連載企画”はめ殺し”オフロードバイクカタログ ~これオフ車?編~

一見オフをバリバリ走れそうに見えて、実際は難儀しそうという、雰囲気美人バイク集合。だが、それを否定しない。むしろ大好物。なぜなら、カテゴライズが難しいそれらは新しい価値を生み出そうとしたものだから。ただ面白いから並べたと思っているでしょう─────うん正解だ!

TEXT/F.Hamaya 濱矢文夫

オフロード風も進化の一例

そもそも昔は舗装路などほとんどなく、バイク競技といえば未舗装路を走るのが当たり前だった。そこから舗装されたサーキットが増え、ロードレーサー、ロードスポーツへと発展していった。

オフロードバイクは、そのロードレーサー&スポーツをベースにアップマフラー化やハンドル幅の拡大などを施したオフロード仕様のスクランブラーとして誕生。やがてフレームや足廻りも専用設計のモデルが生まれていった。

つまり歴史を振り返れば、ダートから始まり、再びダートへ戻ってきたのが現在のオフロードバイクだ。走る環境に合わせて進化してきたという、ある意味“当たり前”のことを偉そうに語るのがジャスティスというわけだ。

1987_HONDA AX-1_北斗三兄弟に当てはめるならトキ

単気筒トレールバイクで街を走っていると、アップライトなポジションで腰が痛くならないし(シートは三角木馬だけど……)、ロードスポーツよりも見晴らしが良い。250シングルは軽く、減速もコントロールしやすく、曲がるのも自在。ちょっとした段差があっても気にせず走れるし、取り回しも楽だ。「よっこいしょういち」と持ち上げて向きを変えることだってできる。燃費も良いし、「もしかしてストリート最強なんじゃね?」と思ったことがある人も多いはず(決めつける)。

そこにホンダは気づいた。流石である。誕生したAX-1は革新的で斬新なスタイルを持っていた。

しかし、オンロードスポーツ派にとってはCB250RS-Zやグース350といった、もっと峠を攻められるモデルのほうが魅力的で、オフロード派からすれば19/16インチホイールでは走破性を含めて物足りなかった(フラット林道しか走らなくても、「できるポテンシャル」があることが重要。300km/h出さなくてもハヤブサに惹かれるようなものだ)。

まさに帯に短し襷に長し。欧州仕様では「NX250ドミネーター」としてワイヤースポークホイールを装備し、さらに「NX650ドミネーター」という“北斗三兄弟でいえばラオウ”のような存在もいたため、まだ受け入れられやすかった。
しかし国内では、突然“オフ車? キャストホイール? ナニコレ美味しいの?”といった反応で受け止められたのだ。

時代を先取りしすぎたモデルだったが、残念ながらその時代はまだ来ていなかった。
ちなみにあまり知られていないが、AX-1は2回のマイナーチェンジを経ている。全仕様の写真をぜひご覧いただきたい。

1983_HONDA XLV750R:出るのが早かった早打ちでそうろう

この時すでにBMW R80G/Sは発売されていたため、決して先駆というわけではない。そして今のように各社から多気筒・大排気量のアドベンチャーモデルが登場している時代から見れば、特異な存在でもない。

でもね、これが発売された当時、原付免許を取り立てたばかりの少年だった私は、「こんなデカいのでオフロードなんて、どんな巨神兵が乗るんだよ、無理、無理」と思ったものだ。まさに「腐ってやがる、早すぎたんだ」とクロトワ(1984年公開『風の谷のナウシカ』)の気分だった。

赤く塗られた45°Vツインエンジンは、Vツインでありながらクランクピンを共有せず、位相クランクを採用して振動を低減。それでもドライサンプ方式を採用して最低地上高を稼ごうとするあたりに、「本気でオフロードを走らせる気」が感じられる。
ダイヤモンドタイプではなく、カーポートの支柱のような角断面パイプを使ったダブルクレードルフレームの内部が、ドライサンプのオイルタンクになっている構造もユニークだ。

昔、ホンダ関係者から「当時オンロード系のチームが作っていた」と聞いたことがあるが、真相はわからない。もしかすると、本気でこれをベースにダカールの海岸まで走らせるつもりだったのかもしれない。
この頃のホンダは、“他とは違うぜ”という主張が強く、尖っていて本当に好きだった。

1988_HONDA NX125:北斗三兄弟に当てはめるならケンシロウ

これがケンシロウだ───って、何を言っているかわからない場合は、上の北斗三兄弟の次兄・トキことAX-1の文章を読んでほしい。NX125こそが真打ちである。AX-1があるのに、なぜNX-1と名乗らなかったのだろう。

AX-1は大ヒットとまではいかなかったものの、当時はバイクが今よりもずっと多く売れていた時代だったため、それなりの知名度はあった。だがNX125の存在を知っている人は、オーナーだった人以外ほとんどいない。ブルース・リーやジャッキー・チェンがいる中のブルース・リャンみたいな存在だ。

だけどナメちゃいけない。実は21/18インチホイールを装備し、兄弟の中でもっともダートの匂いがするモデルなのだ。

XL125RやTL125と共通の空冷単気筒エンジンを搭載し、難所でエンストしてもセルで再始動できる安心設計。リアサスペンションはXL125R譲りのプロリンクを採用している。
ド田舎に東京からやってきた清楚なお嬢様のようなルックスで、美人なのに影が薄い――そんな“未来世紀ブラジル”みたいなデザインが、もしかすると足を引っ張ったのかもしれない。

結局ホンダは、XLR125Rで土臭いガチトレール路線へと戻っていったのだった。

2002_HONDA XL230:AWDではないシティオフローダーみたいな

“XL”とあるからオフ車(トレール車)だな、と思ってしまうのは勘違いだ。まるで「注意力散漫」を「注意力3万」と聞き間違え、対抗心から「俺は注意力300万だ!」と言ってしまうような勘違いである。

90年代にはトラッカーカスタムブームがあり、その流れの中でヤマハのセローをベースにしたブロンコが、いち早くレトロトレールスタイルを取り入れた。その後を追うように各社から似たモデルが登場し、このXL230もそのひとつだった。

エンジンはSL230からFTRへと受け継がれたSOHC223cc単気筒。SL230はフロント21インチ、FTRは18インチ、そしてこのXL230は19インチを装着している。アップフェンダーで見た目はオフ車っぽいが、純粋なオフロードモデルというわけではない。

もちろん、バイクという乗り物はライダーの技量次第で性能をカバーできるから、これでオフロードをバリバリ走れるという人もいるだろう。だが、そういう人はゴールドウイングだってオフ車にしてしまうタイプなので、参考にはならない。

オンロードバイクに“毛が少し多めに生えた”程度のXL230だが、フラット林道をトコトコ走るくらいなら問題なく楽しめるはずだ。

2001_SUZUKI グラストラッカービッグボーイ:XTCの『Grass』を口ずさんで乗る

具のない素うどんのようなレトロモデル「ボルティ」と、フレーム・エンジン・足廻りを共有した「グラストラッカー」が先に登場した。純正タイヤにダンロップTT100を採用していた時点で、オフロードのかほりはあまりしないが、見た目はオフロードバイク風だった。

取り回しが良く、扱いやすく、価格もリーズナブル。ナウなキャピキャピのヤングがギャフンと言うくらい人気が出た。そしてホイール径の拡大、スイングアームとフォークの延長によるホイールベースの拡大、さらにはハンドル幅の拡張などを施した「グラストラッカービッグボーイ」も誕生した。
ハンバーグを食べて、サラダバーでカレーをおかわりしたくなるような車名である。

ちなみに写真は、2009年に発売されたビッグボーイ10周年記念モデルだ。

2002_KAWASAKI 250TR:“トラッカー”から“スクランブラー”に

きょおと〜にいるときゃ♫ 昔の名前で出ています。

1970年に発売された空冷2ストローク単気筒エンジンのオフロードモデル「250TR(ペットネーム:バイソン)」と同じ名前で登場したのが、このモデルだ。

2002_KAWASAKI 250TR

エストレヤと兄弟車となるSOHC2バルブ単気筒エンジンを搭載したトラッカーで、バイソンの方は当時ガチのオフロードモデルだったが、こちらはそのスタイルにインスパイアされた“見た目のオフロードバイク”である。途中でエストレヤと同様にキャブレターからインジェクションへと変更された。

フロント19インチ、リア18インチのホイールを装備し、一世を風靡したトラッカースタイルは、今では“スクランブラー”という名に姿を変え、現代にも受け継がれている。

1988_YAMAHA TDR250:博士の異常な愛情を観たくなる。

TZR250(1KT)の2ストローク・クランクケースリードバルブ並列2気筒エンジン(しかも自主規制上限の45PS)をそのまま載せてデュアルパーパスモデルを作ろうなんて──まるでマッドサイエンティストの発想だ。そんなことを本気でやってしまったヤマハに乾杯!

チャンバーは無理やり感のある取り回しでアップレイアウト化。手抜きなど一切なし。さらに販売開始前のプロモーションとして、ファラオラリーにTDR250のプロトタイプを3台投入してしまうほど、頭のネジが数本飛んでいた。しかも、そのうちの1台を風間深志氏が駆り、完走&クラス優勝を果たした(とはいえ、ライバルはほとんどいなかったと思われる)。

説明文

エンジンは純正パラツインをベースにしていたが、足廻りはYZ仕様。フレームから何から市販車とはまるで別物のスペシャルマシンだった。250ccクラスでそこまでコストをかけたプロモーションなんて、今ではまさに無理ゲーだ。

ちなみにカタログに載っている走行写真はリーンウィズ姿勢ながらヒザが出ている。

つまり、オフロードを本気で走らせるつもりはなかった……のかもしれない。

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