
【コバユリ連載】バイク女子の“ふくらはぎ”が教えてくれた、走り続ける理由
道に迷っても転んでも、バイクが一緒なら幸せはいつもこの手の中にある。ありふれた日常から一生モノの大冒険まで、自称万年へなちょこライダー・コバユリが愛と感謝を込めて綴るバイクライフエッセイ。
■単車倶楽部 2025年8月号
PHOTO&TEXT:小林夕里子
#01 わが愛しのヒラメ筋
単車倶楽部読者の皆様、お世話になっております。「走って書く」をライフワークに二十余年、気づけば本誌での連載歴も七年目に突入して、古株感を否めないコバユリです(照)。今号からテーマをリニューアルして、コバユリの頭ん中を自ら公開処刑にするバイクライフエッセイをお届けします。着いてきてね。
さて、言うまでもないが私はバイクが大好きだ。それなのにこの体ときたら、大人になっても霜焼け症が治らず、冬のツーリングには一ミリも向いていない。けれど冬には冬のよさがあるものだから、鋭く澄んだ空気の清らかさや、景色の透明感などを、体に鞭を打ち楽しんできた。
そんなドMも歳を重ね、ついにいろんなことが億劫になり、今年の冬はメインバイクを一度も動かさずに過ごしてしまった。春の気配を感じたらすかさず走り出すためにね、などと自分に言い聞かせたが、やはり毎日が物足りない。
そこで私は、走らない代わりに自分の足で歩きまくることにした。一日一万歩を目標に、雨の日も雪の日もせっせと歩いた。そうして一か月が過ぎた頃、鏡に映る己の姿をまじまじと見ると、「あれ?」ぷよぷよしていたお腹周りと太ももが引き締まっているではないか!半信半疑でクローゼットから、大昔に奮発したのに着られなくなっていたDKNYの細身のスーツを引っ張り出す。うほほ、お尻もお腹も入っちゃったわん。
しかし、スーツを脱いで再び見入った脚の、別の異変に目が点になった。げっ、どうして君だけ前より太くなっているのよ、ふくらはぎ!
歩き方が悪かったのかもしれないと思い、「正しい歩き方」の検索ワードでググってみると、早歩きでふくらはぎが太くなる、とある。ガーン。バイクを諦めた反動か、確かにムキになって早歩きしてたわね。
翌日から正しいフォームを意識しながら歩いてみると、同じ一万歩でもふくらはぎの疲労感が明らかに軽い。よし、これからはいかなる時も、ふくらはぎに力が入らないように意識して過ごそう。坂道や階段では太ももだけを使うようにしてそおっと歩く。ロボットみたいな動きになって怪しい人だけど気にしない。家事においても、例えば高いところの物を取るときは、背伸びはせずにいちいち踏み台を使うなど。弛まぬ努力により、ふくらはぎは元に戻っていくことであろう。ムフフ。
そんな冬が過ぎ、季節は春に移ろった。愛車一号を冬眠から冷ますと、ボクサーエンジンの横向きの振動が体中に響き渡った。うーん、これこれ。私のバイクシーズン到来だ!
ところが、なんということでしょう。信号待ちのたびに私の両足は、あれほど禁じていたつま先立ちになってしまうのだ!全力でバイクを支えにかかるわがヒラメ筋。ダメダメ!と力を抜こうとする私。支えを失いよろめくバイク。条件反射でビシッと力むヒラメ筋……。バイクで出かけている間、こんなにもふくらはぎを使っていたなんて!
そして私はようやく気が付いた。背が低いゆえ、たいがいのバイクは足つきが悪く、愛車二号のクロスカブでさえ両足つま先立ちで、停車時は常にヒラメ筋が緊張している私だからして、私がバイクに乗る限り、このふくらはぎはたくましいままであり、この冬太くなったと思ったのは、ほかの部位が細くなったからそう見えただけで、もともとたくましかったんじゃね?
つまりこのふくらはぎは、私が単車で走り続けてきた証なのか?そう思ったら、あれだけどうにかしたかったはずなのに、急に誇らしく思えてきた。いいじゃん、わがたくましきヒラメ筋!こうして年月を共にしながら、人とバイクは一体になっていくものなのかもしれないな。
近況報告

長野県諏訪市「太養パン店」で昨年からノマディカとして参加している、バイク好きによる合同出店イベントが今年も5/11(日)に開催。愛知から旅友たちも走って来てくれてパシャリ。ほかにも遊びに来てくれたライダーたくさん! ありがとうございました。

キャンプツーリングなどアウトドアなバイクライフを大人女子目線で発信するエッセイスト。47都道府県+海外5か国の旅エッセイを新聞や雑誌で執筆。著書「へなちょこライダーが行く!」ほか。MOTOアウトドアブランド「nomadica」代表。

