
雫石岩手山をぐるっと一周!雫石で出会う静けさと美味と温泉のバイク旅|ツーリングガイド・岩手県
雫石は岩手山のふもと、自然と人の温もりにあふれた町。澄んだ空気、走りやすい道がライダーを迎える。名水が育む食や温泉などの出会いも楽しみの一つ。走って立ち寄りたい雫石の魅力をこのページで紹介する
■ BikeJIN vol.271 2025年9月号
写真/柴田直行 文/盛岳郎
取材協力:カワサキプラザ盛岡
https://www.kawasaki-motors.com/ja-jp/plaza-store/morioka
“何もない”が、いいココだけの走りの余白
岩手県のほぼ中央、盛岡の西側に広がる町・雫石。八幡平や田沢湖、乳頭温泉など、東北の人気スポットへ向かう中継点として通ることはあっても、「雫石そのものを目的地にして旅する」という発想は、これまであまり持っていなかった。
だが今回、バイクとともに一日かけて走ってみて、その印象はガラリと変わった。派手な名所は少ないかもしれない。でも、どこを走っても視界の中にある自然と人の暮らし、そして時間の流れが、驚くほどバイクと合っている。“名所”ではなく“風景の密度”で旅が組み立てられていく感覚。そんな町が、雫石だった。
出発は盛岡市内の「カワサキプラザ盛岡」。今回の旅のお供はZ900RS。Z1をモチーフにしたクラシカルなフォルムを持ちつつ、走りの質はまさに現代そのもの。バイクとしての完成度もさることながら、どこか優しい雰囲気を纏ったこの一台は、今回のような“走ることを味わう旅”にうってつけだった。
レンタルするなら!カワサキ プラザ盛岡

DATA
岩手県滝沢市大釜竹鼻63-4
TEL019-601-3456
営業時間:10:00〜18:00
定休日:水曜、第2・4 火曜
https://www.kawasaki-motors.com/ja-jp/plaza-store/morioka
ルートは決めすぎず、テーマだけを定めることにした。「岩手山をぐるっと感じる旅」。地図を眺めると、雫石は岩手山の南西に位置し、周囲には秋田駒ヶ岳などの山々が連なる。町を囲むように稜線があり、その内側に田園や集落が点在する。目的地ではなく、山の表情や光の変化を感じる“円を描くような旅”にしたかった。
まずは町の東部にある「七ツ森」展望地へ。七つの小山が連なるこの丘は、かなり長め(2kmくらい)な未舗装路の先にあるが、バイクで行くのにちょうど良い探検感がある。Z900RSのハンドリングのしなやかさや運転のしやすさに助けられた場面でもある(なので、未舗装路が苦手な人、大型バイクはあまりオススメしない)。到着すると、眼下に広がるのは、まるで日本の原風景の地形そのものを模型にしたかのような町の景色。遠くに岩手山が控え、田んぼと牧草地がゆるやかに連なっている。静かで、風がよく通る場所だった。
七ツ森展望台

DATA
岩手県岩手郡雫石町七ツ森 生森山
あたりには人の気配がない。聞こえるのは風の音と、鳥の声と、自分の呼吸だけ。派手な絶景ではないけれど、“ここに立っていること”そのものに意味があるような風景だった。こういう静けさの中にバイクがある時間が、とても好きだ。
展望地を後にして、町をなぞるように走っていく。山裾の道、畦道のような農道、小さな橋を越える道。道の種類は様々だが、どれも“流れすぎない”のが雫石のいいところだ。自然とバイクのリズムが落ち着いてきて、必要以上にスロットルを開けなくなる。耳に届く音が増えてきて、自分の中のノイズが減っていく感覚。途中立ち寄った小岩井農場の一本桜など、シンボル的な景勝地を通る。そんな景勝地の背景には必ずと言っていいほど岩手山が映り込んでいる。
小岩井農場の一本桜

DATA
岩手県岩手郡雫石町丸谷地36-1(小岩井農場)
TEL019-692-4321
営業時間:9:00〜16:00(季節により変動、閉園17:00)
https://www.koiwaifarm.com/
お昼時「手打ちそば極楽乃 雫石本店」に立ち寄る。このエリア、そば屋さんが集まっていて、そんな地域に初めてできた店がここ「極楽乃」さんとのこと。雫石のそば街道の原点ともいえる店で、築百年以上の古民家をリノベーションした空間が迎えてくれる。
人気の2色もりを頼み、ゆっくりとそばをすする。しっかりとしたコシと喉ごし、ふわりと鼻に抜ける香り、どれも素晴らしかった。「水がいいんですよ、この辺は」と、店員さんがさらりと言う。走っていてもそれは感じていた。町のいたるところに水の流れがあり、用水や小川が景色に溶け込んでいる。水音が生活の一部になっている町──バイクで流すには、なんとも豊かな環境だ。
手打ちそば 極楽乃雫石本店




周辺にはそば処が点在するエリアで、その中でも老舗。古民家を活かした店構えは落ち着きと趣があり、二色もりや大エビそばが人気。水の良さがそばの味を引き立てる。靴を脱いでゆったりと味わう癒しのそば処。駐車場は未舗装
DATA
岩手県岩手郡雫石町長山極楽野3-11
TEL019-693-4177
営業時間:
4月〜11月 平日11:00〜15:30/土日祝11:00〜16:00
12月〜3月 11:00〜15:00
定休日:金曜
https://niche-cop.com/jigyou/restaurant02/
そんな“水がイイ”を実感するべく、岩手山神社へ向かう。ここでは、境内に湧き水があり、地元の人たちがポリタンクやボトルを手に訪れていた。柄杓ですくって口に含むと、驚くほど柔らかく、冷たく、余計なものが一切ない。口の中で水が“身体に染み込んでいく”ような感覚だった。「この水で育って作ってるのか〜」と暑さからの回復を実感しつつ、そう思った。
岩手山神社


雫石町にある静かな神社。境内の湧き水「神山の秘水」は地元の人も汲みに来るほどの名水で、持参したボトルで持ち帰ることも可能。水のうまさが、地域の酒や食の質を支えていることを実感。直線だが、神社までは未舗装路
DATA
岩手県岩手郡雫石町長山頭無野60
水が育てる風土食と文化の立ち寄り

そんなエリアの地酒を造っているのが「菊の司酒造」。江戸時代から続く老舗の酒蔵で、雫石産の米と水を使った限定酒を少量生産している。そのうちの1本を購入し、後日飲んでみると、酒というより“土地そのものを飲んでいる”ような気がした。雑味のなさ、軽やかな香り、すっと消える後味。直売所のみでしか売っていないものもあるが、近隣の道の駅などにも菊の司は販売しているのでお土産にぜひ。
菊の司酒造


4660円(720ml)
雫石郊外に佇む老舗酒蔵。創業は江戸時代の1772年と古く、岩手で最も長い歴史を持つ。岩手山の豊かな伏流水を仕込み水に使用し、繊細で旨みのある日本酒を醸造。直売所では限定酒や定番酒の購入も可能で、酒好きならぜひ立ち寄りたい一軒
DATA
岩手県岩手郡雫石町長山狼沢11-1
TEL019-693-3330
営業時間:10:00 ~ 17:00 定休日:なし
https://www.kikunotsukasa.jp/
食後のデザートには、ジェラートの人気店「松ぼっくり」へ。地元の人が「絶対に行け」と勧めるのも納得で、牧場のミルクを使ったジェラートは、どれも素材の持ち味が前に出ている。コーヒー味とブルーベリー味を選んだが、甘さ控えめで、口に入れた瞬間にさわやかな風味が口の中を広がっていった。まさに牧場の空気まで感じられるようだった。
松ぼっくり(ジェラート)



地元酪農家が営むジェラート専門店。搾乳から製造まで自家製で、ミルクの濃厚さが際立つ。10数種類から選ぶことができ、シングルとダブルで選ぶことができる。ライダーのみならず、地元住民からも愛されるお店。マストで立ち寄りたい名所
DATA
岩手県岩手郡雫石町長山早坂70-48
TEL019-691-5030
営業時間:
10:00〜18:00(4〜10月)
10:00〜17:00(11〜3月)
https://matsubokkuri.jp/
午後は、いよいよ県道219号へ。通称「網張温泉線」は、雫石を南北に貫く道だ。緩やかなアップダウン、開けた景色と森のトンネルが交互に現れ、まったく飽きがこない。走りながら思ったのは、「この道自体が、すでに目的地になっている」ということ。スピードを出すでもなく、何かを探すでもなく、ただ“ここを走っていること”が楽しい。
本日の宿は「休暇村岩手網張温泉」。支配人のご厚意で、バイクは屋根付きのスペースへ(支配人はGBに乗るバイク乗り)。ここのトピックとしては、ガラス張りのテラスがこの7月にリニューアルされたということ。山の稜線や風、光を全身で浴びられる場所に生まれ変わっていた。24時間開放されているため、早朝にここで朝日を浴びる時間は、旅の中でも特別なものになるはず。
さらに、施設の裏手にある登山道を5分ほど歩くと、混浴露天「天女の湯」がある。混浴というと一瞬ひるむが、その空間の特別さは一度体験してほしい。僕が訪れたときは幸運にも自分ひとり。目の前には滝が流れ、岩に囲まれた湯船から空を見上げると、楓の葉がゆれている。紅葉の季節には、湯に浸かりながら真っ赤な空を仰ぐことになるはずだ。ほかにも、施設内には複数の温泉施設があるので、温泉好きも大満足な施設であることは間違いないだろう。
休暇村 岩手網張温泉





岩手県岩手郡雫石町長山小松倉14-3
TEL019-693-2211
宿泊料金(1泊2 食付き):1 万4000円〜
営業時間(日帰り入浴):
本館10:00〜14:00
温泉館9:00〜17:00(土日祝〜18:00)
日帰り入浴料:
本館1000円
温泉館600円
https://www.qkamura.or.jp/iwate/
翌朝、空気が澄みきった雫石の朝。Z900RSにまたがると、昨日よりもバイクが身体の一部になっているように感じた。スロットルを開けるときの指先、風の変化、タイヤが路面をとらえる感触。すべてが、少しやわらかくなっていた。ある区間で、空気がふっと冷たく変わる瞬間があった。林の中に入ったとたん、肌に触れる風が明らかに違う。標高の差か、湧水の近くなのか、空気の層が変わるような感覚がある。そうした微細な変化に気づけるのは、バイクに乗っているからこそだ。
旅の締めくくりは、「道の駅雫石あねっこ」。温泉施設を併設し、土産物や地元野菜も揃う。最後の一食として選んだ「雫石牛ステーキ丼」は、厚切りの赤身肉が、噛むたびに肉の旨みが口に広がった。ちなみに、ここの駅長さんもバイク乗り。
道の駅 雫石あねっこ



温泉・食事・直売所がそろった複合施設。人気の「雫石ステーキ丼」は雫石牛と甘辛のたれが絡み満足感も◎。日帰り入浴も可能で、ツーリング途中の立ち寄りにも最適。ライダーの姿も多く見かける
DATA
岩手県岩手郡雫石町橋場坂本118-10
TEL019-692-5577
営業時間:
温泉9:00〜19:30(閉20:00)
食事処11:00〜15:30(閉16:00)
売店9:00〜18:00
定休日:なし
https://www.anekko.co.jp/
今回の旅を振り返って思うのは、「何もしないことの豊かさ」だ。観光スポットを制覇するでもなく、名所を巡るでもなく、ただその土地に身を置いて、走って、食べて、湯につかる。そのすべてが、自然と心と身体を整えてくれる。
雫石には、観光名所としての派手さはない。でも、旅としての奥行きがある。“何もない”がある。それは、バイクで走るからこそ気づける時間であり、空間だ。
BikeJIN祭り@東北・雫石 開催します!

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雫石町は東北ライダー必見のツーリングスポット。山岳ワインディングと絶景が、走る楽しさを最大限に引き出します

走ったあとに、途中に、泊まって、休憩して。いい走りには、いい休憩スポットに立ち寄ることはマスト。ここでは地元レコメンドの雫石の癒しのスポットガイド