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【Thinking Time】㊱「バイクの安全」で活発議論。みんなで取り組むべき課題とは?

*BikeJIN vol.244(2023年6月号)より抜粋

第5回自工会二輪車委員会メディアミーティングが開催された。
今回のテーマはバイクの安全。バイクの販売台数も免許の取得者数も好調のなか
二輪車事故は増え、死亡者数も増加! 我々はなにをすべきなのか?

2050年事故死者数ゼロへ!2030年で2020年比半減が目標

 自工会は二輪車産業政策ロードマップにおいて2050年事故死者数ゼロの目標を定めているが、そこに向けた中間目標として2030年までに2020年比で事故死者数半減としている。そのためには安全のための「技術」、教育や啓発、さらには法整備も含めた「人」、道路インフラなどの「環境」整備が必要だ。

 国が日本のバイクを盛り上げようと二輪業界と協働して策定した「二輪車産業政策ロードマップ2030」には4つの大きな政策課題がある。中でも筆頭に挙げられているのがバイクの安全運転で、2050年に事故死者数ゼロという目標に対して、2030年でまず半減(2020年比)という中間目標を設定している。

 コロナ禍において免許取得者が増え、新車・中古車を問わずバイクが売れ続けているなか「楽しい」「便利」「感染対策に効果的」だけではこの需要の盛り上がりを支え続けることはできない。免許やお金といった多くのハードルを乗り越えて、ビギナーやリターンライダーがやっとの思いでバイクに乗り出しても、1回大きな事故を起こしてしまえば、そこでバイクを降りてしまう、降りざるを得ないということも多い。

道交法の規定見直しによるあごひも締結義務化も?

施策の説明を行なった二輪車企画部会安全教育分科会の飯田 剛さん。各地の安全運転講習会にも指導員として参加している

3月16日、自工会が開催したメディアミーティングのテーマは、まさにコロナ禍以降、最大の市場課題となっている安全運転に関するものだった。自工会が取り組む安全啓発に関する活動報告と、悲惨な重大事故を撲滅するためになにをどうすべきなのか、メディア関係者ら参加メンバーによるディスカッションという2部構成で行われた。参加メディアは二輪専門誌・WEBメディアのほか四輪メディアや大手新聞社、一般情報誌なども含まれており、業界の中からはもちろん、外からの意見や提言にも期待できるものだった。 

自工会からの活動報告では、昨年、自動二輪車(50㏄超)での事故死者数が増えたことに始まり、事故発生時に命を守るために必要な装備である胸部プロテクターの着用率向上、ヘルメット離脱率を下げるためのあごひも締結をいかに啓蒙し向上するか、高校生に安全運転教育を届けることの弊害となっている三ない運動のこれまでと今後、二輪車死亡重傷事故の分析データに基づいて制作された啓発映像等について説明があった。

昨年のバイク事故死者数は435人。原付は減るも自動二輪は増加!
2022年のバイク死亡事故は原付では39人減少したものの、自動二輪車では11人増加した。東京都では事故発生件数も増えている。

 続いて行われたメディア関係者とのディスカッションでは事故発生時にヘルメットが脱げてしまう要因であるあごひも締結の問題について活発に意見が交わされた。長きにわたって啓発活動を続けてきたのにバイク死亡事故でのヘルメット離脱率が25年もの間3割近くで高止まりしているというデータをかえりみて、メディアからも「ここまで変わらないのであれば、あごひもの締結義務化について道交法を改正するなど法整備すべきでは?」といった意見も出された。これまで、道交法にはあごひもの締結に関するルールは規定されていなかったが、今後は二輪業界があごひも締結に関する法整備について提言していく可能性もあることが示された議論だった。

 また、自工会は、2030年までに全国で三ない運動を撤廃するといった目標も示している。正直このスケジュール感についてはかなり無謀ではないかと思われるが、これを実現するためになにをどうしたらいいのかについて真剣かつオープンに議論できる場が作られるのならば大歓迎だ。

 これまで業界団体として安全普及を担当してきた日本二輪車普及安全協会の活動を見直す、あるいはバイクを教えてあげられる人材の育成やそのために必要な運用組織を別個に作る、指導員や講習内容の基準をコミューター領域に限定して間口を広げるなど、各校単位で残ってしまっている三ない運動に対して小回りの効く動きができるような体制づくりが求められているが、現体制のままで向かうなら目標達成は難しいと思われる。

7月1日に迫る電動キックボード等の特定原付車両の解禁を見越せば、混合交通下でのパーソナルモビリティの安全をどう守っていくのかについて、自工会という枠組みを越えた視野の広い議論も必要となる。現在、自工会の中では二輪・四輪部門が協働し事故減少への施策検討が始まっているが、新たなモビリティを含めるためには縦割りのお役所のような仕事では実現は難しいだろう。異なる業界や業種、省庁を横断するような形で会議体を設けるなど、柔軟な発想で取り組まなければ混合交通での事故は減らないどころか増える可能性もあるだろう。

ジャーナリストらメディア関係者からするどい質問が飛んだ!

これまでメディア席のレイアウトは列になっていたが、今回は意見交換がしやすいロの字型にセットされていた

自工会メディアミーティングには二輪専門メディアのほかにも業界紙、四輪媒体、新聞社、一般情報誌などの多様なメディアが参加している。そうしたメディアからは時に二輪業界がはっとさせられるような質問が寄せられることもある。専門誌ではないからこその素朴な疑問や提案が発言され、テーマや課題の根本をあぶり出すような効果もあるので、やり取りを聞いているだけでも楽しい場だ

[ メディアからの主な提言 ]

・あごひもを締めないとエンジンかからない仕組みが必要
・あごひも締結について道交法改正を働きかけるべき
・免許更新時に啓発映像を流してもらうとよい
・胸部プロテクターの選び方、フィット法など啓発を
・啓発映像はもう少し事故の怖さを教える内容にしては?
・二輪は視野が狭い。他分野と定期的な話し合いの場を

4つの取り組み

取組 1】胸部プロテクターに関する調査結果

昨年、自工会は二輪車用胸部プロテクター認知度調査を実施。認知度は75%に達したが保有率は18.1%にとどまり着用率はその半分程度だった。小排気量ユーザーへの着用が課題だ

取組 2】ヘルメット離脱率に向けた取り組み

バイク死亡事故ではヘルメットが脱げてしまう割合が3割もあり、それがなんと25年間も変わらずに続いていた。排気量が小さいバイクほど離脱率は高まるが、年齢層は関係なく、実は低速域での事故ほど脱げていたというから驚きだ

取組 3】高校生の安全教育による三ない運動見直し

実質的な三ない運動はまだまだ残っている。自工会は2030年までに全国で撤廃するという高い目標を立てている。2019年に三ない運動から交通安全教育に切り替えた埼玉県では、以降毎年、県内各エリアごとに安全運転講習会を開催している

→ 三ない運動は2030年までに……
 ・全国の三ない運動が撤廃
 ・全国の二輪に乗る高校生が安全運転教育を受講できている
 ・在学中の事故最小限(教育受講高校生の死亡事故ゼロ)
 ・卒業後の初心運転者事故削減に寄与

取組4】二輪車重大事故削減に向けた啓発映像制作

バイク乗車時の死亡重傷事故類型で割合の多い四輪との出会い頭事故や右折直進事故などへの対策として啓発映像を制作しYouTubeで配信中。梅本まどかさんや宮城光さんが出演し、分析データを基にしたアドバイスが受けられる

日髙委員長がミーティングを総評。「本音の議論になってきた」と評価!

一般社団法人日本自動車工業会 副会長兼二輪車委員会 委員長 日髙祥博

旧態依然とした考え方から脱却しないといけない

だいぶ本音の議論になってきてるなと感じています。規制とかそういう所に入っていくとバイクが売れなくなるみたいな、不都合な真実を隠すような旧態依然とした考え方から脱却しないといけないので、危険性を伝えながらもこうすれば安全なんだとやっていかないといけない

特定原付も含めた会議体の必要性を議論したい

今後、電動キックボードが出てきた時に、二輪車じゃないからと不都合な真実に目を向けないみたいな委員会でいいのか。四輪と二輪の事故の話もあったが、スクーターが電動キックボードをはねることが起きるかもしれない。そこも包括した会議体みたいなものの必要性も議論していきたい

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