
「DUCATI Panigale V4 R&BMW M 1000 RR」日本の防衛網を切り裂く二隻の黒船【DUCATIとBMWが提案するライディングプレジャー】
長きにわたって世界グランプリを圧倒してきた日本メーカーだったが、今や欧州メーカーの勢いに押されている。その力強い波は、昨年のドゥカティ、そして今年のBMWと、全日本ロードレースにも押し寄せ、新しい時代を切り拓きつつある。果たしてこれは、レースに限った話なのだろうか。あるいは──。
この記事はRIDERS CLUB 2025年 7月号に掲載されたものを再編集したものです。
「意外と普通に乗れました」。
BMW M1000RRのシェイクダウンを終えた直後、浦本修充は淡々としていた。
浦本が走らせたM1000RRは、’24年にスーパーバイク世界選手権でトプラク・ラズガットリオグルがチャンピオンを獲得したマシンとほぼ同スペックの「ファクトリーマシン」である。エンジンはBMWのベルリン工場で組み上げられ、文字通りのワークス仕様だ。
これを、全日本ロードレース選手権JSB1000クラスで走らせる。同クラスの規則に合致させるため多少はモディファイしているとはいえ、BMWファクトリーマシンがどんな走りを見せるのか、全日本ロード開幕直前のテストで行われたシェイクダウンは大きな注目を集めた。
浦本にとっては初めての外国車だ。ファクトリースペックに対する期待と同じぐらい、「ちゃんと走れるのかな」という不安があった。
レースにおける「ちゃんと走れるかどうか」は、タイムが出せるかどうかに尽きる。浦本はまったくのシェイクダウンにも関わらず、初回の走行セッションで8番手に。「すごい!」と色めき立つ周囲をよそに、「う〜ん、トップから1秒以上離れてますからねぇ……。でも、意外と普通に乗れました」と言った。

「まともに走れるだろうか」という初の外国車に対する不安を、M1000RRの性能が払拭したのだ。テストで手応えを得た浦本は、開幕戦でさらにタイムを縮める。予選3位、決勝3位と、初陣で表彰台を獲得。ヤマハ・ファクトリーマシンYZF-R1の中須賀克行にストレートで並び、アウトから抜き去る素振りを見せ、サーキットを湧かせた。
だが、彼の目標は勝利でしかなかった。「表彰台はうれしいけど……、最後は中須賀さんに離されてしまったのが悔しい」と、思いは複雑だ。マシンが高性能だからこそ、自分の足りない部分に気付かされた。
ふたりのずっと先に、真紅のマシンがいた。ドゥカティ・パニガーレV4Rの水野涼だ。このマシンでの戦いは2シーズン目。速さに強さが加わって、独走のポール・トゥ・ウインを成し遂げた。
ドゥカティ、ヤマハ、BMWのファクトリーマシンが上位に並ぶ姿は、全日本ロードが確実に新しい時代に突入したことを示していた。
今や巨大企業になった日本メーカーは、モータースポーツ活動にさまざまな制約が課せられている。それを横目に、イタリアのドゥカティ、そしてドイツのBMWには、極めて明快だ。難しい理屈や厳しい現実は抜きにして、「目の前の勝負に勝つ」というシンプルな動機。刹那的で、快楽的で、迷いがない。だから、とことんポジティブだ。その力強さをブランドイメージに直結させている。
問答無用で全日本ロードを席巻しつつある、ヨーロッパの風。日本は、どう反応するのだろうか。反応できるだろうか。

