音ということもあり、どうしてもパラレルツイン特有の音質が……。とはいえ、サーキットで乗ったときとは違って、前後サスペンションやブレーキの性能はまるで気にならず、公道の速度域や走りとマッチしていました。気軽に乗りたくなるパッケージです。

田宮:対してZ900RSは、エンジン音や車体のボリューム感も含めて、迫力を楽しめるバイクですよね?

中野:ストリートで乗ると、とくにそれが際立ちます。いい意味での重厚感が、大きな魅力です。

田宮:まさに〝ビッグバイク〞という手応えで、扱いやすいミドルクラスのZ650RSとは大きく異なります。

Z650RSと比べたら公道での自在感は少ないZ900RSだが、それでも素直なハンドリングにより市街地からワインディングまでスムーズに走れる
Z650RSと比べたら公道での自在感は少ないZ900RSだが、それでも素直なハンドリングにより市街地からワインディングまでスムーズに走れる

中野:でも、慣れてくるとZ650RSと同じように公道をスイスイと走れてしまうのがスゴいところ。正直なところ、それなりに重量もあるので、毎日のように乗るならZ650RSのほうが気軽でいいのですが、やっぱりZ900RSには楽しめるパワーも備わっていて、所有欲も満たしてくれます。

田宮:Z900RSの場合、トップギアでの100km/h巡航で4000rpmくらい。このあたりの回転域で、多めにスロットルを開閉しながら走るのも気持ちよかったです。

中野:サーキットだと、4気筒のわりには上が伸びない感じもあるのですが、低中回転域重視にセッティングしてあるので、公道で使う回転域で扱いやすさと気持ちよさがあります。これはコーナリングも同じで、サーキットのフルバンク状態だともう少し曲がってほしいと感じる瞬間もあるのですが、公道のバンク角と速度域では曲がりやすさがあります。

田宮:Z650RSと同じくZ900RSも、ストリートバイクとしてよく考えられている感触がありますよねえ。

中野&田宮ともに感心したのが、Z650RSのフレンドリーな乗り味。重厚感たっぷりのZ900RSに対して、650は非常にコンパクトな印象で、持て余す感覚が一切ない

中野:Z900RSが売れている理由はスタイリングだけではなくて、試乗してみて「これなら操れる!」とか単純に「楽しい!」と感じた人も多いからに違いないと想像しているのですが、あらためて公道で乗ってみて、この考えは間違いじゃないと確信しました。ただ、公道でより見直したのはZ650RS。1台持っておくならこれでいいかも……と思えてきました。手に入れたら、少しカスタムして、ウエアにもこだわって乗りたいですね。

次ページ【サーキット編】

Z900RSの排気音が乗れてる感を演出

田宮:公道ではZ650RSのジャストサイズなフィーリングに驚かされましたが、サーキットではいかがでした?

中野:どちらのバイクも、重視しているのはストリートユースで、それを感じさせる走り。Z900RSは水冷インラインフォーエンジンですが、4気筒のわりに高回転域が伸びません。でも、だからサーキットではダメということではなくて、フラットに立ち上がる出力特性のおかげで、筑波サーキット・コース1000や袖ケ浦フォレスト・レースウェイあたりならとても楽しくファンライドできます。

田宮:実際、中野さんと比べてライダーのレベルがだいぶ低い僕でも、高回転域をビシバシ使ってライディングできて、とても気持ちいいです。これがリッターSSだったら、気温10℃以下の真冬にそこまで開けられないはず……。

中野:ピットで見ていても、排気音に迫力があって、高回転域を使い切りつついい感じで走っているように見えました。

「公道と同じくサーキットでも、スゴそうなバイクを簡単に操る上手な人を演じられる」と、田宮はZ900RSの走りを評価する
「公道と同じくサーキットでも、スゴそうなバイクを簡単に操る上手な人を演じられる」と、田宮はZ900RSの走りを評価する

田宮:そう考えると、Z900RSはサーキットでハッタリが効く!?

中野:たしかにそういう要素もありそうですね。個人的には、7000〜8000rpmの力強い排気音が快感。それから、スロットルを戻した際、わずかながら「バラバラバラ……」という荒々しい音も混ざるんです。サウンドチューンの結果だと思うのですが、やりすぎている感じはなく、味つけが絶妙です。

田宮:味つけということではハンドリングも素直で扱いやすく、大型バイクを颯爽と操る上手なライダーをバイクが演出してくれます。

中野:車体の前後重量バランスが絶妙で、それが乗りやすさにつながっています。SS並みにラップタイムを削るような走りをしはじめると、フロントが曲がらないなどの感触もあるのですが、その手前までの走りなら、音の太さと車体の安定感で、サーキットでもかなりの気持ちよさがあります!

田宮:対してZ650RSは、入門用なのかなあ……と。

中野:もちろんZ900RSとZ650RSでは馬力差もかなりありますが、前後サスペンションがかなり動くというのも、そう感じさせるのかも。逆に公道でZ650RSがとてもいいバイクに感じられた要因のひとつは、穏やかな操作でもピッチングをつくれる点にあるわけですが。

限界は低めだが、学びの要素も多いZ650RS。「サーキットでは、同じような排気量クラスのバイクと走ると楽しそう」と中野さん
限界は低めだが、学びの要素も多いZ650RS。「サーキットでは、同じような排気量クラスのバイクと走ると楽しそう」と中野さん

田宮:公道以上に、Z900RSとZ650RSでキャラクター差を大きく感じました。でもだからこそZ650RSは、ちゃんと操るということの基礎を、ファンライド層が学ぶには最適かも。

中野:小さめのサーキットでも性能をフルに使い切れるという楽しさもありますよね。しかもこの水冷パラレルツインエンジンは、2気筒なのに4気筒のZ900RSよりも高回転域が伸びる感覚があります。もちろん、パワーは圧倒的にZ900RSのほうがあるのですが、回転が伸びてくれるからZ650RSも気持ちいいです。

田宮:68㎰だからコーナーでも高い回転をキープしやすいし、ちょっとしたスロットルやブレーキの操作で車体姿勢に変化を感じるから、丁寧な操作を心がけつついろんなライディングにトライしてみたい気持ちが生まれます。

中野:そういう意味で、Z650RSは初めてサーキットを走る人に向いているバイクだと思います。

田宮:車体はスリムで軽く、たぶんパドックからコースインするときにも、ビッグバイクと比べて緊張感は少ないはず。優しさがありますね。

中野:公道では、どちらも素直という点で似ていましたが、サーキットだともう少し違いを感じました。

田宮:どちらのバイクを選択する人も、メインは公道だと思うので、あとはサーキットを走る頻度でどちらが向いているか変わりそう……。

中野:ストリートでピカイチのZ650RSと、サーキットを含めて守備範囲が広いZ900RS。明確な立ち位置の差はありますが、逆に考えたら、そうでないとユーザーも選択に困るわけです。

田宮:優劣ではなく、どちらにも価値があるというわけですね。

中野:走りもしっかり磨いて、購入後も〝乗る楽しみ〞を提供。やっぱり、Z-RSが人気なのは容姿がいいからだけじゃないと思います

カワサキ Z900RS&Z650RS

カワサキ Z650RS 50th Anniversary
カワサキ Z650RS 50th Anniversary
カワサキ Z900RS
カワサキ Z900RS
  • エンジン:水冷4ストローク並列2気筒 4バルブ
  • 排気量:649cc
  • 最高出力:68ps/8000rpm
  • 最大トルク:6.4kgf・m/6700rpm
  • シート高:800mm
  • 車両重量:190kg
  • 価格:110万円
  • エンジン:水冷4ストローク並列4気筒 4バルブ
  • 排気量:948cc
  • 最高出力:111ps/8500rpm
  • 最大トルク:10.0kgf・m/6500rpm
  • シート高:800mm
  • 車両重量:215kg
  • 価格:143万円
Z900RSは水冷インラインフォー、Z650RSは水冷パラレルツインのエンジンを搭載。最高出力は、Z900RSの111psに対してZ650RSは68psとなる
Z900RSは水冷インラインフォー、Z650RSは水冷パラレルツインのエンジンを搭載。最高出力は、Z900RSの111psに対してZ650RSは68psとなる
Z650RSのブレーキシステムは車体価格なりの装備。Z900RSはトキコ製ラジアルマウントキャリパーとニッシン製ラジアルマスターシリンダーを採用する
Z650RSのブレーキシステムは車体価格なりの装備。Z900RSはトキコ製ラジアルマウントキャリパーとニッシン製ラジアルマスターシリンダーを採用する
ワイヤースポークを思わせるホイールデザインは共通だが、Z900RSのみ切削加工も取り入れる。スイングアームはZ900RSのみアルミ製だ
ワイヤースポークを思わせるホイールデザインは共通だが、Z900RSのみ切削加工も取り入れる。スイングアームはZ900RSのみアルミ製だ
指針式2眼メーターと液晶パネルは基本デザインを共通化。ただし外気温が表示できるのはZ900RSのみで、文字盤の意匠も各車専用となっている
指針式2眼メーターと液晶パネルは基本デザインを共通化。ただし外気温が表示できるのはZ900RSのみで、文字盤の意匠も各車専用となっている
両車ともに、レトロな雰囲気を生む丸型ヘッドライトを採用しているが、Z900RSのほうが大口径でLEDの数と配置にもこだわりが深い
両車ともに、レトロな雰囲気を生む丸型ヘッドライトを採用しているが、Z900RSのほうが大口径でLEDの数と配置にもこだわりが深い
Z650RSの正立式に対して、Z900RSは倒立式のフロントフォークを装備。Z650RSは調整機構を持たないが、Z900RSはフルアジャスタブル
Z650RSの正立式に対して、Z900RSは倒立式のフロントフォークを装備。Z650RSは調整機構を持たないが、Z900RSはフルアジャスタブル