【石田敬一郎さん】オフロードバイクは生涯スポーツ!【ザ・クラフツマンシップ】

趣味性の高いバイクだからこそ、こだわり続けたい技術がある。オフロードバイクのジャンルにおいて、豊富な経験と高い技術、プライドとスピリッツを持つ職人を訪ねるコーナー。第53回は、2019年デイトナからグループ会社ダートフリークの代表取締役として就任した石田敬一郎氏をクローズアップ。未知のオフロードバイク業界に飛び込み、現場主義で市場を開拓しているのだ

PHOTO&TEXT/D.Miyazaki 宮崎大吾

49歳にして、全く未知のオフロードの世界へ飛び込む

今ではオフロードバイク業界でお馴染みとなったダートフリーク石田社長。しかし就任当初、同じバイク業界とはいえ、全く畑違いのデイトナから就任してくる新社長とはどんな人物なのだろうか? 当時のダートフリーク社員も戦々恐々としていたというが、それは石田氏にとっても同じで、「今まで全くやったことがなく、ロードとはかけ離れたオフロードの世界で何が待ち構えているのか。正直、全く分からずめちゃくちゃ不安でした」と語る。

「社員たちからも『親会社から怖い人が来る』というイメージを持たれていたみたいです。僕は会社を成長させて大きくするという役割を持ってきていたのですが、最初は苦労しました。会社を大きくする=売上を上げてお客様により支持されることですが、この業界のことを何も知らない自分が何をしたらいいのかと思いました。そこで、『郷に入っては郷に従え』という言葉の通りに、まずはこの世界にどっぷりと浸かってみよう、現状把握をしようと考えたわけです」

『50歳から始めるオフロード』というテーマで、いきなりレース参戦を行った石田社長の存在は目立っていたが、社内外問わず石田氏を歓迎する空気感が強かったのは、いかにも垣根が少なく、実は敷居が低いオフロードバイク業界らしい出来事でもある。

「従業員の中古のYZ250FXを買って始めましたが、最初は全く乗れませんでした。ど素人が一発目に乗るバイクではないですし(笑)、もうてんやわんやです。少しずつ教わりながら乗れるようになったのです。

 乗ってみて分かったのは、思っていたよりも安全ということ。会社に来る前にはかなり恐れていたし、周りからも心配されていたのですが、プロテクターをちゃんと身につけて、力量に合わせて安全走行して、しっかり教わって走れば、意外と安全だということがわかったんです」

キッズライダー育成の事業は使命感をもって携わる

先代の諸橋代表の頃より、ダートフリークはZETA RACINGなど自社ブランド開発に力を注いできたが、石田氏の代になり、さらに積極的にオリジナルブランドの開発と新たな需要を生み出している。

「マーケティングの4P(Product〈製品〉、Price〈価格〉、Place〈流通〉、Promotion〈プロモーション〉)は、今でも社内ミーティングで使う概念ですが、価格と性能、機能のバランスはお客様の求めるものに見合っていないといけません。経済状況が変化している中でトップモデルも必要ですけど、購入しやすい価格帯のオリジナル商品も絶対に必要だと考えています。自分がバイクで走って、現場を見て、お客さんと触れ合ってそういうことがわかり、商品が生まれました。高級なブランドが売れなくなるという見解も社内にはあったのですが、やはり今お客さんが求めているものを提供したいという思いが強いですね。

『三現主義(現場・現物・現実)』を持って、しっかりと見定めることも大切です。机上で検索し、物を作っていけるという錯覚に陥りがちなので気をつけなくてはいけないです。まあ、僕は現場に出過ぎていて、デイトナからは怒られていますが(笑)。でもお客さんが何を求めているのかを見ないといけませんし、今でも毎週現場に出ているのは、不安で仕方ないからでもあります。僕は昔からこの業界にいる人間ではないので、歴史的な蓄えがない分、前を見るしかありません。モトクロス、エンデューロ、トライアル、モタード、それぞれニーズが違いますし、市場から外れてはいけないという気持ちが強いです。

それと同時に、この世界に来て刺激を受けたのがキッズレースです。小学6年生以下の子供たちがおよそ1200万人と言われる人口減少の中で、キッズライダーが一生懸命に上を目指して競技を頑張っている姿を初めて見て、とても刺激を受けましたね。ダートフリークとしても、このカテゴリーを盛り上げて成長させ、より多くの子供たちに楽しんでもらいたいと考えています。収益に見合うかどうかは正直難しい面もありますが、これは使命でもあります。弊社はオフロード業界ではリーディングカンパニー的な位置付けにあると思いますが、営利ももちろん大事です。けれど、育成事業を放棄してしまうと業界が衰退するという危機感や使命感のようなものがありますから、これからもやっていかなければいけないと思います」

今は会社にとって良い経験を積んでいる時期

「コロナ禍は弊社だけでなく、アウトドア関連はすべて成長しましたが、その後一気に元に戻っています。世界経済の先行不安定、円安、物価高と、収益が得にくい状況にはなっています。でもそれはどこの企業も一緒で、ある意味こういう経験をしないと次のステップにはいけないから、会社としては良い経験を積んでいる時期なのかなと思います。ここからどうやったら自分たちの力で成長できるか、真剣に考えることができていると思います。

 ダートフリークのビジョンはホームページにも記載していますが、『バイクと自転車の「楽しい」を創造する』です。企業ポリシーとして掲げ、この分野や付随する新規事業を成長させなければいけません。弊社は10月から新年度を迎えますが、今年は全社員を集めて中期経営方針説明会を行う予定です。こういう真面目な活動もやっているんですよ(笑)。

オフロードバイクに乗り始めて改めて感じたのは、『アンチエイジング、生涯スポーツ』だということです。無理をしなければ70歳、80歳になっても遊べます。実際、僕の体も少し引き締まりました。これからはトライアルもやってみたいですね。もう少しで55歳になりますが、あと30年はオフロードバイクで遊びたい。この楽しさを同世代のシニアの方にも伝えていきたいですね」

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