
【スポーツライディング好き必見!知っておきたいライテク用語】Part05:コーナーリング編
スポーツライディングの世界には、よく使われる専門的用語や表現が多数存在する。もちろん、その意味を知らなくても、ライテクが上達しないわけではない。しかし、知っていれば頭での理解度はより深まり、ライテクを”吸収”する助けとなる。安全で確実なライディングスキルアップのために、”用語”という武器も手に入れよう。
PHOTO/H.ORIHARA TEXT/T.TAMIYA
取材協力/ドゥカティジャパン
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速いのに安全でスムーズな逆算のV字ラインが基本
車体が軽い小排気量のレーサーは、高い車速を保ちタイヤのエッジグリップに頼りながら旋回するのが主流ですが、現在の市販スポーツモデルは車重もトルクもある大排気量車が中心ということもあり、そのような走りはリスキーでしかありません。タイヤのエッジ付近は加速のパワーを受け止めてくれないので、立ち上がりでいつまでもマシンを深く寝かせていたらスロットルを開けられず、せっかくあるパワーを活かせなくなってしまいます。
そこで意識してもらいたいのが“ライン取り”。インに寄せはじめる地点を奥に設定し、しっかり車速を落としてタイトに曲がることで、立ち上がり側に余裕が生まれ、ムリなく開けられるようになります。
5段階コーナリング:漫然と曲がるのではなく段階的に切り分けて考える
ブレーキングの項でも触れたように、中野さんの場合、ヘアピンカーブなどの基本となるコーナーでは、やるべき操作を5段階に分けて考えている。このうち旋回に相当するのは“曲げる”から“開け始め”までの3段階で、“寄せる”や“立ち上がり”でもマシンは寝ているが、減速や加速のための区間という意識のほうが圧倒的に強い。
コーナーのレイアウトなどによっても異なるが、基本的には“寄せる”の最終段階まで、“トレイルブレーキ”によりマシンの旋回力を高めた状態をキープ。フロントブレーキを完全にリリースするのと同時に、最も深くバンクさせて“曲げる”に移行する。
深いバンク角を保ちつつバランスを取り、“開け始め”に備えるのが“探る”段階。そして“開け始め”では、わずかにスロットルを開け、リアタイアのエッジがグリップするのを感じるまで少し待つ。中野さんの場合、この“開け始め”で得られるリアのグリップによる旋回力を、“2次旋回”と捉えている。
そして、車体の向きを大きく変えるための操作は、この“開け始め”までの間に完了。“立ち上がり”では、意識的に車体を起こしてスロットルを大きく開け、鋭い加速力を引き出す。
この走りを実現するためには、下で紹介する“V字ライン”が効果的だ。

曲げる瞬間にグッと上半身をさらに下げる
“寄せる”の段階でも、大まかな減速を終え“トレイルブレーキ”に移行したときにはすでに上半身が低くなりはじめているが、ブレーキをリリースするのと同時に肘のロックを完全に解除してさらに頭の位置を下げ、より深いバンク角に持ち込む。


V字ライン:クルッとタイトに回って立ち上がり重視のラインに
進入でしっかり減速し、フルバンクで旋回する時間をなるべく短くして、マシンを起こしながら鋭く加速する走りを表現するのが“V字ライン”。
実際は、例えば180度のヘアピンカーブできれいな「V」を描こうとすると、インに寄るのが早くターンはキツくなりすぎるが、コーナーの中で車体の向きを変えるポイントを明確につくることをイメージした表現である。
大排気量車のパワーを活かし、リスクを減らしながら爽快なライディングを楽しめるラインだ。

クリッピングポイント:イン側に最も近付く地点をコーナーの奥に設定するのが基本
一般的には、そのコーナーで最もイン側に近づく地点が“クリッピングポイント”。日本語では、“クリッピング”や“クリップ”と略されることも多い。
サーキットにおけるコーナリングの基本はいわゆる“アウト・イン・アウト”で、その途中で一番インに寄るところを指す。理想のラインを通れずアウトに膨らんでしまった場合に、「クリップにつけなかった」なんて表現することもある。
“クリッピングポイント”をコーナーの奥に設定すると、“V字ライン”を実現しやすい。
ダブルクリップになるコーナーもある
複合カーブや、高めの速度で進入してコーナーの中でも減速を続けるようなレイアウトの場合、“クリッピングポイント”が進入側と立ち上がり側の2カ所になる場合もある。

ボトムスピード:最低速度を落とすことがV字ライン成功の秘訣
そのコーナー(区間)での最低速度を指すのが“ボトムスピード”。これが高すぎると、鋭く旋回することが不可能になる。“ボトムスピード”は、市販のGPSロガーで計測可能。このデータを検証してみると、「ラップタイムが5秒も速いプロのほうが、ヘアピンカーブの“ボトムスピード”が一般ライダーより低かった」なんてことも少なくない。
コーナーを頑張ると速く感じるが、“立ち上がり”でアウトにはらんで加速が鈍るなどのロスが多いのだ。ちなみに、ほんの数km/h落とすだけで、より上手に走れるようになることもある。
補講
エイペックス
「頂点・先端」の意味を持つ英語で、サーキットではコーナー内側の頂点を指す。構造的な“エイペックス”はコーナーレイアウトにより自動的に決まるが、この言葉は“クリッピングポイント”と同じ意味で使われるときもあり、この場合はライン取りによって変化することになる
キャンバースラスト
回転しているタイヤが傾いたときに、傾いた方向に転がろうとする力のこと。バイク用タイヤは、この“キャンバースラスト”を積極的に使うように設計されており、傾きとともに大きくなる。ただし旋回力の発生には、“セルフステア”や“スリップアングル”などが複雑に関係している
チャタリング
走行中に前輪が小刻みに跳ねる現象。旋回中に発生することも多く、その振動がステアリングに伝わり、安定性や操縦性を阻害する。“チャタリング”が厄介なのは、発生原因を特定するのが難しいところ。フレームやサスペンション特性、エンジンや外装類の振動が関係している場合もある