“保管場所”にとどまらないシェアガレージという選択|令和のガレージライフ拝見!

祐天寺の住宅街にある静かなシェアガレージ。そこは、走るためだけではなく“バイクと過ごす時間”を楽しむライダーたちの憩いの場だった。立案者であり利用者でもある北川さんが語る、バイクと共にある豊かな生活とは――

写真/後藤武久
文/矢巻広介

祐天寺のシェアガレージで静かに満ちる日常の時間

祐天寺の住宅街にひっそりと佇むシェアガレージの一角に鎮座し、黒光りするエリミネーター。「ひと息つきにガレージに来るだけで“バイクと過ごしてる”って感じがするんですよ」

このエリミネーターの所有者である北川さんは、このシェアガレージの立案者であり、設計者でもある。元々は建物の半地下にあった駐車場を1年半前にリノベーション。自身の暮らしの延長として“バイクとの居場所”をつくった。

図らずも同系色のバイクが揃い、まさに「類は友を呼ぶ」を体現したようなシェアガレージ。取り回しのスペースも充分にある

とはいえ、今日の主役はあくまでバイクライフを楽しむ一人のライダーとしての北川さんだ。「ガレージでは、知り合いから譲り受けたCDの中から1枚選んで、CDプレーヤーで音楽をかけながら一服するのが楽しみなんです。そうしていると、ちょっとした“自分の時間”って感じになるんですよね」

ガレージ内では譲り受けたCDをガレージのCDプレーヤーで気分に合わせてセレクトし、音楽を流しながらくつろぐ。晴れた日には愛車を洗車場でゆったり整える。自分のペースでバイクと過ごす週末。そんな静かな時間が、北川さんにとって何よりの癒しになっている

「家に帰る前や仕事の合間に、ここに寄ることがあるんですけど、その時間がいいんです。誰にも邪魔されないし、やることも決まってない。何もしなくても満足できる場所って、意外とないですから」

このガレージの居心地の良さには、もうひとつ理由がある。それは、利用者同士のちょうどよい距離感だ。

「顔は知ってるけど、干渉はし過ぎない。気が向いたときにちょっと話すくらいの空気感がいいんです。シェアガレージって、全員が適度な距離感を保っているからこそ、安心感が生まれると思うんです」

単なる保管スペースではなく、“居場所”としてのガレージ。そこには空間のゆとりと、ちょうどいい人間関係が流れている。誰かと会えば軽くあいさつを交わす。ときにはオーディオで音楽を流しながら、ボーっとする。ガレージ内の棚には利用者たちのこだわりの小物がディスプレイのように並び、その空間に個性と共感が滲む。

実際、そんなタイミングでふらっと現れたのが、同じく利用者のひとりでもある平野さん。

「近すぎず、遠すぎず」。ほどよい距離感でバイク談義に興じる北川さん(右)と平野さん(左)。立場や年齢は異なる二人だが、どこか似た雰囲気が漂っていた

「ここって、“バイクに乗らない日も乗っているような感覚”になれる場所なんですよね」と平野さんは言う。

「愛車をいじる場所があるからこそ、カスタムの妄想が膨らんだり……そういう時間がすごく楽しくて。この場所はバイクに乗れてなくてもバイクライフを豊かにしてくれるんです」平野さんはそう続けた。

そのあと2人は数分他愛もない話をしてから、またそれぞれの時間に戻っていく。「都内でバイクを持ってると、どうしても“置き場所”の問題がついて回りますよね。ここがあるからバイクを手放さずに済んでいる、って人も多いと思います。自分もそうだったかもしれないし」

そう話すのは北川さん。実際、北川さん自身もこのガレージを利用するようになってから、バイクに乗る頻度が格段に増えたという。以前は友人のガレージや自宅から離れた駐輪場を転々とし、「乗る」こと自体が面倒になっていた時期もあったそうだ。そういう意味でもこのガレージは、単なる保管場所にとどまらない“もうひとつの部屋”であり、“バイクと自分をつなぐ場所”にもなっている。

バイクが趣味であるならば、その時間はなにも“走っているとき”だけじゃない。北川さんの過ごし方は、そんな“豊かな生活”を静かに教えてくれる。

今回取材した「Bond & Garage」の立案者、北川さん。今後シェアガレージをシリーズ展開していきたいそうだ

築年数‥‥55年 
面積‥‥‥88㎡
賃料‥‥‥2万2000円(賃料+共益費+税)
所有車両‥Kawasaki ELIMINATOR

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