
リラックスしたフィーリングの中に隠れたスポーツ性を併せ持つ【BMW R12 原田哲也インプレッション】
10年間に亘り人気を博したR nineTの後継として2024年型で登場したのが、伝統の空油冷ボクサーツインエンジンを搭載したロードスター系のR12 nineT。R12は、これと同時にデビューした“クラシッククルーザー”なのだが、原田哲也さんが驚かされたのは、秘められた意外なほどのスポーツ性だった。

本誌主催のライディングパーティでは、M1000Rに乗って先導やライディングレッスンを行うほか、ボクサーエンジンのモデルにも数多く試乗。BMWの電子制御の先進性や、細かな操作性の違いなども敏感に感じ取り、的確にアウトプットする。
PHOTO/S.MAYUMI TEXT/T.TAMIYA
取材協力/ビー・エム・ダブリュー ☎0120-269-437
https://www.bmw-motorrad.jp/
「BMW R 12に驚きのスポーツ性」原田哲也が語るクルーザーの実力
今回の試乗場所は筑波サーキット・コース1000。BMWが「スマートカジュアルでクラシックスタイルのクルーザー」と定義するR 12を走らせる場所としては、ふさわしくないかもしれない。
でもそのおかげで、大きな発見があった。このR 12はクルーザーだから実際には参加NGだが、ステップさえ擦らなければ、ライパ(本誌が主催しているサーキット走行会「ライディングパーティ」)で参加者の方々に混ざって走れてしまいそうなほどのスポーツ性も秘めている。
ライディングモードは「ロール」と「ロック」の2タイプで、つまり合わせてロックンロール。穏やかな「ロール」はごく普通にツーリングを楽しめるフィーリングなのだが、「ロック」に切り替えた途端、空油冷ボクサーツインのスロットルレスポンスがかなりシャープになる。

もちろん、サーキットだからといってトバしてばかりではなく、公道のツーリングを想定したペースでもたっぷり走った。
まず気に入ったのはライディングポジション。身長161cmの小柄な僕でもちょうどいいハンドルの高さと、やや前側にセットされたステップのおかげで、リラックスして乗ることができる。エンジンの張り出しはスゴいけれど、車体そのものからは大柄な印象を受けず、気負わずライディングできる。
意外なスポーツ性と同じく、いい意味で乗る前の予想を裏切ってくれたのはブレーキ性能。こういうタイプのバイクは制動が苦手という先入観があったのだが、R 12のフロントブレーキはしっかり効く。しかも、いきなりガツンと効力が立ち上がるとか、奥でギュッと制動力が増すようなことがなく、レバー入力に比例して効いてくれる抜群のコントロール性を備えている。
これは公道走行でも大きな安心感につながる要素だし、このブレーキ性能があるからこそ、「ロック」でスポーティに走らせることもできるわけだ。
ブレーキのフィーリングを高める要素のひとつに、前後サスペンションの作動性もあると思われる。フロントはR 1300GSシリーズが継承するBMW伝統のテレレバーではなく、一般的なテレスコピック式。倒立フォークは、インナーチューブが見えている部分がかなり短いのだが、乗るとちゃんとストローク感があり、強めにブレーキングしたときにはシュッと沈んでくれる印象だ。

一方で、加速方向でリアに乗る感触もあり、前後のピッチングを作れるため積極的にマシンを操れる。一般的なクルーザーは、車体に跨がった状態のまま何もできずに乗っているという感覚が強いけれど、それらとはだいぶ異なるフィーリングがある。
前輪が19インチ径ということもあり、さすがにスポーツバイクのようにクイックで自在なハンドリングというわけではない。でも、少しフロントブレーキを当ててあげればインにスッと入ろうとしてくれるし、決めたラインをトレースしてあげれば気持ちよく旋回できる。
当たり前なのだが、エンジンは「やっぱりボクサーだよね!」という感じ。これまでいろんなボクサーに乗ったけれど、共通の雰囲気がある。その中でもこのエンジンは空油冷なので、水冷ほどのパワー感はない。でも、だからこそクルーザーをコンセプトとするR 12にはピッタリ。
普段使うなら「ロール」モードが合っていて、「ロック」モードだと過激すぎるくらいだと感じた。

出力特性は低中回転域重視。公道で常用したい回転域でしっかりトルクを発揮してくれる。例えば高速道路を5速や6速で走行していて、前のクルマに詰まって速度を落とし、その後にまた加速するようなシーンでも、けっこうな速度差をシフトダウンせずに乗り切れてしまう。
このとき、無理して低回転を使っているような感じがなく、なんとも表現しづらいボクサーならではの鼓動感や排気音とともに、ブオ〜ッと前に進む心地よさがある。こういう特性だとロングツーリングでの疲労が少なく、集中力も続き、結果的には安全にもつながる。これもR 12の大きな魅力と言えるだろう。
ちなみに、BMWのクイックシフター(ギアシフト・アシスタントプロ)は、ニュルッとした特有の感触がある車種が多いのだが、R 12はカチッとしたフィーリングで、これも僕の好みに合っている。
今回は公道走行も想定しながらサーキットで試乗したが、実際にこのバイクでツーリングしてみたくなった。僕の身長でも両足の母趾球が地面に着く程度の足着きだから、取り回しもあまり気にならないし、カウルがないからそれなりに風を浴びるけれど、そもそもトバすバイクじゃないから問題ない。
細かい理想を言うなら、ステップがあと数cm後ろにあると、僕の体格でも長距離走行時に腰の負担が減りそうだが、日本人の平均くらいの身長があれば、ポジションはちょうどいいだろう。
きっとワインディングではステップをすぐに擦ってしまうだろうが、だからこそあまりトバさずともスポーティな気分を味わえるし、そもそもトバさなくても気持ちよさのあるバイク。しかも、全体的にシンプルな設計なのに、どこかオシャレな雰囲気なので、街でも映えそうだ。
クルーザーにカテゴライズされてはいるが、楽しみ方の許容範囲は想像よりもかなり広く、秀逸な乗り味に驚かされた。
(原田哲也)
BMW R 12







エンジン | 空冷/油冷4ストローク 水平対向2気筒DOHC4バルブ |
総排気量 | 1169cc |
ボア×ストローク | 101.0×73.0mm |
圧縮比 | 12.0:1 |
最高出力 | 95ps/6500rpm |
最大トルク | 110Nm/6000rpm |
変速機 | 6段 |
クラッチ | 乾式単板 油圧作動式 |
フレーム | チューブラースペースフレーム |
キャスター/トレール | 60.7° / 132.5mm |
サスペンション | F=φ45mm倒立フォーク R=モノショック |
ブレーキ | F=φ310mmダブルディスク+4ピストンラジアルマウントキャリパー R=φ265mmシングルディスク+2ピストンフローティングキャリパー |
タイヤサイズ | F=100/90R19 R=150/80R16 |
全長×全幅×全高 | 2210×830×1110mm |
ホイールベース | 1520mm |
シート高 | 754mm |
車両重量 | 227kg |
燃料タンク容量 | 14L |
価格 | 199万9000円〜 |
BMWの伝統を色濃く残したバリエーションを展開
先代に相当するR nineTは、BMWモトラッドの90周年を記念して2013年に発表され、その後に数々のバリエーションモデルが展開された。
10年後の2023年に発表されたR12シリーズにもこの手法が踏襲されており、まずは今回紹介したR12およびクラシックロードスターのR12 nineTを、2024年から市場に導入。
そして2025年型では、1970年代にレースシーンでも活躍したR90SをモチーフとしたR12 Sが登場。日本仕様は200台限定で、1月に予約が開始されたが、上限に達したためすでに受付は終了された。
クラシックアドベンチャーモデルとして、初代GSとなる1980年のR80 G/Sを思わせるデザインが与えられたR12 G/Sが、海外では3月下旬に発表。2025年夏に日本でも発売開始予定だ。
G/Sに関してはディーラーには仮予約が殺到しているようだ。R nineT時代にあったスクランブラー仕様など、今後の派生モデルにも期待したい。

254万3000円~

297万7000円~

価格未定