【フロントブレーキとリアブレーキの”役割と順序”】リアブレーキの操作は高度なテクニック

近年はロードレースの世界でも、リアブレーキの重要性は広く認知されている。そのトレンドはスポーツライディングの分野にも伝播。しかし、だからこそ解釈を間違ってはいけない。確かにリアブレーキは走りの安定化などに有効だが、マシンコントロールの〝脇役〞にしかなり得ず、それでいて習得が意外と難しい、高度な技術なのだ。ブレーキングの順序と役割を、原田哲也さんに学ぶ

PHOTO/S.MAYUMI TEXT/T.TAMIYA
取材協力/ 本田技研工業 70120-086819 https://www.honda.co.jp/motor/

レースではトレンドだがスタート地点ではない

近年のロードレースでは、その世界最高峰に君臨するMotoGPの影響もあり、リアブレーキが大きなトレンドのひとつ。これは4ストローク化により車重が増えたことも大きく関係しています。例えばフロントブレーキを引きずったままコーナー進入で車体を寝かせていったときに、車重がもたらす負荷で前輪が切れ込みそうになりやすいし、ピッチングが発生したときに、より大きな力がフロントに加わりやすいわけです。

現代の優秀なレーシングライダーたちは、これを緩めて車体の姿勢を整えるため、積極的にリアブレーキを使う傾向にあります。

僕は、2ストロークマシンに乗っていた現役時代からリアブレーキをわりと使うほうでしたが、当時はそれほどメジャーなテクニックではなかった印象。リアブレーキを使わないという選手もいて、中でもカジバ時代のエディ・ローソンは「効かなくていいから、軽いカーボンディスクにしてくれ」と言っていた、なんて話を聞いたこともあります。

一方で現在のMotoGPでは、左手でより繊細にリアブレーキをコントロールすることを求めるライダーも多いわけですから、レースシーンにおけるライディングのセオリーは大きく変化したと言えるでしょう。

そういえばドゥカティは、昨年のパニガーレV4を皮切りに、リアブレーキを自動制御する電子制御デバイスを市販車に導入。メーカーも、MotoGPライダーのリアブレーキ操作に着目しているのでしょう。

そんなわけで僕が主宰しているライディングスクールでも、「リアブレーキの使い方を教えてください」なんて生徒さんが多いのですが……。はっきり言ってしまえば、フロントブレーキを上手に使いこなせていない段階なら、リアブレーキのことなんて意識しないで大丈夫。その理由を説明するのは簡単で、「リアではフロントのように止まれないから」ということに尽きます。

リアには車体姿勢を制御する効果もありますが、ブレーキに与えられた最大の役割は減速。そして鋭く確実に車速を落とせなければ、サーキットのスポーツライディングを安全に楽しむことができません。

【ポストラン機能の狙いは鋭いコーナリングライン】レースeCBSのポストラン機能は、旋回動作に移ってライダーがフロントブレーキをリリースした後でも、電子制御で自動的にリアブレーキを短時間かけ続ける。これにより、誰かが車体を押さえてくれているかのような安心感をもたらし、よりV字に近い鋭いコーナリングが可能になる
【ポストラン機能の狙いは鋭いコーナリングライン】レースeCBSのポストラン機能は、旋回動作に移ってライダーがフロントブレーキをリリースした後でも、電子制御で自動的にリアブレーキを短時間かけ続ける。これにより、誰かが車体を押さえてくれているかのような安心感をもたらし、よりV字に近い鋭いコーナリングが可能になる

一般的なバイクだと、リアブレーキが発揮できる制動力はフロントブレーキの数十分の一。つまり、どんなにリアが上手に使えても、フロントがちゃんと使えていなければ、減速という点で意味がないのです。

また、リアと同じくフロントにも車体姿勢をコントロールする役割が与えられていて、これはコーナーで一次旋回を高めることにつながります。サーキットを上手に走ることが目的なら、リアブレーキによる車体姿勢制御よりも、まずは進入での車体姿勢づくりをマスターするほうが圧倒的に効率的。最優先すべきは、フロントです!

(原田哲也)

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