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【Thinking Time】㉕新区分「特定小型原付」が誕生!電動キックボード、期待と不安

*BikeJIN vol.233(2022年7月号)より抜粋

電動キックボードの新たなルール整備に関する道交法改正案が衆議院で可決された
メディアの中には「危ない!あんなの走らせるな」という論調もある
しかし、電動キックボード等の新しいモビリティには社会課題を改善するという役割がある
その意義を受け止め、理解し、混合交通下で協力し合うべきだ

頭ごなしに「危ない!事故る」はダメ。電動キックボードには使命がある

 法改正案について、多くの自動車・二輪車関連メディアが記事を書いている。「事故が増える。危ない!」という論調もあるが、少子高齢化、過疎化、公共交通の衰退、学校の統廃合、高齢者の免許返納といった移動の課題を改善すべく、電動キックボードには大きな期待がかかっていることを忘れてはならない。

4月19日、電動キックボードのルール整備等に関する道交法の改正案が衆議院で可決された。2年以内に施行される見込みで、法改正後は、電動キックボードは特定小型原動機付自転車という新設区分となり、16歳(高校1年生)以上は免許不要で乗ることができ、ヘルメットの着用も任意とされている。

モノづくりも大事だが安全運転教育の拡充を

この改正案には反対意見も多いが、そうした意見の多くは「事故が増える。電動キックボードは危ない乗り物」というレッテルに近いものだろう。ここ数年、一般ユーザーが未登録のまま電動キックボードを乗り回したり、人身事故や交通違反に関する報道もあったので無理もない。シェアリングサービス事業者による公道実証実験と同じ時期にそうした問題が起きていることは不運としか言いようがないが、ここは冷静に切り分けて判断すべきだ。

 その判断の基準は、単純に「危ないかどうか」といったところにあるべきではない。それを言ったら、バイクにだってそういうイメージを持っている人は多いのだ。思い出すべきは、三ない運動によって高校生がモビリティを奪われた苦い経験ではないだろうか。16歳になったらバイクに乗れるという権利は、現在でも校則の前に無力なのだ。

 バイクがそうであるように、電動キックボードが悪いのではない。いつだって人間が悪いのだ。法改正時には、電動キックボードの型式認定も示唆されている。原動機付自転車から分離し、新たな、より普通自転車に近い乗り物として、敷居の低いモビリティが登場することはモビリティ革命期の我が国、モビリティで生きていく(しかない?)日本の将来にとって歓迎すべきことだ。

 そしてなにより、加速する少子高齢化と地方、とくに中山間地の過疎化、免許返納後の高齢者、統廃合により通学距離が延びている学生といった移動困難者にとっては大きな希望にもなりうる。こうした社会課題を改善するために、パーソナルモビリティと公共交通をシームレスにつないでいくMaaSという概念は必要とされているし、それに最適なモビリティが検討されている。IoT化やGPSにより制御しやすい電動モビリティが増えていけば、社会全体で移動をより安全なものにしていける。電動キックボードや電動車椅子、3〜4輪の立ち乗りモビリティといった多様な新しい乗り物が特定小型原付のように運用されていけば、それは多くの人にとって幸せなことだろう。

 問題は、そうした社会を創る準備がまだ追い付いていないことだ。モノとしてのハードウェアやITインフラが充実していても、交通インフラである道路に穴ぼこが開いていれば危険だし、なにより手動で運転する以上は法規に関する知識や運転技術が絶対的に必要となる。安全運転教育に関しては、学校現場だけでなく家庭教育においても遅れているのが日本の現状だ。事故が起きればモノや道路が悪いというのが日本人の責任史観であり、モノを取り上げてしまえばいいというのが三ない運動だった。

 モノづくりの国だけに作り手に委ねられる部分が大きいのも分かる。しかし社会をより良くするためには、ソフトウェアも含めたコトづくりに主眼を置かなければならないし、そのためには教育に基づいた精神的な成長が求められるだろう。転ばないための技術、ぶつからないための技術、これらの実現に向けて自動車・二輪車業界もセンシング技術やC‐ITS技術など開発を急いでいるが、ユーザー感覚ではIoT化すら身近でないのが実情だ。

 それでも、安全運転講習といったソフト面ではかなりのノウハウの蓄積があり、混合交通下の他のモビリティにも十分活用できるレベルだと考える。電動キックボードを異端児のように頭から否定するのではなく、より良い乗り物にするためにはどうすべきか、混合交通下でほかの乗り物と一緒に安全に走行するためにはなにが必要なのか、自動車・二輪車業界も歩み寄って、電動キックボードから始まる多様なモビリティとの共存をもっと具体的に模索すべきだ。

現在、実証実験では小型特殊自動車。一般使用は原付一種だが法改正により2年以内に様変わり

現在は、特定地域におけるシェアサービス等での実証実験のみ小型特殊自動車として扱い、ヘルメットの着用を任意としている。一般ユーザーが車両を購入して乗る場合は、原付バイクと同じで保安部品やナンバー、自賠責保険が必要。改正後は、特定小型原付という新たな区分ができる

広がるLuupの実証実験と電動キックボードの車体構造

シェアリングサービス事業者のLuup は、東京、大阪、横浜、京都と実証実験の実施エリアを広げている。現在行なわれている実証実験は第3期となり、ヘルメット着用の任意化、最高速度15㎞/h化といった点が試されている。使用車両も参加ユーザーの声を反映し細かくバージョンアップされている

西新宿の路地裏のわずかなスペースに設けられたLUUPポート。借りた場所に返さなくていいが、空きのあるポートに返す仕組み。満空情報はアプリで見られる。返却時は駐輪写真も撮影する
これまでにもさまざまな電動バイク・モビリティに乗ってきたが、かなり良い出来だ。ブレーキ入力時にモーター出力がカットされないので、引きずりながらの低速バランスも取りやすかった

Luupが力を入れている安全講習会の狙いと意義

 未登録電動キックボードなどの違法車両や違反走行が社会問題化している。Luupは利用者の違反が発覚した際のアカウント凍結といった対応のほか、交通安全講習会を開催し、ルールの周知や安全運転啓発に力を入れている。5月14日には横浜のドックヤードガーデンで開催され、Luup、東京海上、神奈川県警が電動キックボードの走行ルールや乗り方をレクチャーした。こうした取り組みは、実証実験が続いている東京、大阪でも実施予定だ。

高齢者にもスマホで説明。Luupは免許返納後の高齢者の移動手段として、将来的には3〜4輪モビリティへの移行も考えているそうだ
神奈川県警は、電動キックボードの公道走行について啓発チラシを配って説明。現在は一般での使用はあくまでも原動機付自転車(定格出力600W以下の場合)だ
電動キックボードへの注目は増々高まっている。イベント開始直後から多くの人が集まっていた

Writer 田中淳磨(輪)さん

二輪専門誌編集長を務めた後、二輪大手販売店、官庁系コンサル事務所への勤務を経て独立。三ない運動、駐車問題など二輪車利用環境問題のほか若年層施策、EV利活用、地域活性化にも取り組む

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