緊急提言。横澤拓夢の考える、日本と海外のレベル差の理由。

TKM Podcastで、普段からよく会話をする大城魁之輔選手と共に語った「海外と日本のモトクロスのレベル差」について、その想いを改めて聞いてみた。

PHOTO&TEXT/D.Miyazaki 宮崎大吾

モータースポーツだからこそ成長には高性能なマシンが重要です

「速いライダーは何に乗っても速い」「どんなバイクでも速く走らせなければいけない」と教わり、実際そういう風に育ってきました。確かにそれも事実なんですが、ある程度のレベルに達したときに、マシンが自分の思うような動きをしていないとそれ以上に向上していけないんです。モトクロスは「モータースポーツ」ですから、ライダー自身が何も変わっていなくても、例えばサスペンションのセットが決まったら勝手にタイムが上がることもあります。もうこれはマシンの性能差でしかないんです。

 僕はよくアメリカにトレーニングに行きますが、スーパーミニ114cc(85cc改)の子供たちはハンパじゃないくらい速いですよ。僕らのレース用マシンよりもお金がかかっているし、ストックバイクでは絶対に走れない領域のスピードです。マシンが連れて行ってくれる領域があり、それに加えて子供が成長していくことで、彼らのレベルはどんどん上がっているんです。

日本はバイクメーカーがあり市販車を販売している国ですから、ライダーもそれをプロデュースしなくてはいけない側面はあります。でもアメリカ人からしたら、日本という海外ブランドのバイクを買ってチューニングしているわけです。だからはっきりと物事を言うし、エンジンもサスペンションも性能を求めています。幼少期からトップチームの良いマシンに乗ることが大事で、スキルアップと同じくらいに、必死に良いバイクを求めていて、そこの探究心は日本よりもシビアですよね。

 日本人ライダーが速くなり世界で活躍することは素晴らしいことです。これは日本のメーカーさんも求めているはず。それならば、65ccでも明らかに速い子はわかるわけですし、しっかりと囲って、良いバイクに乗せて、次のレベルに連れて行ってあげないといけないのではないかと思うんです。今の日本では子供と親御さんが知恵を振り絞ってマシンを作りレース活動して、やっとIAに上がっても高性能なマシンに乗れるわけでもありません。さらにIAで勝っても海外レベルの良いマシンには乗れない。ここまでに引退していくライダーがとても多いのが現状です。速いライダーを育てることでライダー自身も成長するし、ライダー人口の減少防止にもつながると思うんです。

プロモトクロスライダーも契約金をオープンにするべき

「少し話は変わりますが、『速くなる=盛り上がる』ではないと思っています。レベルが上がったからといって、全日本に多くのお客さんが観にくるようになるかというと、そうじゃないと僕は思います。これはモトクロスが『プロスポーツとしての興行』なのか『記録会』なのかということにつながるんですが、全日本は元々記録会で、それを観にきてくれるファンがいたということです。

 また、『日本のモトクロスは盛り上がっていないけど、海外のモトクロスが盛り上がっている』という認識も僕からするとズレているかなと思います。例えばAMAナショナルには確かにかなりの客が入っていますが、木金曜日などにアマチュアレースをシリーズ開催していて、彼らはそれを追いかけているので、あの現場にいるのはモトクロスファンです。規模は大きいけど、こちらもある意味競技会なんです。

 全米という規模で考えると、モトクロスはめちゃくちゃマイナーなスポーツです。下田丈選手のインスタフォロワーが20万人くらいとすると、NBAやサッカーのトップ選手は1000万はいきます。

では何が違うのかと言えば、契約金を公開しているかどうかだと思います。日本はもとより、AMAでさえもそこは内密にされていて噂レベルでしか聞こえてきません。でも僕の好きなNBAバスケの世界では『あの選手はいくら、この選手はいくら』というような契約金の情報があります。『ある活躍している選手に注目していたら、次のシーズンには契約金が上がっていた』というように、ファンにとっても分かりやすい仕組みや、盛り上がれる要素がたくさんあるんです。日本では野球やゴルフは浸透していると思いますが、契約金を隠している時点で、モトクロスを知らない人に対しては興行として届かないですよね。

 だから例えば『ジェイさんは今年いくら賞金をもらっているか』というようなことは出すべきじゃないかと思うんです。具体的な金額は出していませんが、自ら稼げていることを示していたのは、フェラーリやランボルギーニで会場入りしていた成田亮さんぐらいかなと思います。海外ではヘイデン・ディーガン選手ですね。彼も何千万もするネックレスやビトンの靴を履いて、アウディR8を購入したりと、アメリカのプロスポーツ選手としての自分を見せています。モトクロスの新規ファンを本気で獲得するならば、年俸や契約交渉期間の情報、何年契約、といった情報を出さないといけないのではと思います。

 あとゼッケン制度にも言いたいことがあります。実際ランキング順の割り振りにして分かりやすくしたところで、その狙いであった『新規ファンの獲得』には至っていないのではないかと思います。逆に今までのファンからするとゼッケンが毎年変わって困惑します。バスケも野球もマイケル・ジョーダンの23番や大谷翔平の17番のウエアが売れたりしているわけで、これはいつの時代でも変わらないものではないでしょうか。その数字が永久欠番になったり、セレモニーがあったりしますよね。プロスポーツとして捉えるという意味では、見直しが必要なんじゃないかと僕は思いますよ。

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