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2022年のMotoGP予習|開幕前公式テストから見るシーズン

マレーシアのセパン、インドネシアのマンダリカで今季のMotoGPを占う重要なテストが実施された。今季はエンジンがアップデートされたことも注目の一つだ。そんなテストでライダーたちは2022年型バイクをどう感じたのだろうか。テストでのオンライン取材による各ライダーのコメントを交え、今季のMotoGPの概要を再確認しよう。

2022年MotoGP、始動

今季のモトGPは2月のテストから始まった。2年ぶりにマレーシアのセパンで2日間のテストが行われ、その5日後には24年ぶりにレースカレンダーに加わったインドネシアGPの開催地、マンダリカで3日間のテストが実施されたのだ。 

今季の話題の一つにエンジンのアップデートがある。コロナ禍での予算削減を目的として、2021年はエンジンのアップデートなしという技術規則に変更され、コンセッション(テストやシーズン中のエンジン開発などについて規制が緩和される優遇措置)を受けるアプリリアを除き、2020年仕様のエンジンで争われていた。というわけで、2 0 22年は2年ぶりに各メーカーのエンジンがアップデートされるのである。 

トップスピードの向上についてはヤマハ、そしてクアルタラロが求めていた領域だった。アップデートされたエンジンではあったが、しかし、2021年チャンピオンのクアルタラロはバイクについて「期待したよりも改善はなかった」と述べている。ただ、クアルタラロはレースペースについて自信を見せており、テスト結果としてもトップとの差は大きくはないものだった。クアルタラロとヤマハというパッケージの速さは、今季も健在のように見える。 

ヤマハと同じように最高速の改善を課題としてきたのがスズキなのだが、こちらはミル、リンスが口をそろえて「エンジンパワーが上がった」と好印象。スズキは2021年の開幕前テストから今季に向けたエンジンをテストしており、時間をかけた開発が実った。また、スズキが改善点としてきた予選順位についても、プロジェクトリーダーの佐原伸一氏が「昨年終盤から新しい戦略を持っている」と語っている。決勝レースでの強さに加え、予選順位を上げることができれば、スズキはさらに躍進することだろう。 

そして、今季大きな進化を遂げたのはホンダである。エンジンはもちろん、空力デバイスからエアダクト、バテールユニット、マフラーの位置など、外観が大きく変わった。 

さらにはホンダが2020年から悩まされたリアタイヤのグリップ不足についても改善したという。その一つにはエンジンのキャラクターがかかわっているとのことで、これについては中野真矢さんの解説(91ページ)が詳しい。マンダリカテスト最終日をトップタイムで終えたポル・エスパルガロは「(開幕前に)こんなに速さを感じていたことはない。ホンダは間違いなくいい仕事をしてくれた」と語っている。 

昨年、シーズン後半で飛躍したドゥカティは、セパンやマンダリカのテストでバスティアニーニやマリーニがトップタイムを記録していた一方で、ファクトリーチームのバニャイア、ミラーは、タイムとしては常に上位につけるような結果ではなかった。とはいえバニャイア、ミラーともに2022年型バイクに合わせた電子制御の調整やレースペースなどに集中していた印象だ。 

バニャイアは「僕たちはバイクの開発に集中している。アタックすれば速いタイムを出せるのはわかっているけど、テストでそれをする必要はない」とも語っており、ドゥカティのバイクは昨年の特にシーズン後半戦で、十分な強さと速さ、そして安定性を発揮していた。昨年に築いたベースは今季のスタートにもよい影響をもたらすと見ていいだろう。 

ライダーとしては、マルク・マルケスの完全復活も気になるところだ。マルケスは右腕と右肩に加えて、昨シーズン終盤のトレーニング中の転倒により複視を発症。体調が懸念されていたが、マルケスは初日からテストに参加。コースを走行し、体調について「2018年、2019年に近いと思うよ」と答えている。 

ウインターブレイクのほとんどを療養に当てていたため体力不足が懸念されるが、マンダリカでは「バイクを自分のライディングに近づけていった」という。テストでは体調を考え、一旦は走行をやめたこともあった。それはマルケス自身、時間をかける必要があることを理解しているからだ。まだ以前のマルケスではないだろうが、確然と100パーセントへの道を歩んでいる。 

モトGPクラス参戦5年目を迎える唯一の日本人ライダー、中上は今年、新しい挑戦をスタートさせた。苦しんだ昨シーズンを経たからこその決断だった。その一つがメンタルトレーナーとの取り組みである。オフシーズン中には「2022年に向けて、メンタルトレーナーをつけるなど、今までやってこなかったことにトライすべきタイミングだと思ったんです。自分は変わったな、と感じています」と自身の変化について触れていた。中上が今年目標に掲げるのはチャンピオン争いだ。新しい挑戦は、その覚悟を表している。 

今季は史上最多の年間21戦というレーススケジュールが予定されている。開幕戦カタールGPの決勝レースは3月6日。たった一人がつかむことのできる栄冠のために、激しいシーズンが始まる。

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2年ぶりにアップデートされたエンジン各メーカーの進化はいかに

YAMAHA:トップスピードに懸念残るもレースペースには満足

クアルタラロはヤマハの改善について「ホンダやスズキ、アプリリアのように大きく進化したとは思っていない」と比較し満足していない様子。ただ、レースペースについては心配していないという。バイクはエアダクトの下部が少し突き出て、その分、空力デバイスも前方に出る形になった。

モンスターエナジー・ヤマハMotoGP

【#21 フランコ・モルビデリ】’94年12月4日生まれのイタリア人ライダー。ロッシが主宰するVR46ライダース・アカデミーの一期生
【#20 ファビオ・クアルタラロ】’99年4月20日生まれ。昨年、最高峰クラスでフランス人ライダーとして史上初のタイトル獲得

WithU・ヤマハ・RNF・MotoGPチーム

【#40 ダリン・ビンダー】’98 年1 月21 日生まれの南アフリカ人。KTMのB・ビンダーは実兄。今季、Moto3からMotoGPへ昇格
【#4 アンドレア・ドヴィツィオーゾ】’86年3月23日生まれのイタリア人。ライディングテクニックはもちろん、分析力に長けた最年長ライダー

DUCATI:タイムアタック以外にフォーカス、一大勢力は今季も猛威を振るうか

ダクトや空力デバイスの形状が少し異なるものもテストされていたほか、ロングのエキゾーストも見られた。特にファクトリーチームはタイムアタック以外に焦点を当てて作業していたようだ。ドゥカティは昨年の6台から今季は8台へと台数を増やしており、データ収集の面でも有利となるだろう。

ドゥカティ・レノボ・チーム

【#43 ジャック・ミラー】’95年1月18日生まれのオーストラリア人。20 歳でMoto3からMotoGPに昇格。昨年ファクトリーに
【#63 フランチェスコ・バニャイア】’97年1月14日生まれのイタリア人ライダー。常に冷静さを失わないその姿勢にはベテランの風格も漂う

プラマック・レーシング

【#89 ホルヘ・マルティン】’98年1月29日生まれのスペイン人。昨年はルーキーながら1勝を挙げた。注目の若手ライダーの一人
【#5 ヨハン・ザルコ】’90年7月16日生まれのフランス人。MotoGPでヤマハ、ホンダ、KTM、ドゥカティを走らせた経験を持つ

ムーニー・VR46・レーシングチーム

【#72 マルコ・ベッツェッキ】’98年11月12日生まれのイタリア人。昨年はMoto2でランキング3位を獲得し、MotoGPに昇格
【#10 ルカ・マリーニ】’97年8月10日生まれのイタリア人ライダーでV・ロッシの異父弟。最高峰クラス2年目もドゥカティを駆るマルコ・ベッツェッキ

グレシーニ・レーシングMotoGP

【#49 ファビオ・ディ・ジャンアントニオ】’98年10月10日生まれのイタリア人でMotoGPルーキー。バスティアニーニとはMoto3でも僚友だった
【#23 エネア・バスティアニーニ】’97年12月30日生まれのイタリア人ライダー。’20年Moto2王者。昨年は最高峰クラス

SUZUKI:エンジンパワーが向上予選順位の改善にも期待 

スズキは2022年に向けたエンジンを昨シーズン開幕前の公式テストからリンスやテストライダーたちがテストしていた。スズキのバイクのバランスのよさには定評があり、それを崩さないエンジン作りに時間をかけたのだろう。そのためか今季はエンジンパワーが向上。予選順位の改善も期待される。

チーム・スズキ・エクスター

【#42 アレックス・リンス】’95年12月8日生まれのスペイン人。’17 年のMotoGP昇格以来、スズキライダーとして活躍を続ける
【#36 ジョアン・ミル】’97 年9 月1 日生まれのスペイン人ライダー。’20 年にはスズキにとって20年ぶりとなるタイトルを獲得

HONDA:チャレンジャーとしての大変革大きく進化したホンダの実力

エース、M・マルケスの怪我が影響したとはいえ、2年連続でチャンピオンを逃したホンダは、「従来の常識や枠を外し、変更に取り組み始めた」と宣言していた通りに大きな改善を施した。バイクの外観はもちろん、乗り味も変わったという。特にリアグリップ不足の問題は改善に向かった。

レプソル・ホンダ・チーム

【#44 ポル・エスパルガロ】’91年6月10日生まれのスペイン人。昨年、KTM からホンダに移籍。アプリリアのA・エスパルガロは実兄
【#93 マルク・マルケス】’93年2月17日生まれのスペイン人。ケガでこの2シーズンはタイトルを逃したが、現役最強と評される

LCRホンダ

【#73 アレックス・マルケス】’96年4月23日生まれのスペイン人ライダー。M・マルケスの実弟で、’19 年のMoto2チャンピオン
【#30 中上貴晶】’92 年2 月9 日生まれ。昨年、日本人初のMotoGP参戦通算200 戦を達成。今季はタイトル争いを狙う

APRILIA:車体をコンパクト化改善は全領域にわたる 

テストでは常にトップ5以内につけていたアプリリア。何かを大きく変えたのではなく、全体的に、全てのパーツが改良されたのだという。また、車体の幅が小さくなり、このおかげで旋回性が向上した。A・エスパルガロは最初にまたがったとき、「すごい、Moto2 バイクみたいだ」と感じたそうだ。

アプリリア・レーシング

【#12 マーベリック・ビニャーレス】’95年1月12日生まれのスペイン人。昨年中盤にアプリリアに加入。新天地で表彰台獲得を目指したい
【#41 アレイシ・エスパルガロ】’89年7月30日生まれのスペイン人。MotoGP参戦通算13年目。’18年からはアプリリアの開発をけん引

KTM:セパンでは懸念が残るもマンダリカで前進 

KTMは昨年からコーナー立ち上がりでのリアタイヤのスピンに悩まされていた。セパンテストではライダーがそれを訴えていたが、マンダリカテストはある程度満足して終えることができたようだ。KTMは今季、ファクトリーチームのチームマネージャーなども変わり、その影響も気になるところ。

レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング

【#88 ミゲール・オリベイラ】’95年1月4日生まれのポルトガル人。昨年は1勝を挙げた。ポルトガルにおける若手育成にも尽力する
【#33 ブラッド・ビンダー】’95年8月11日生まれ。’20年第4戦チェコGPでは南アフリカ人ライダーとして初めて優勝を飾った

テック3・KTM・ファクトリーレーシング

【#25 ラウール・フェルナンデス】’00年10月23日生まれのスペイン人。昨年Moto2でガードナーとタイトルを争い、今季共に昇格した
【#87 レミー・ガードナー】’98年2月24日生まれのオーストラリア人。’21年Moto2チャンピオン。ワイン・ガードナーを父に持つ