前後スプロケット変更による車体の変化、実測値を公開!【k-cross監修 セットアップ&メンテナンスクリニック】

今回のメニューは、前回に続いて前後のスプロケット、チェーンコマ数の組み合わせによる車体への影響を解説。各条件での数値も公開!

PHOTO&TEXT/D.Miyazaki 宮崎大吾

スプロケやチェーンの組み合わせによるアクスル位置を測定

今回もスプロケットとチェーンコマ数のセットによるアクスル位置の変化について詳しく解説してもらった。アクスルの位置が変わることでサスペンションの挙動、フロント荷重にどのような変化がもたらされるのか。また後輪と車体(マッドガード)のクリアランス、フロントスプロケットの石噛みの有無など、走行性能やトラブル有無に影響を与える要素を事前に察知、想定してセッティングを行うことができる、というのがk-cross加藤店長が重要視する理由だ。考え方の例を挙げよう。

雨が降っているシャバシャバのマディで柔らかい轍の場合、フロントを上げるというよりも突っ切る走りで、挙動が緩やかな方がコントロールしやすい。滑らせながら車体の向きを変えたり、バンクでのブレーキターンで直線的にターンして轍切りをするようなシチュエーションだ。左ページの表を見るとわかりやすいが、114リンクと116リンクを比較すると、フロントが多少重くてもホイールベースが長くなる116リンクを選ぶのが効果的だということが分かる。

チェーンのコマ(リンク)数は112、114、116、スプロケットは12~14T、49~51Tでアクスル位置をデジタルノギスで測定。バイクは2025年型Honda CRF250RXだが、他車種にも参考になるのでご確認を

逆に雨がやみ重い土(ベスコンに向かう段階)だとフロントが轍に取られやすくなるので、アクセルオンでフロントの荷重が簡単に抜けてくれた方が良い。かといってホイールベースを詰めすぎるとクリアランスが減って泥詰まりを起こしやすい。そこで表をチェック。13-51Tの場合、116リンクから114リンクに変更するとアクスル位置が極端に変わり(32.1mm→16.3mm)、フロント荷重を減らすことができる。しかしクリアランスがなくなって泥詰まりを起こす危険性がある。

K-cross加藤店長が、限られた時間の中で多くのスプロケット、チェーン交換作業が必要な本取材用に推奨したRK「520 MXU」は、カシメが不要なクリップタイプのため迅速な交換が可能だ

より駆動力が欲しい、そしてクリアランスを確保するためにどうすれば良いのか? 表を見ると「114リンクでフロントを12Tにする(20.05mm)」が正解だと分かる。12Tにすることで泥に含まれる石噛みのリスク(エンジン破損)も軽減できるというわけだ。

このように表を作ることで、狙っている挙動のギヤ比やスプロケット丁数、チェーンコマ数を求めることができ、実際に走行テストを行うことで、自分の中の基準値を作るわけだ。

リアスプロケットはホンダ純正の49T、51T(純正は13-50T)を用意。フロントは高精度、高品質で知られ、ロードレース、全日本モトクロスなどオフロードトップライダーも愛用するiSA「HD-103 12T」を使用した。12~14Tがラインナップされている

デメリットがなく、狙いの効果を得られるギヤ比を探そう

前回、掲載したギヤ比一覧表にフロント12Tを加えたものを再掲載。前回も読み方の例を書いたが、駆動力を高めたい場合にリアスプロケット丁数を上げるのが一般的に考えられる手段だ。しかしチェーンコマ数増加→リアアクスル位置が前方に移動→フロントが軽くなる/タイヤと車体のクリアランスが減り泥詰まりが起きやすい/リアサスペンションの動きが固くなる、といった影響が出る。

もちろん全てのセッティングは一長一短だが、この状態を仮に避けるのであれば、似たギヤ比数値を探すことでデメリットも解消されるというわけだ。
例)14-48T→14-51Tではなく、13-48Tにすることでデメリットを解消しつつ、駆動力を高めることができた。

12131415
433.583.33.072.86
443.663.383.142.93
453.753.463.213
463.833.533.283.06
473.913.613.353.13
4843.693.423.2
494.083.763.53.26
504.163.843.573.33
514.253.923.643.4

これがCRF250RXのアクスル位置実測数値だ!

こちらはそれぞれの組み合わせによるアクスル位置の数値(2025年型Honda CRF250 RXで計測)を表したもの。前側と後側限界値を超えたものは「取付不可」と記載したので、試すまでもなく却下することが可能だ。車体の挙動に影響を与えるアクスル位置の参照として使用してほしい。

112Fスプロケ(12)Fスプロケ(13)
Rスプロケ(49)13.3mm(前側限界)取付不可(前側限界超)
Rスプロケ(50)取付不可(前側限界超)取付不可(前側限界超)
Rスプロケ(51)取付不可(前側限界超)取付不可(前側限界超)
114Fスプロケ(12)Fスプロケ(13)
Rスプロケ(49)28.6mm24.8mm
Rスプロケ(50)23.94mm20.48mm(純正値)
Rスプロケ(51)20.05mm16.3mm
116Fスプロケ(12)Fスプロケ(13)
Rスプロケ(49)取付不可(後側限界超)取付不可(後側限界超)
Rスプロケ(50)取付不可(後側限界超)35.8mm(後側限界値)
Rスプロケ(51)36.0mm32.1mm

実走行テストをエンデューロコースでやってはいけない理由

次回は本誌宮崎がk-cross加藤店長と共に、前後スプロケットとリンク数が異なるチェーンの組み合わせを試し、マシン挙動を体感テストする予定。この際に気をつけたいのは「なるべく路面コンディションが一定なところでテストする」こと。エンデューロ的なシチュエーションでは路面変化が多く、ラインも複数あり、慣れによる体感などで、挙動の変化が掴みにくいのだ。

そのためフラットコーナーなどを含め、できるだけシンプルなセクションで挙動の違いを掴むべき。「特にエンデューロは練習走行ができないことが多く、レース現場でのセッティング変更は難しいので、自分の中でのセッティングの基準を作っておくことが有効です。そのためにも挙動の変化を体感し、自身のデータとして蓄積しておくことが大事なのです」と加藤店長

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