
フロントタイヤの性能はどうやってを引き出す?
ラジアルタイヤは“潰して乗る”ことでさらなる性能を発揮する。ただしそのためには、正しいライディングフォームと操縦が必須だ。中野真矢さんが、まずはフロントタイヤとの“付き合い方”を解説!!
フロントの性能発揮はリア以上に難しい
ウイリー状態やジャンプ中などの特別な状況を除けば、バイクのタイヤは常に両輪が接地していますが、グリップや接地感などは前後を分けて考えるのが一般的です。自分自身も、サーキットライディングでは常にタイヤのグリップを感じようとしていますが、ブレーキング開始からフロントブレーキレバーを完全に離すまでは前輪、ブレーキをリリースした瞬間から加速している間は後輪に、かなり意識が集中しています。
前後輪のグリップは、どちらが欠けても上手に走ることは不可能ですが、「どちらが大切?」と聞かれたら間違いなくフロントを挙げます。というのも、マルク・マルケス選手でもない限り、フロントタイヤのスリップは即転倒につながることが多いからです。運良く転倒を免れたとしても大きく自信を失いがちで、「またなるのでは……」という恐怖心が、これまで積み上げてきたものを一気に崩してしまいます。
だから、前輪をしっかり温めるときには多少の勇気もいるし、タイヤの性能をフルに引き出して走るのは難しいと感じるはずですが、その感覚は非常に正しく、そこで無理をする必要はありません。ちなみに前輪への荷重には、フロントブレーキの操作が大きく関係します。ブレーキング技術も磨いていきましょう!
(中野真矢)
フロントタイヤを潰して接地面を増やしつつグリップを高める


「急」が付く操作はグリップを破綻させる
タイヤは急激、あるいは唐突な入力を嫌うので、これをすると裏切られがちです。だからコーナー進入の減速では、ブレーキレバーを最初からガツンと一気に握るのではなく、制動初期でレバーを軽く引いてフロントタイヤを少し潰してから、最大のブレーキ入力に移行するイメージ。ただし上手なライダーは、初期の操作をごく短時間で完了させています。

ブレーキリリースがラフor速いと前輪グリップが抜けやすい
トレイルブレーキは、コーナー進入の制動初期で確実に車速を落とした後、フロントブレーキを徐々に弱めつつも完全にはレバーを離さず、最大バンク地点まで“引きずる”テクニックのことです。
ブレーキを離すと前輪荷重が減り、それ以降はフロントタイヤのグリップを引き出す操作が難しくなります。だからトレイルブレーキで、フロントフォークを縮めて旋回力の高い姿勢を保ちつつ、クリッピングポイント付近まで前輪荷重を確保するのです。



フロントのグリップ感は手のひらで感じている
物理学的に正しいかは不明ですが、ライダーの感覚として、前輪のグリップや接地感は手のひらで読み取っていると思います。
無意識のときもかなり多いのですが、サーキット走行中は旋回中でも手のひらで左右のハンドルを押す微少な入力を続けており、その手応えなどから判断していると考えられます。

ABSに頼り切るのはダメ! 絶対
路面状況が刻々と変化する公道では、安全性を高める装備としてABS は心強い存在ですが、だからといってABSの介入を前提とした操縦は推奨できるものではありません。
またサーキットでは、タイヤが本当に冷えている状況だとABS介入よりも先に車体が挙動を乱すとか、ABSが介入することで繊細な操作の邪魔をすることも……

縦方向と横方向のグリップを合計して把握する
タイヤが発揮できる前後の縦方向と左右方向のグリップを、サークルで表現したのが“摩擦円”という概念です。これをブレーキングに当てはめると、直立状態なら制動のためだけにグリップを使えます。
しかしバンク角が深まると制動に使えるグリップは大幅に減るので、引きずる程度までレバーを離す必要があります。
