
【藤原慎也】自分への期待が大きかった故の涙【世界一過酷なレースに挑んだ日本人】
藤原 慎也
トライアルIASライダーにしてシティトライアルなどのイベント主催でも活躍。2026年1月のダカールラリー完走に向けて、ISDE、モロッコラリーなど海外レースに参戦中だ。
「今年で4度目の挑戦となりました。ラリー参戦やスピードトレーニングを積み重ねてきた成果もあり決勝2列目を確保することができました。ビバーク大阪杉村さんから課せられた『大リーグ養成ギブス』じゃないですけど、GASGASのES700という重いバイクで海外レースに参戦したことも効果的でしたね。予選1日めは69位だったのですが、1秒前にジャービスがいたり、セッティングが合わなかったようですがコーディ・ウェブ(USA屈指のトップハードエンデューロライダー)が僕よりも後方にいたりで、周りに強豪がいましたから、スピードを手に入れることはできたのだと思います。破綻しないギリギリのところで攻めきれたと思います。
予選コースのレイアウトは昨年からは変わっていませんでしたが、スピードゾーンが増えた上にシケインの角度も深くて怪我人が続出していましたね。途中でコース整備が入ったほどです。僕は62番手スタートだったので『コースが荒れていないだろう』と考えていたのですが、雨が降った影響でかなり荒れていましたね。ブレーキングギャップも酷かったです。

2日めの予選は体力温存のため欠場しました。予想通り初日の結果を上回る選手はいなかったですし、2日めでぶっ飛んで負傷して本戦に出られなかった上位ライダーもいましたから、欠場して正解だったと思います。エルズベルグの会場は埃っぽくて、パドック前もバイクの音などでめちゃくちゃうるさいので、いるだけで疲れるんですよ。僕らもだいぶ慣れてきたので、会場にいるよりも木陰の快適なところで整備したり、サウナに入って体力を温存したんです。
でも金曜日のパレードに参加したり、今回は余裕もあったので初めてナイトパーティにも参加してめちゃ楽しみました。エルズを隅々まで堪能できました。嬉しいことに侍の格好をしていなくても僕のことを知っている人が多くてよく声をかけられたり、応援してくれるんです。ドイツ語の応援だと思うんですが、やはり嬉しいですよね。
決勝は良いポジションを得られましたし、スタートダッシュを決めようと考えていました。昨年までは真ん中くらいの順番で走り始めて徐々に抜かしていったんですが、今年は完走の自信があったので最初から攻めるつもりでした。ですが、横のライダーが転倒してラインが膨らみ、めちゃくちゃ深い水溜まりにハマってスーパーマンみたいな格好になっちゃいました(笑)。また普段やらないのですが、コーナーで滑って転倒というのが2回ありました。今回タブリスムースを使っていて、フロントがパンクしていたんです。やはり今後はムースだなと思いました。


スタートを決めようと思っていたけど、全てパーになりましたが、その後は渋滞もなく順調に進みました。カールズダイナー・ライトも順調に進んでいたのですが途中から鉄砲雨の土砂降りになって、その瞬間に無茶苦茶滑るようになってしまいました。僕の目の前のカーソン・ブラウン(USAトップライダー)がどハマりしています。今年はこのセクションの幅がかなり狭くなってしまったので、前のライダーのあとをついていくしかできなかったのも辛かったですね。これでかなり時間ロスがあり、体力を削られました。
そこを抜けてCP14を超えて、2段のヒルクライム、上りきってからの斜めキャンバーを行くところは雨の影響でラインが全くなく、ヘルプイーチアザー(ライダー同士が助け合う)で行かなくてはクリアできなくなっていましたが、僕の後ろには誰もいません。一人でトライしましたがどうしても車体が落ちてしまい無理でした。20分ほどして後続のライダーが来たので、助け合ってCP15をクリア。CP16はオーバーハングの壁でウイリージャンプでクリアするセクションでしたが、ここも前走車と助け合って、残り1分くらいでしたがクリア。CP16でタイムアウトでした。
一年間スピードを磨いてその成果は出ましたが、反対にハードエンデューロ面が疎かになり弱くなった感があります。6000kmのラリーを完走するような体力には自信があるのですが、スプリントの中で一気に体力を使うようなタフネスさが足りていませんでした。今回は完走に自信があっただけに悔しくて、動画を撮りながら涙が流れました。今までで一番悔しかったですね。2列目スタートでしたし、自分への期待感が大きかっただけに、この状況で完走できなかったことが悔しかったです。

もちろん今後も挑戦していきます。日本とは全てのレベルが違うタフなハードエンデューロですが、他にもISDEや海外ラリーなど、単発ではなく計画的に参戦してステップアップできています。今はイタリアを拠点にしていますが、これもヨーロッパでの人脈やスポンサー、応援してくれる方々、ビバークチームの支えがあるからこそです。
『オフロードに浪漫を』というテーマを掲げています。競技者としての目標だけでなく、オフロードバイクをやっているからこそ見れる世界中の景色や人との繋がりを得ること。このテーマはトップライダーだけのものではないですし、ぜひ共感し、体感していただきたいと思っています。今回はSNSでも多くの応援をいただきありがとうございました。本当に面白いレースなので、ぜひ見に来たり参戦してほしいですね!」