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ドゥカティ パニガーレ V2S 軽さとパワーダウンが導いたファンライドの最適解【DUCATIとBMWが提案するライディングプレジャー】

思い切った、そして割り切った選択が、完全に奏功した。エンジンパワーという分かりやすい指標より、車体の軽さを選んだドゥカティ。新世代のライトウェイト・ミドルスポーツ、パニガーレV2Sは、スポーツライディングの本質的な喜びに磨きをかけている。

PHOTO/H.ORIHARA, S.MAYUMI, T.SATO, T.OGOSHI
TEXT/G.TAKAHASHI
取材協力/ドゥカティジャパン ☎0120-030-292
https://www.ducati.com/jp/
ビー・エム・ダブリュー ☎0120-269-437
https://www.bmw-motorrad.jp/

誰もが爽快に楽しめるこれぞDUCATIの新しい“味”

もしかすると、賛否が分かれるバイクなのかもしれない。「否」は言い過ぎだろうか? ただ、熱狂的なドゥカティスタほど、新型パニガーレV2Sに対して疑問を持ちそうだ。「これが本当にドゥカティなのか?」と。

 それぐらい、パニガーレV2Sは既存の「ドゥカティらしさ」とは別のところにいる。最初にお断りしておきたいのは、決して良し悪しの話ではない、ということだ。バイクは趣味の乗り物。乗る人それぞれの好みがあって当然だし、メーカーにもそれぞれのモデルに合った考え方があり、趣味だけに振れ幅は大きいものだ。だから、バイクを「良い、悪い」「正しい、正しくない」と判断するのは、僕のスタイルではない。

 そのうえで話を進めたいのだが、パニガーレV2Sからは長年ドゥカティの乗り味の魅力とされていたクセ、あるいは個性のようなものがキレイさっぱりと消えている。ハンドリングはとてもニュートラルで、パワーも無理なく扱える範囲に収まっており、車体の軽量さと相まって、文字通り万人に勧められる優等生的なバイクになっているのだ。

 こういったライダーフレンドリーな特性が、既存の「ドゥカティらしさ」と別モノ、という印象を呼ぶ。ということは、逆に言えばドゥカティらしさとは、独特なクセであったり、ある種の手強さのようなものだった、ということになる。

 確かにそういうアクの強いバイクほど、乗りこなせた時の達成感は大きい。試行錯誤しながら頑張って自分のものになった瞬間には、喜びに包まれ、もう手放せなくなるような一体感が得られるだろう。

 今もドゥカティにはそういうバイクがある。もっとも分かりやすい例がパニガーレV4Sだ。凄まじいパワーを持つあのバイクは、スキル面でも価格面でも乗る人を選ぶ。世界グランプリを戦っていた僕でさえ、パニガーレV4Sに乗る前は呼吸を整えるほどだし、サーキットを走っても限界に近付ける気がしない。

 その点、パニガーレV2Sは真逆だ。とにかくこのバイクは疲れない。精神的にも肉体的にも負担が少ないから、さほど緊張する必要もなく、サーキットをそれなりに周回しても疲労感がない。

 パニガーレV4Sのようなスリリングさとは対極にあり、ライダーを怯えさせるのではなく、その気にさせてくれる。そしてその気になれば、多くのライダーがスロットルをストッパーにカチッと当たるまで全開にできるだろう。

 新型パニガーレV2Sは、従来型の同名モデルとはまったく趣が異なる。むしろ従来型と同じなのは名前とVツインという気筒配列だけ、と言ってもいいぐらいだ。

 エンジンは従来型の955㏄から65㏄ダウンして890㏄になった。そしてパワーは従来型の155㎰から35㎰ダウンして120㎰になった。スペック至上主義、パワー至上主義では考えられない。特にMotoGPで常勝し、ハイパフォーマンスでブランドイメージを高めているドゥカティにとっては、スペックダウンという「由々しき事態」が起きているわけだ。

 だが僕は、これは大英断だったと思う。単純にエンジンがスペックダウンしたのではなく、軽量化が伴っているからだ。エンジン単体で9.5㎏、車両全体では17㎏もの軽量化は、僕に言わせてもらえれば圧倒的に正しい。

 冒頭で「正しい、正しくないという判断はしないのが僕のスタイル」と言ったが、軽さだけは除外させていただきたい。バイクにおいて、軽いことは絶対的な正義だ。

 軽さは運動性能を高めてくれる。しかもデメリットはほとんどない。意のままの操縦感覚は軽い車体のバイクならではの気持ちよさで、新型パニガーレV2Sからも見事にその快感を味わうことができる。

 新型パニガーレV2Sに試乗するのは今回が2回目だ。1回目の舞台だったスペイン・セビリアサーキットでは、240㎞/h近い最高速が出た。今回はそれよりグッと低速の筑波サーキット・コース1000での試乗となったが、やはり「軽さは正義」であることを確認できた。

 低速ヘアピンをふたつ備えたコース1000でも、新型パニガーレV2Sのエンジンは低回転域から十分なトルクを発生するので、まったく不満はない。しかも今回の車両はまっさらの新車だったので、念のため7000rpmまでに留めておいたが、それでも楽しい。

 やはり軽いバイクはいい。狙った通りのラインを走れるし、ブレーキングでも体にはさほどの負担もかからない。いくらでも周回できるから、それだけ楽しい思いをたくさん積み重ねられる。

 ビギナーならライディングの練習にもってこいだし、エキスパートなら意のままのライディングを堪能できる。しかも奥歯を噛み締めながらのブレーキングではなく、爽快なコーナリングを満喫できるのだ。

 ドゥカティのテストライダーによると、コースによっては従来型とほぼ同じタイムなのだと言う。35㎰のダウンは17㎏の軽量化によってほぼ相殺され、ライダーの手元には楽しさが残った、ということだ。

 今回の試乗車にはピレリ・ディアブロロッソⅣが装着されていた。僕がスペインで乗った時にはスリックタイヤだったのだが、サーキットを走るなら、やはりスリックタイヤの方が楽しさ倍増だ。

 ……と、思わせてくれるほど高いポテンシャルがありながら、あくまでもライダーフレンドリー。これが新しいドゥカティの「味」だとしたら、僕は大歓迎だ。クセが欲しい人向けにはパニガーレV4Sが待っているのだから、何の問題もない。ドゥカティも、なかなかのラインナップを整えてきたものだ。

(原田哲也)

Commentary by Shinya Nakano
身構える必要、なし!走り始めた瞬間から楽しめる

「めちゃくちゃ楽しい!」というのが率直な感想だ。今やほとんどなくなってしまった600ccクラスに乗っているようで、ただただ楽しかった。

 従来型とは方向性がまったく違う。従来型は、繊細に扱わなければならない面があったからだ。特に走り始めの数周は、ちょっとピリつきながら探りを入れなければならなかった。楽しめる領域はその先にある。

 一方の新型は、大ざっぱなライディングを許容してくれる(笑)。変な言い方だが、ちょっとぐらい雑に乗っても、バイクの側でなんとかしてくれる。走り始めから気を使う必要がなくて、「何とでもなるな」と自信が持てる。これが「めちゃくちゃ楽しい」につながっている。

 ハンドリングに関しては、意外と安定感があった。従来型が路面と点でタッチしているような印象だったのに対し、新型は前後タイヤがしっかり接地していることが感じられる。スロットルのオン/オフに対して唐突感がまったくないエンジンと相まって、安心して寝かせることができるのだ。

 ある意味、クセがなくなったと思う。「ドゥカティらしいか」と言われると、熱烈なファンほど物足りなさを感じるかもしれない。でも、公道やビギナーの方まで視野に入れると、僕はこの方向性は合っていると思う。

(中野真矢)

DUCATI Panigale V2 S

  • Key Point of Riding Pleasure
    • 車重は旧型から17kgも軽量化
    • 排気量は旧型より65cc小さい
    • パワーは旧型よりも35psダウン
最近のスーパースポーツではすっかりレアになってしまった、ウイングレットのないフロントまわり。クリーンで軽快感のあるバイクらしい車体デザインが目に馴染む
エンジン水冷4ストローク90°V型2気筒 DOHC 4バルブ(吸気バリアブルバルブタイミングシステム)
総排気量890cc
ボア×ストローク96×61.5mm
圧縮比13.1:1
最高出力120hp/10750rpm
最大トルク9.5kgf・m/8250rpm
変速機6段
クラッチ湿式多板スリッパークラッチ(セルフサーボ機能付・油圧制御)
フレームアルミニウムモノコックフレーム
キャスター / トレール23.6° / 93mm
サスペンションF=オーリンズ製 φ43mm 倒立フォーク NIX30
R=オーリンズ製 モノショック
ブレーキF=φ320mm ダブルディスク+ブレンボ製M50ラジアルマウントキャリパー
R=φ245mm シングルディスク+2ピストンキャリパー
タイヤサイズF=120/70ZR17
R=190/55ZR17
ホイールベース1465mm
シート高837mm
車両重量177.6kg
燃料タンク容量15L
価格240万8000円

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