【スズキ 隼 Build by AELLA】気遣いが創り上げた圧巻の高バランス【青木宣篤インプレッション】

宇治抹茶を思わせる渋いマットグリーンは、ただの色ではない。この色が象徴しているのは、繊細にバランスを取る和のモノ作りの姿勢だ。アエラが手がけたハヤブサ「京翠」から、ハッタリやコケ脅しは感じられない。走りの本質をひたすら磨くアエラの真摯さが、「京翠」を形作っている。

PHOTO/H.ORIHARA, S.MAYUMI TEXT/G.TAKAHASHI
問/アエラ TEL075-622-7439 https://shop.aella.jp/

ハヤブサに乗るのは久しぶりだ。しかし、過去にたっぷりと走り込んでいるから、STDのハヤブサのポジションやライディングフィールは身に染みついている。

今回試乗したハヤブサは、「京翠(KYO-SUI)」と銘打たれた、アエラの手によるフルカスタム車両である。3月の東京モーターサイクルショーで初公開された「京翠」は、5月には「テイスト・オブ・ツクバ ハヤブサMTG」にも展示。いずれの会場でも大きな注目を集めた。

宇治抹茶を想起させるカラーリングは、京都に本社を構えるアエラらしい和テイスト。随所で光るゴールドの差し色とのコンビネーションは見事で、大人を満足させる上品さだ。

そしてその上品さは、走りでも見事に表現されていた。サーキットで試乗を終えた私のひと言めは、「これ、純正?」というものだったのだ。

思わず口をついて出てきた、正直な感想である。そしてこれは私にとって、最上級の褒め言葉でもある。純正はメーカーが開発にたっぷりと時間とコストをかけて、最上にして最良のバランスを持たせている。そしてアエラが誇るカスタムパーツが盛り沢山の「京翠」で走り終えてこのような言葉が出てきてしまったのは、ハヤブサが本来持っている優れたバランスが少しも崩れていなかったからだ。

私も過去にはスズキ・MotoGPマシンの開発に携わるなど、ことバイクに関してはそれなりのセンサーを持っているつもりだ。その私でさえ「純正?」と思ってしまうほど、「京翠」の完成度は極めて高い。

とにかく多数のカスタムパーツが盛り込まれている。走りに大きく影響するところでは、ポジションが変わっているし、マフラーはアールズ・ギア製のチタンフルエキゾーストが装着されている。

にも関わらず、私は何ひとつ違和感を感じなかった。これはつまり、バイクメーカーと同等レベルでの作り込みとバランス取りが行われた、ということなのだ。

いかに優れたカスタムパーツでも、ただ装着するだけで優れた走りにはならない。優れたパーツを装着した時ほど、全体のバランス取りに神経を使わなければならない。「京翠」は、その手間をまったく惜しんでいない。純正のバランスを維持したまま、扱いやすさ、快適さ、性能を高めている。気持ちよく走らせながら、アエラの細やかな気遣い──まさに和の心意気を感じる。

純正のようにナチュラルで、純正よりも上質。ハヤブサらしさを損なうことなく、ハヤブサの個性を引き上げ、なおかつビルダーとしてのアイデンティティを主張する。これぞ、価値あるカスタムの姿だ。

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