サーキットで上手にタイヤを温める方法【ディアブロマン直伝】

実はプロライダーは「タイヤを温める技術」もハイレベルな人が多い。そこで、ピレリジャパンのオフィシャルライダーであるディアブロマンに、“転ばないため”の上手なタイヤウォームアップ方法について教わった!

タイヤが最高の性能を発揮できる状態を狙おう

「サーキット走行会では、1周目に転倒、あるいはその一歩手前でコースアウトしてしまう参加者をたまに見かけます。その走行枠をまったく走らないうちに終わってしまうというのは、仮にバイクの破損が軽度で、その後の枠で復活できたとしても、本当にモッタイナイと思います!」

ライパで併催しているディアブロマンコーチングでインストラクターを務め、走行会事情にも詳しいピレリジャパンオフィシャルライダーのディアブロマンは、「せっかくお金を払って参加するサーキット走行会を、とことん味わい尽くし、自分だけでなく他の参加者の走行時間を減らさないためにも、タイヤが温まるまではとにかく慎重に!」と話す。

公道用の二輪タイヤは、技術革新により以前と比べて温度依存性が低い製品が増えている。とは言えタイヤはゴム製品の一種なので、温度が低いと硬化して本来のグリップを発揮することができない。

【コースイン1周目は転倒が結構多い3周目までは温めることを意識】サーキット走行会に限らずレースにおいても、タイヤがまだ温まっていないコースイン直後の転倒は非常に多い。レースなら、それでも勝負を懸けないといけないときもあるかもしれないが、走行会では無意味。どんなコースでも、3周目まで様子を見るのがディアブロマン流なのだ

一方で、タイヤは高負荷がかかることで発熱するので、ハイグリップタイヤの場合は、その状態で最高のパフォーマンスを発揮できるように設計されている。その温度域は基本的に外気温より高いので、「朝イチだけでなく、インターバル後のコースイン直後は毎回、その温度域まで上げてあげる必要があるのです」と、ディアブロマンは解説する。

ちなみに、タイヤの温度が上がると内部の空気が膨張して内圧も上がる。サーキット走行では、それを見越して走行前に空気圧を下げておくのがセオリーだ。つまり「タイヤを温める」と「内圧を管理する」は密接な関係にある。走行会では、どちらにもしっかり気を配りたい。

そして、タイヤには「リスクの少ない温め方」が存在する。これを覚えておくことも非常に重要なのだ!

【タイヤのウォームアップには空気圧も重要な要素になる】タイヤの内圧が高すぎると、接地感が得づらくて不安になりやすく、逆に低すぎると、温まってもタイヤが適切に機能しづらい。温度と内圧はセットで管理しよう
【タイヤのウォームアップには空気圧も重要な要素になる】タイヤの内圧が高すぎると、接地感が得づらくて不安になりやすく、逆に低すぎると、温まってもタイヤが適切に機能しづらい。温度と内圧はセットで管理しよう
【ピットや日陰に停車しているとタイヤの温度はみるみる下がる】例えばライパの場合、いつものタイムスケジュールだと走行インターバルは約45分。それでも春先や晩秋のピット内にバイクを置いておくと、タイヤはかなり冷えている
【ピットや日陰に停車しているとタイヤの温度はみるみる下がる】例えばライパの場合、いつものタイムスケジュールだと走行インターバルは約45分。それでも春先や晩秋のピット内にバイクを置いておくと、タイヤはかなり冷えている

タイヤウォーマーがあれば温める時間を短縮できる

簡単に解説するなら、レーシングスタンドを掛けて地面から浮かせたタイヤに巻き付ける、電気毛布のようなアイテムがタイヤウォーマーだ。サーキットへの運搬にはトランポ、現地で稼働するためには発電機も必要になるが、これを使うことで走行前にタイヤを“予熱”しておけるのだ。

サンプル画像
【capit】タイヤウォーマー スープレマ ビジョン
11万2200円~(前後セット)
12万4300円~(前後セット/ノーメックス生地)
問/モトコルセ TEL046-220-1611
https://www.motocorse.jp/

ローリングはリスキーダラッとでは温まらない

サーキット走行会でコースイン直後の数周を観察していると、走行クラスによって「タイヤを温めるライディングスキル」にも大きな差があることに気づくかもしれない。

1周目の全部、あるいは中盤あたりまでが追い越し禁止に設定されている場合、初中級者クラスだと前のライダーを漠然と追走してスローペースをキープしている人も多いが、これだとタイヤは温まりづらい。上で解説したように、タイヤは変形することで内部から発熱する。ゆっくり、そっと走っているだけでは、ほとんど温まらないか、外気温や路面温度によっては、むしろ表面が走行前より冷えてしまう場合もあるのだ。

だからと言って、コースイン直後から少しでも深く寝かせて摩擦熱を……なんて走りは言語道断。温まっていないタイヤは、簡単にライダーを裏切ることがある。レースでよく見かけるローリングは、そもそも走行会でやるのは危険なのでNGだが、そうでなくても「直線区間におけるコーナリングの一種」なので、タイヤがまるで温まっていない状況でやるのは、これまたリスキーだ。

そこでディアブロマンが実践しているのが、「コースイン直後はコーナーをゆっくり走るけど、ストレートでは前後タイヤに長く荷重をかけることを意識し、加速時のアンチスクワット効果と、減速時にフロントフォークから伝わる荷重で、タイヤを揉んで変形させる走り」だ。

【直線区間で長めに加減速してタイヤに荷重をかけていく】ディアブロマンは、効率よく安全にタイヤを温めるため、バイクが寝ていないストレート区間で、加速時は少し高めのギアでスロットルをじわ~っと長く開け、減速時もギュ~ッと長くレバーを握りつつコーナー手前で確実に速度を落としている。ダラッと“流している”とタイヤは温まりづらい

これにより、冷えたタイヤでいきなり深くバンクさせることを避け、仮にタイヤが滑った(あるいは電子制御が介入した)としても、リスクが少ない直立状態でタイヤを温められる。

ただし、走行会ではある程度のレベル差があるライダーが同じクラスで走ることも多く、前述のようにただゆっくり走っているライダーに詰まり、追い越し禁止の間は思うように加減速ができないことも多い。そんな理由もあり、ディアブロマンはもうひとつのマイルール導入を推奨。それが「どのコースでも最初の3周はトバさない」だ。

グリーンフラッグが提示されたらいきなり全開……ではなく、そこから自分のペースを作りはじめ、タイヤだけでなく自分自身もウォームアップしていくというわけだ。

タイヤウォーマーを使わず、もちろんレースの決勝でもないなら、ディアブロマンは「コース全長に関係なく、とにかく最初の3周はトバさない」を推奨。マシンを深く寝かせることを避け、タイヤを温めることに気を遣いながら、「自分とマシンとコースの状態を再確認する時間にもしています」とのことだ
タイヤウォーマーを使わず、もちろんレースの決勝でもないなら、ディアブロマンは「コース全長に関係なく、とにかく最初の3周はトバさない」を推奨。マシンを深く寝かせることを避け、タイヤを温めることに気を遣いながら、「自分とマシンとコースの状態を再確認する時間にもしています」とのことだ

「コースイン直後のウォームアップ時に限らず、ライダーにとって一番大切なのは自分自身の感覚。他の参加者たちがいきなりトバしはじめたからといって、それにつられて自分も……というのはナンセンスです。最初の3周は絶対にトバさず、しっかりタイヤを温めて内圧を上げ、自信を持って走れる状態だと確認してから、それぞれのレベルでスポーツライディングを楽しみ、スキルアップも目指してください!」

転ばず安全に上達してほしいからこそ、ディアブロマンはこのようにアドバイスする。

タイヤに力が加わって変形と回復を繰り返すと、ヒステリシスロスというエネルギー損失が発熱を生む。路面との摩擦熱がタイヤ表面で発生するのに対し、変形による発熱はタイヤ全体を内部から温めるため、走行風による影響が少なく効率的で、車体を寝かさなくても生み出すことができる
【加減速の荷重で内部構造に変形が起きて発熱する】タイヤに力が加わって変形と回復を繰り返すと、ヒステリシスロスというエネルギー損失が発熱を生む。路面との摩擦熱がタイヤ表面で発生するのに対し、変形による発熱はタイヤ全体を内部から温めるため、走行風による影響が少なく効率的で、車体を寝かさなくても生み出すことができる
レースシーンでよく見かけるのが、ストレートで蛇行するローリング走行。しかしディアブロマンは、「まるで効果がないとまでは言いませんが、タイヤが完全に冷えた状態でマシンを寝かせる行為はリスクが高いし、摩擦熱でタイヤの表面だけ温めても、効率が悪いのです」と解説する
【荷重でタイヤを変形させるイメージローリング走行は避けた方が無難】レースシーンでよく見かけるのが、ストレートで蛇行するローリング走行。しかしディアブロマンは、「まるで効果がないとまでは言いませんが、タイヤが完全に冷えた状態でマシンを寝かせる行為はリスクが高いし、摩擦熱でタイヤの表面だけ温めても、効率が悪いのです」と解説する

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