
【深堀りバイク日誌】TRIUMPH DAYTONA660
トライアンフのお家芸、直列3気筒エンジンに
エッジの効いたスポーティなフルカウルマスク
由緒あるデイトナの名を
受け継ぐことになったミドルクラス
スポーツの実力とはどんなものか?
BikeJIN vol.261 2024年11月号参照
問:トライアンフモーターサイクルズジャパン
TEL03-6809-5233
https://www.triumphmotorcycles.jp/
精悍なスタイルにソフトで快適な足周り
〝デイトナ〞。トライアンフのスーパースポーツブランドが、今年久々に国内ラインナップに加わった。ダイレクト感が強く歯切れのいいパワーフィールの直列3気筒エンジンをコンパクトな車体に搭載するハイパフォーマンスブランド〝デイトナ〞が復活したのだ。
今回の主役であるデイトナ660は、400㏄クラスに迫るようなコンパクトさの中に、エッジの効いたシャープなスタイリングを取り入れたフルカウルモデル。久々の〝デイトナ〞なこともあり、〝カリカリのスポーツキャラクターなんだろうな?〞なんて勝手な予想をしていたのだが、いざ走り出してみたら意外と……というか足周り、サスペンションの設定がかなりコンフォートなことに気付く。柔らかくて乗り心地がいいのだ。
一般的にスーパースポーツ系のマシンは走行の速度レンジが高く負荷の高いサーキット走行に標準を合わせて足周りは硬めにセッティングされる。ミもフタもない言い方をすれば、〝一般道での快適性よりサーキットでのタイム優先〞ってことだが、このキャラクターのおかげで、大抵のスーパースポーツモデルは速度域の低い一般道ではゴツゴツと足周りで硬く、乗りにくいものだ。
〝ここまでスポーティな見た目なのにキャラクターは意外とツーリング向きなのか?〞そんな疑問がむくむくと大きくなってきたら、峠道はもちろん、距離を走ってじっくり旅性能を見極めたくなった。
向かったのは静岡県の西伊豆スカイライン。僕の住む東関東からだと往復400㎞ちょっと。下道や高速含め、ツーリング性能を試すには良い距離感だ。
思ったとおりこのデイトナ660、一般道が走りやすかった。よく動くしなやかな足周りのおかげで、街乗りレベルの低速走行でもしっかりタイヤが路面に押し付けているのがよく分かる。おかげで、スーパースポーツに乗っている時に気になる、マンホールや橋脚のジョイントなどのちょっとしたギャップもまったく気にならない。混雑した道で他車の動きに合わせて咄嗟にブレーキをかけなければならないような場合も、気兼ねなくフロントブレーキを握りこめる。このデイトナ660には、スーパースポーツ的な、神経質なところがほぼないと言っていい。
ただこのデイトナ660。ポジションに関してはやや前傾姿勢が強めだ。サーキット走行に特化したレースベース車になるようなモデルたちみたいな極端な前傾ではないものの、最近流行りの〝フルカウルだけどツーリングバイク〞的なキャラクターのモデルたちよりは、ややハンドルが低くスポーティな印象。またステップに関しても、ネイキッドポジションよりは〝若干〞バックステップ気味ではあるものの、変な窮屈感はない。往復3時間くらいの高速道路走行を行っていると程よい疲労感を感じられるくらい。決して楽ちんポジションとは言えないが、しっかりニーグリップを行って上半身を支える癖が付いているライダーならそれほど疲れることもないはずだ。
キャラクターはツーリング向きだが、シャープなフロントマスクデザインのためにハンドルポジションはやや低めに設定せざるを得なかったといったところだろう。
もう一つデザイン優先に感じたのが小ぶりなスクリーンだ。サーキットでのストレート走行よろしく、ヘルメットをタンクに押し付けるようにして走れば風を避けられるが、上体を起こすと高速道路レベルの高速走行ではほぼ風防効果がないと言っていい。……なんて言ってみたものの、このスタイリングでタチの強い大きなスクリーンを付けてしまったら不恰好になるのは目に見えている。このあたりは〝よくぞデザイン優先にしてくれた〞と褒め称えたいところ。やっぱりバイクはかっこよくてナンボ。デザインの良さのための多少の不具合は、ライダーの方が伊達を通したい。
DAYTONA660

エンジン | 水冷4st.直列3気筒660cc |
最高出力 | 95ps/11250rpm |
最大トルク | 7.0kg-m/8250rpm |
重量 | 201㎏ |
シート高 | 810 ㎜ |
燃料タンク容量 | 14L(ハイオク指定) |
タイヤサイズ | F=120/70ZR17 R=180/55ZR17 |
価格 | 108万5000円~ |


シート高810㎜。数値としてはそれほど高い方ではないが、やや前傾姿勢が強めなおかげで、両足のカカトが若干浮く足着き。ハンドルはYZF-R7ほど低くはないが、GSX-8RやNinja650に比べるとやや前傾がきつめで、全体的なポジションはCBR650Rに近い
660cc直列3気筒エンジン搭載
660cc直列3気筒エンジン搭載 トライアンフといえば、やはり直列3気筒である。660cc直列3気筒エンジン搭載モデルとしては、2021年登場のトライデント660、2022年のタイガースポーツ660と続き、3機種目のとなるデイトナ660。この3台は同系エンジンを搭載する兄弟モデルではあるが、2024年登場で最後発となるデイトナ660は、他の660シリーズよりも14ps も高出力な95ps/11250rpmのエンジンを搭載。圧縮比が11.95から12.05まで高められており、1 ~ 6速までのギヤ比や2次減速比(ドライブスプロケットの丁数)もトライデント660、タイガースポーツ660とは異なる。


最高出力 : 81ps/10250rpm
価格 : 112万5000円~
前後17インチホイールのロード色の強いアドベンチャー。前後150㎜のストロークを持つ、より長いフロントフォーク&スイングアームを備える

最高出力 : 81ps/10250rpm
価格 : 99万5000円
直列3気筒660ccエンジンのネイキッドモデル。出力設定は異なるものの同系エンジン、車体を共有するもキャスターやホイールベースも異なる
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トライアンフを感じる直列3気筒エンジン
このデイトナ660、ツーリング向きのしなやかな足周りに、〝デイトナ〞らしいスポーティなスタイリング、いろいろオススメできる要素はあるものの、やはり最大の特徴はトライアンフのお家芸である直列3気筒エンジンだ。
ここ最近、10年前くらいからヤマハもMT‐09シリーズで直列3気筒エンジンを投入しているため、〝唯一〞なんて言葉は使えなくなってしまったものの、やっぱり直列3気筒エンジンといえばトライアンフである。メーカー名に〝トライ(3)〞が入り、特徴的な三角形のロゴも〝トライアングルマーク〞なんてレベルのアイデンティティだから、直近10年くらいで3気筒エンジンのモデルを作ったところで敵うわけがない。そんなトライアンフの直列3気筒エンジンの魅力は、冒頭にも書いたが〝ダイレクト感が強く歯切れのいいパワーフィール〞だ。
この辺りをもうちょっとだけ深掘りさせてもらおう。まず前提として、クランクシャフトのオフセット間隔が120度、つまりピストンが押し下げる〝コンロッドが均等にクランクシャフトにつながっている〞。……これが、直列3気筒エンジンのキャラクターを決定づけている構造的な要因だ。
エンジンではピストンが往復運動する際に大きな揺れ(振動)を発生させるわけだが、〝コンロッドが120度間隔で均等にクランクシャフトに接続〞されている直列3気筒エンジンなら、お互いの動きでこの揺れを相殺することが可能。なので振動を打ち消すためのオモリであるバランサーがまったくいらない……とまでは言わないが、一番大きく重いバランサーが必要ない。おかげで直列3気筒エンジンは物理的に軽くてコンパクトというわけだ。
またエンジンの吹け上がりのフィーリングも特徴的。3気筒の燃焼タイミングが等間隔なのに加え、重いバランサーがないことで過渡特性がフラットで、スロットルオフにした時のトルク離れというか、駆動力の切れもいい。これを短くまとめると、〝ダイレクト感が強く歯切れのいいパワーフィール〞となるわけだ。蛇足だが、ヤマハのY ZF‐R1のクロスプレーン構想は、直列3気筒エンジンが本来持っているこの特性を4気筒エンジンへの応用したものだ。
さてちょっと前置きが長くなったが、デイトナ660もこの直列3気筒エンジンの特性がしっかり感じられるマシンになっている。
第一に車体がコンパクトで軽いのだ。単気筒や2気筒のバイクよりもパワフルで吹け上がりがよく、しかも直列4気筒に比べると、気筒数やバランサーの関係で圧倒的に軽い。
車格は400㏄並みにコンパクトでヒラヒラとした軽やかなハンドリングが楽しめながら、エンジンはパワフルで高回転までしっかり回る。直列3気筒エンジンの美味しいところをしっかり使ってまとめ上げられている。しかもそれが変にスポーティになりすぎてないところがまた絶妙。
トライアンフのミドルクラスには、660㏄シリーズの他に、765㏄直列3気筒エンジンを積んだストリートトリプル765もある。このエンジンはMoto2に供給しているくらいで恐ろしくスポーティで、特に上級仕様のRSは〝ストリート〞とは名ばかり。走らせているとエンジンが〝俺はまだイケる、もっと回せ! 速く走れ!!〞と急かされるようなところがあるのだが、デイトナ660はそれがない。ワインディングに入っても目が吊りあがらず、心に余裕を持った心地いいペースで走って楽しくなるようにできている。
同系エンジンを積む、兄弟モデルのトライデント660やタイガースポーツ660よりも14馬力もアップしているのだが、変にアドレナリンの分泌を促さないようにエンジン特性がデザインされているのが素晴らしい。どうりでツーリングが楽しいわけである。決して遅いのではなく、〝速く走らなくても楽しい〞というところにデイトナ660の存在意義がある。










