
【トライアンフ スピードトリプル1200RS 試乗インプレ】7mmのポジション変更で実現したニュートラルなハンドリング【原田哲也海外試乗】
ハイパワーエンジンを搭載したビッグネイキッドは、小柄な原田哲也さんにとって「ちょっと遠い存在」だ。だが、イギリスのトライアンフがポルトガルに用意した試乗コースは、新型になった元祖ストリートファイターの魅力を存分に感じられる、素晴らしい設定だった。本質を理解しながら開発するメーカーならではの試乗ステージで、原田さんが感じたものとは──。

PHOTO/TRIUMPH TEXT/G.TAKAHASHI
取材協力/トライアンフモーターサイクルズジャパン TEL 03-6809-5233
https://www.triumphmotorcycles.jp/
特性を熟知しているから最適な舞台を用意できる
ヨーロピアンメーカーがヨーロッパで行う試乗会に参加すると、いつも試乗コースの絶妙さに感心する。
ヨーロピアンメーカーのPR担当者は、自分たちのバイクのアピールポイントを深く理解している。「このバイクはこういう特性だから、このコースにしよう。そうすれば、いちばんおいしいポイントを味わってもらえるはずだ」と熟慮しながら、試乗コースを設定しているのだろう。
実際ヨーロッパには、そうした思いに応えられるだけの地理的なバリエーションがある。地続きの各国にはさまざまなサーキットがあり、低速〜高速の山岳路があり、混雑した街中や滑りやすい石畳の路面まで、あらゆる走行状況が揃っている。

新型スピードトリプル1200RSの試乗会は、ポルトガルで行われた。1泊2日の日程で、初日はMotoGPも開催されているポルティマオサーキット、2日目はストリートを走行した。そしてこの舞台選びが、実に絶妙だったのだ。
スピードトリプル1200RSは元祖ストリートファイターという立ち位置にあり、小柄な僕が積極的には乗らないビッグネイキッドだ。しかし、そんなことを忘れてしまうほど、ものすごく楽しかった。イギリスのメーカーがポルトガルに設けた試乗コースが、このバイクに素晴らしくマッチしていたからだ。
強烈なエンジンパワーを万人にも扱いやすく
初めて走ったポルティマオサーキットは、とんでもない高速コースだった。アップダウンも激しい。MotoGPを観戦していて「すごいコースだな……」と思ってはいたが、いざ走ってみると、改めてMotoGPライダーの度胸に恐れ入る。
そして、新型スピードトリプル1200RSのエンジンも、とんでもない速さだった。MotoGPマシンがフロントアップしながら立ち上がってくるコーナーを駆け抜けると、3速、4速とシフトアップしてもフロントは浮きっぱなしだ。
エンジンの回転上昇フィールは軽やかだ。大排気量エンジンにありがちな鈍重さはまったく感じられず、トライアンフの直列3気筒らしく気持ちいい伸びやかさがある。エキサイティングなエキゾーストノートも、トライアンフ直3の魅力のひとつ。ライディングスピリッツが掻き立てられる。

だからと言って「高回転域特化型のピーキーなエンジン」というわけではない。これは翌日のストリートランでも明らかになったが、低回転域からしっかりとトルクが出ていて、非常に扱いやすい。高回転域のパワーと低回転域のトルクが絶妙にバランスしているあたりは、さすが直3エンジンを得意とするトライアンフ。1200ccのスケールメリットを見事に生かし切っている。
それにしてもパワフルだ。そして、電子制御も優れている。ポルティマオサーキットでは、各国ジャーナリストによる「即席ウイリー大会」が行われたが、もっともうまくウイリーを続けられたのは、ただスロットルを開け、フロントホイールリフトコントロールに任せた女性だった。
今や人間のスロットルワークより、電子制御の方が勝っている。つくづく時代の変化を思い知らされた。
ハンドリングは、よりニュートラルになった。エンジン同様、こちらも気持ちいい。
前モデルは、わずかにフロントが切れていく感覚があり、僕の好みとは違っていた。ここは本当に「好み」であり、人それぞれだ。前モデルの、キャスターが立ち気味なフィーリングは、自動的にバイクが曲がってくれるフィーリングを求める人には合うと思う。

僕は、ハンドル操作で主体的にバイクを操りたいタイプ。だから現役時代から、どちらかと言えばキャスター角が寝ている方が好きだった。
つまり僕が言う新型スピードトリプル1200RSのハンドリングの「ニュートラルさ」とは、ちょっと手応えがあって、自分の意のままに操れること。人によっては重さと感じるかもしれないが、僕にはこれがとても合う。このあたりの感じ方や好みは本当に人それぞれで、どれが正解ということもない。
このハンドリングの変化は、主にふたつの要因から成り立っている。ひとつはハンドルポジションの変更、もうひとつはオーリンズ製セミアクティブサスペンション「Smart EC3」の採用だ。
またがった瞬間から、予感があった。前モデルに比べると、ハンドルポジションが若干手前になっていたのだ。数値にして、わずか7mm。だが、これが確実に効いている。
車体ジオメトリーは前モデルから変更されていないとのこと。ハンドルがわずか7mm手前になったことで相対的にフロントタイヤが遠ざかり、それが僕好みのハンドリングを生んでいる。
「僕好み」と繰り返すと、僕だけが特殊なハンドリングを求めているかのようだが、そうではない。何人かのジャーナリストと僕の意見は一致していた。みんな「ハンドリングがよくなった」と言っていたから、万人に受け入れられる変化だと思う。

もうひとつの要因、オーリンズ製セミアクティブサスペンションは、秀逸だった。
前モデルのブレーキング時の姿勢は、フロント下がり・リア上がりの傾向が強く、フロントがアウト側に押し出されるようなプッシングアンダーステアを感じた。
しかし新型のセミアクティブサスは、ブレーキング時にもリア上がりになりすぎないよう、適切に電子制御されている。これによって前モデルに見られたプッシングアンダー傾向が抑えられ、僕好みの「ニュートラルなハンドリング」になっていた。スロットルを開けていったときのトラクションも感じやすく、優れたシステムだと思う。
セミアクティブサスはライディングモードとも連動している。モード切り替えによるキャラクターの変化はかなり大きく、分かりやすい。
レイン、ロード、スポーツ、トラック、そしてユーザーが設定できるライダーの5モードが用意され、超高速のポルティマオサーキットでは、もちろんもっともパワフルな「トラック」がしっくりくる。
ただしリアサスは相当締め上げられるから、しっかり荷重をかけられるコンディションでなければ、唐突なスライドを起こしかねない。もともとがとんでもなくパワフルなエンジンだから、路面コンディションやライダーのスキルによっては、サーキットでも「スポーツ」、あるいは「ロード」で十分に楽しめるはずだ。
細やかなアップデートでより上質なライディングに
翌日のストリート試乗では、ネイキッドらしい懐の深さが垣間見えた。
ストリートとはいっても、試乗コースのバリエーションは豊富だ。日本の常識では考えられないほどのハイスピードワインディングもあれば、いかにも滑りやすそうな石畳の道もあったが、そのどこでも新型スピードトリプル1200RSは扱いやすい。

素がパワフルなので、サーキット以外ではレインモードに入れっぱなしで十分に事足りる。ビッグネイキッドならではの安定感が功を奏し、ツーリングが楽しい。
ABSの制御がよりきめ細かくなっているので、リアブレーキのABSが作動してもキックバックをほとんど感じない。これは確実にライディングの上質さを高めていた。
超高速サーキットからストリートまで幅広く対応する新型スピードトリプル1200RSを走らせながら、「開発ライダーが非常にいい仕事をしているな」と感じた。

今回のモデルチェンジは細かいアップデートではあるが、バイクでスポーツすることの本質をよく理解したうえで、そこに偏りすぎることなく、万人に受け入れられるよう仕立てられている。
新型スピードトリプル1200の魅力が存分に伝わってくる試乗コースの設定といい、バイクの仕上げといい、トライアンフはつくづくバイク好きの集団だと再認識した。
TRIUMPH SPEED TRIPLE 1200 RS










エンジン | 水冷4ストローク直列3気筒 DOHC 4バルブ |
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総排気量 | 1160cc |
ボア×ストローク | 90.0×60.8mm |
圧縮比 | 13.2:1 |
最高出力 | 183ps / 10750rpm |
最大トルク | 128Nm / 8750rpm |
変速機 | 6段リターン |
クラッチ | 湿式多板コイルスプリング |
フレーム | アルミ製ツインスパー |
キャスター / トレール | 23.9° / 104.7mm |
サスペンション | F=オーリンズ製 φ43mm 電子制御式フルアジャスタブル倒立フォーク R=オーリンズ製 電子制御式モノショック |
ブレーキ | F=φ320mm ダブルディスク+ブレンボ製Stylemaモノブロックキャリパー R=φ220mm シングルディスク+ブレンボ製2ポットキャリパー |
タイヤサイズ | F=120/70 ZR17 ピレリ ディアブロ スーパーコルサ SP V3 R=190/55 ZR17 ピレリ ディアブロ スーパーコルサ SP V3 |
全長×全幅×全高 | 2090×810×1085mm |
ホイールベース | 1445mm |
シート高 | 830mm |
車両重量 | 199kg |
燃料タンク容量 | 15L |
価格 | 222万5000円 ~ 227万円 |