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【トライアンフ スピードトリプル1200RS 試乗インプレ】7mmのポジション変更で実現したニュートラルなハンドリング【原田哲也海外試乗】

ハイパワーエンジンを搭載したビッグネイキッドは、小柄な原田哲也さんにとって「ちょっと遠い存在」だ。だが、イギリスのトライアンフがポルトガルに用意した試乗コースは、新型になった元祖ストリートファイターの魅力を存分に感じられる、素晴らしい設定だった。本質を理解しながら開発するメーカーならではの試乗ステージで、原田さんが感じたものとは──。

【原田哲也】
モナコに在住し、ヨーロッパをはじめとする海外試乗会に積極的に参加する、元世界グランプリ250ccクラスチャンピオン。 '02年をもって現役を引退して以降は、文字通り世界を股にかけて、バイクとライディングの楽しさを伝え続けている。
【原田哲也】
モナコに在住し、ヨーロッパをはじめとする海外試乗会に積極的に参加する、元世界グランプリ250ccクラスチャンピオン。 ’02年をもって現役を引退して以降は、文字通り世界を股にかけて、バイクとライディングの楽しさを伝え続けている。
PHOTO/TRIUMPH TEXT/G.TAKAHASHI
取材協力/トライアンフモーターサイクルズジャパン TEL 03-6809-5233
https://www.triumphmotorcycles.jp/

特性を熟知しているから最適な舞台を用意できる

ヨーロピアンメーカーがヨーロッパで行う試乗会に参加すると、いつも試乗コースの絶妙さに感心する。

ヨーロピアンメーカーのPR担当者は、自分たちのバイクのアピールポイントを深く理解している。「このバイクはこういう特性だから、このコースにしよう。そうすれば、いちばんおいしいポイントを味わってもらえるはずだ」と熟慮しながら、試乗コースを設定しているのだろう。

実際ヨーロッパには、そうした思いに応えられるだけの地理的なバリエーションがある。地続きの各国にはさまざまなサーキットがあり、低速〜高速の山岳路があり、混雑した街中や滑りやすい石畳の路面まで、あらゆる走行状況が揃っている。

TRIUMPH SPEED TRIPLE 1200 RS
TRIUMPH SPEED TRIPLE 1200 RS

新型スピードトリプル1200RSの試乗会は、ポルトガルで行われた。1泊2日の日程で、初日はMotoGPも開催されているポルティマオサーキット、2日目はストリートを走行した。そしてこの舞台選びが、実に絶妙だったのだ。

スピードトリプル1200RSは元祖ストリートファイターという立ち位置にあり、小柄な僕が積極的には乗らないビッグネイキッドだ。しかし、そんなことを忘れてしまうほど、ものすごく楽しかった。イギリスのメーカーがポルトガルに設けた試乗コースが、このバイクに素晴らしくマッチしていたからだ。

強烈なエンジンパワーを万人にも扱いやすく

初めて走ったポルティマオサーキットは、とんでもない高速コースだった。アップダウンも激しい。MotoGPを観戦していて「すごいコースだな……」と思ってはいたが、いざ走ってみると、改めてMotoGPライダーの度胸に恐れ入る。

そして、新型スピードトリプル1200RSのエンジンも、とんでもない速さだった。MotoGPマシンがフロントアップしながら立ち上がってくるコーナーを駆け抜けると、3速、4速とシフトアップしてもフロントは浮きっぱなしだ。

エンジンの回転上昇フィールは軽やかだ。大排気量エンジンにありがちな鈍重さはまったく感じられず、トライアンフの直列3気筒らしく気持ちいい伸びやかさがある。エキサイティングなエキゾーストノートも、トライアンフ直3の魅力のひとつ。ライディングスピリッツが掻き立てられる。

トライアンフのお家芸とも言える直列3気筒エンジンは、1160ccで183psの高出力を発生。そのパワーは強烈で、元GPライダーの原田さんをして「凄まじい!」と言わしめる。一方で、低回転域では対照的な扱いやすさを見せる。
トライアンフのお家芸とも言える直列3気筒エンジンは、1160ccで183psの高出力を発生。そのパワーは強烈で、元GPライダーの原田さんをして「凄まじい!」と言わしめる。一方で、低回転域では対照的な扱いやすさを見せる。

だからと言って「高回転域特化型のピーキーなエンジン」というわけではない。これは翌日のストリートランでも明らかになったが、低回転域からしっかりとトルクが出ていて、非常に扱いやすい。高回転域のパワーと低回転域のトルクが絶妙にバランスしているあたりは、さすが直3エンジンを得意とするトライアンフ。1200ccのスケールメリットを見事に生かし切っている。

それにしてもパワフルだ。そして、電子制御も優れている。ポルティマオサーキットでは、各国ジャーナリストによる「即席ウイリー大会」が行われたが、もっともうまくウイリーを続けられたのは、ただスロットルを開け、フロントホイールリフトコントロールに任せた女性だった。

今や人間のスロットルワークより、電子制御の方が勝っている。つくづく時代の変化を思い知らされた。

ハンドリングは、よりニュートラルになった。エンジン同様、こちらも気持ちいい。

前モデルは、わずかにフロントが切れていく感覚があり、僕の好みとは違っていた。ここは本当に「好み」であり、人それぞれだ。前モデルの、キャスターが立ち気味なフィーリングは、自動的にバイクが曲がってくれるフィーリングを求める人には合うと思う。

TRIUMPH SPEED TRIPLE 1200 RS
TRIUMPH SPEED TRIPLE 1200 RS

僕は、ハンドル操作で主体的にバイクを操りたいタイプ。だから現役時代から、どちらかと言えばキャスター角が寝ている方が好きだった。

つまり僕が言う新型スピードトリプル1200RSのハンドリングの「ニュートラルさ」とは、ちょっと手応えがあって、自分の意のままに操れること。人によっては重さと感じるかもしれないが、僕にはこれがとても合う。このあたりの感じ方や好みは本当に人それぞれで、どれが正解ということもない。

このハンドリングの変化は、主にふたつの要因から成り立っている。ひとつはハンドルポジションの変更、もうひとつはオーリンズ製セミアクティブサスペンション「Smart EC3」の採用だ。

またがった瞬間から、予感があった。前モデルに比べると、ハンドルポジションが若干手前になっていたのだ。数値にして、わずか7mm。だが、これが確実に効いている。

車体ジオメトリーは前モデルから変更されていないとのこと。ハンドルがわずか7mm手前になったことで相対的にフロントタイヤが遠ざかり、それが僕好みのハンドリングを生んでいる。

「僕好み」と繰り返すと、僕だけが特殊なハンドリングを求めているかのようだが、そうではない。何人かのジャーナリストと僕の意見は一致していた。みんな「ハンドリングがよくなった」と言っていたから、万人に受け入れられる変化だと思う。

TRIUMPH SPEED TRIPLE 1200 RS
TRIUMPH SPEED TRIPLE 1200 RS

もうひとつの要因、オーリンズ製セミアクティブサスペンションは、秀逸だった。

前モデルのブレーキング時の姿勢は、フロント下がり・リア上がりの傾向が強く、フロントがアウト側に押し出されるようなプッシングアンダーステアを感じた。

しかし新型のセミアクティブサスは、ブレーキング時にもリア上がりになりすぎないよう、適切に電子制御されている。これによって前モデルに見られたプッシングアンダー傾向が抑えられ、僕好みの「ニュートラルなハンドリング」になっていた。スロットルを開けていったときのトラクションも感じやすく、優れたシステムだと思う。

セミアクティブサスはライディングモードとも連動している。モード切り替えによるキャラクターの変化はかなり大きく、分かりやすい。

レイン、ロード、スポーツ、トラック、そしてユーザーが設定できるライダーの5モードが用意され、超高速のポルティマオサーキットでは、もちろんもっともパワフルな「トラック」がしっくりくる。

ただしリアサスは相当締め上げられるから、しっかり荷重をかけられるコンディションでなければ、唐突なスライドを起こしかねない。もともとがとんでもなくパワフルなエンジンだから、路面コンディションやライダーのスキルによっては、サーキットでも「スポーツ」、あるいは「ロード」で十分に楽しめるはずだ。

細やかなアップデートでより上質なライディングに

翌日のストリート試乗では、ネイキッドらしい懐の深さが垣間見えた。

ストリートとはいっても、試乗コースのバリエーションは豊富だ。日本の常識では考えられないほどのハイスピードワインディングもあれば、いかにも滑りやすそうな石畳の道もあったが、そのどこでも新型スピードトリプル1200RSは扱いやすい。

TRIUMPH SPEED TRIPLE 1200 RS
TRIUMPH SPEED TRIPLE 1200 RS

素がパワフルなので、サーキット以外ではレインモードに入れっぱなしで十分に事足りる。ビッグネイキッドならではの安定感が功を奏し、ツーリングが楽しい。

ABSの制御がよりきめ細かくなっているので、リアブレーキのABSが作動してもキックバックをほとんど感じない。これは確実にライディングの上質さを高めていた。

超高速サーキットからストリートまで幅広く対応する新型スピードトリプル1200RSを走らせながら、「開発ライダーが非常にいい仕事をしているな」と感じた。

TRIUMPH SPEED TRIPLE 1200 RS
TRIUMPH SPEED TRIPLE 1200 RS

今回のモデルチェンジは細かいアップデートではあるが、バイクでスポーツすることの本質をよく理解したうえで、そこに偏りすぎることなく、万人に受け入れられるよう仕立てられている。

新型スピードトリプル1200の魅力が存分に伝わってくる試乗コースの設定といい、バイクの仕上げといい、トライアンフはつくづくバイク好きの集団だと再認識した。

TRIUMPH SPEED TRIPLE 1200 RS

フロントフォークはオーリンズ製φ43mm倒立式で、減衰力を電子制御するSmart EC3OBTi(オブジェクティブ・ベースド・チューニング・インターフェイス)システム搭載。荷重移動や加速などにダイナミックに反応し、状況にもっとも適した減衰力特性を発生する
フロントフォークはオーリンズ製φ43mm倒立式で、減衰力を電子制御するSmart EC3OBTi(オブジェクティブ・ベースド・チューニング・インターフェイス)システム搭載。荷重移動や加速などにダイナミックに反応し、状況にもっとも適した減衰力特性を発生する
リアもオーリンズ製モノショックで、フロント同様にSmartEC3 OBTi搭載。減衰力特性をダイナミックかつ容易に変更できるほか、コーナー立ち上がりでのトラクション性も向上
リアもオーリンズ製モノショックで、フロント同様にSmartEC3 OBTi搭載。減衰力特性をダイナミックかつ容易に変更できるほか、コーナー立ち上がりでのトラクション性も向上
フロントブレーキはブレンボ製Stylemaモノブロックキャリパー+φ320mmフローティングディスク。高い制動力とコントロール性を発揮する
フロントブレーキはブレンボ製Stylemaモノブロックキャリパー+φ320mmフローティングディスク。高い制動力とコントロール性を発揮する
ブレンボ製MCS スパン&レシオアジャスタブルレバーを採用。好みに応じてきめ細やかなアジャストが可能で、ブレーキコントロール性を高める
ブレンボ製MCS スパン&レシオアジャスタブルレバーを採用。好みに応じてきめ細やかなアジャストが可能で、ブレーキコントロール性を高める
トップヨーク(ハンドルクランプ)も刷新し、車名ロゴをあしらったブラックトーンに。ゴールドのオーリンズ製フロントフォークと美しいコントラストを生む
トップヨーク(ハンドルクランプ)も刷新し、車名ロゴをあしらったブラックトーンに。ゴールドのオーリンズ製フロントフォークと美しいコントラストを生む
バーエンドミラーは細部までこだわった造形。スタイリッシュさと視認性の高さを両立しつつ、ハイエンドモデルならではのビルドクオリティの高さを見せる
バーエンドミラーは細部までこだわった造形。スタイリッシュさと視認性の高さを両立しつつ、ハイエンドモデルならではのビルドクオリティの高さを見せる
調整可能なステアリングダンパーを装備。ハンドルの手応えを好みに設定することで、特に高速走行時に精度の高いマシンコントロールが可能
調整可能なステアリングダンパーを装備。ハンドルの手応えを好みに設定することで、特に高速走行時に精度の高いマシンコントロールが可能
30年以上受け継ぎ続けているトライアンフのデザインDNA、異形2眼ヘッドライトが強烈な個性を発揮。LEDにより十分な明るさを確保している
30年以上受け継ぎ続けているトライアンフのデザインDNA、異形2眼ヘッドライトが強烈な個性を発揮。LEDにより十分な明るさを確保している
片持ち式スイングアームを採用。ホイールデザインが一新され、より軽量化。ジャイロフォースを低減することで、コーナー入口での俊敏性を高めている
片持ち式スイングアームを採用。ホイールデザインが一新され、より軽量化。ジャイロフォースを低減することで、コーナー入口での俊敏性を高めている
エンジン水冷4ストローク直列3気筒 DOHC 4バルブ
総排気量1160cc
ボア×ストローク90.0×60.8mm
圧縮比13.2:1
最高出力183ps / 10750rpm
最大トルク128Nm / 8750rpm
変速機6段リターン
クラッチ湿式多板コイルスプリング
フレームアルミ製ツインスパー
キャスター / トレール23.9° / 104.7mm
サスペンションF=オーリンズ製 φ43mm 電子制御式フルアジャスタブル倒立フォーク
R=オーリンズ製 電子制御式モノショック
ブレーキF=φ320mm ダブルディスク+ブレンボ製Stylemaモノブロックキャリパー
R=φ220mm シングルディスク+ブレンボ製2ポットキャリパー
タイヤサイズF=120/70 ZR17 ピレリ ディアブロ スーパーコルサ SP V3
R=190/55 ZR17 ピレリ ディアブロ スーパーコルサ SP V3
全長×全幅×全高2090×810×1085mm
ホイールベース1445mm
シート高830mm
車両重量199kg
燃料タンク容量15L
価格222万5000円 ~ 227万円

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