
【小川裕之さん】バイクは楽しい。そう思わせてくれたのがオフロードバイクでした。【ザ・クラフツマンシップ】
趣味性の高いバイクだからこそ、こだわり続けたい技術がある。オフロードバイクのジャンルにおいて、豊富な経験と高い技術、プライドとスピリッツを持つ職人を訪ねるコーナー。第49回は、スタントライダーとして世界で活躍し、現在はインフルエンサーとして自身のYouTube「OGAチャンネル」やイベントでオフロードの楽しさを紹介する小川裕之氏が登場!
【スタントライダー 小川裕之】
エクストリームバイクの本場であるアメリカやヨーロッパで行われている世界最高峰の大会へ参戦し、表彰台獲得するなど世界で戦う日本を代表するライダー。2014年には海外大会において日本人最高位獲得。その活動の範囲はアジア、ヨーロッパ、中東、アフリカ、アメリカとグローバルに広がっている。2018年に大会参戦からは一線を退き、セルフプロモーションで得た映像制作の能力を生かし、YouTubeでの活動を開始。登録者は11万人を突破。最近では趣味のオフロードコンテンツが人気となり、スタントだけでなくオフロードライダーとしても活躍の場を広げている
@oga_channel
PHOTO&TEXT/D.Miyazaki 宮崎大吾
実業団として全米選手権へフル参戦
バイクスタントの世界に飛び込み没頭した大学2年生の小川氏は、やがて全米選手権やヨーロッパを拠点とするスタントライダーへと昇華する。そんな小川氏がバイク人生の転機となったのがオフロードバイクだった。
「20歳くらいの頃、二輪用品店でよく流れていたスタントの海外DVDに影響されて、見よう見まねで始めました。当時Tac(和泉拓)さんもバイクスタントをされていてメディアにもよく登場されていました。日本には技もセットアップも教えてくれる人がいなかったので、全て独学です。
その後Webikeに就職しましたが、学生の頃の通学が通勤に変わっただけで、毎日練習する生活でした。とあるタイミングで勤務と練習などの折り合いがうまくいかなくなって、会社に『バイクを真剣にやりたい』ということで退職を相談したんです。
そうしたら当時上司だった梅津さん(現取締役)が『ちょっと待ってくれ、会社として何か方法がないか信濃社長と相談する』と言われ、その後社長からもアメリカでのスタントの活動の応援や、実業団として会社に籍を置くこと、在宅勤務体制などを設定してくれたのです」。
2010年からスタントの全米選手権に参戦していた小川氏は、それまでの個人でのスポット参戦から、フル参戦へと舵を切ることになる。その後舞台は欧州へ変わるが、基本として活動の場は海外。2017年まで参戦し、何度か表彰台に上るほどの活躍をしたのだった。

バイクのスランプを救ってくれた仲間との林道ツーリング
そんな頃、小川氏にとってのバイク人生の転換期となるスランプが訪れた。
「360(スリーシックスティー)というその頃流行り始めた、ストッピーでリアを軸に180度回転してから、フロントを軸にもう180度回るテクニックがあったのですが、どうしてもできなかったんです。最終的には3年ほどかけて選手権でも使えるまでにはできたんですが、当時はスランプです。もうバイクに乗るのも辛かった。
そんな時に友達に『セローを持っているならオフロードツーリングしよう』と誘われてました。で、ジーパンにスニーカーという格好で林道に行ってみたら、それがめちゃくちゃ楽しかった。スランプに陥って、バイクが嫌だったのに、『やっぱりバイク、楽しいじゃん!』と思わせてくれたのがオフロードバイクだったんです。
遊ぶためには練習もしようとどんどんハマっていき、スニーカーは危ないからブーツを。膝も怖いのでニーブレースを。ジーパンじゃなくてオフジャージの方が格好いいよね、という感じで遊びながら揃えていった。
「仲間にも恵まれて、楽しんでいるところを撮り、バラエティテイストにしてユーチューブに上げたら反響が大きかったです。
今はオフロードの楽しさを伝えるインフルエンサー的な立場になっています。もちろん仕事にもなっていますが、『バイクが楽しい』と思わせてくれる、自分のモーターサイクルライフの中でも大事なものです。だから今は逆にストイックになりすぎないようにしているんです」。

全日本ハードエンデューロ選手権のインターナショナルクラスに出場する小川氏は、「何とか1周できればいいですね。トップレベルになるにはストイックにやらないと辿り着かないのはわかっているし、せっかくの楽しい部分がなくなりますからね。オフロード遊びやハードエンデューロを、スタントの時のようにはしたくないんです」と話してくれた。
ちなみにスタントとオフロードは真逆で、今でも苦労するという。
「びっくりするほど真逆なんです。スタントはリアの荷重を抜く動作が多いです。ストッピーはハンドルに荷重をかけてリアを持ち上げる技ですし、ドリフトは上半身に荷重をかけた瞬間にクラッチミートします。特にドリフトの癖がヒルクライム中に出ちゃうんですよ。全開の瞬間に条件反射でフロントに荷重をかけてしまってリア荷重が抜けてしまう。また長年シッティングでのフロントアップをしてきたので、相当意識しないとスタンディングでフロントを上げられなかったり。色々なところでスタントの癖は出ますね。オフロードは常に路面がランダムに変わるじゃないですか。アスファルトで計画的に先読みするスタントとも異なりますし、このランダムな路面の中でベストな選択を行えるトライアルやハードエンデューロのトップライダーは物凄く巧みな世界にいるんだと、心の底からリスペクトできるのです」。
日本で生きていく。ならば日本向けに発信しよう
2018年、とある事情により海外の選手権に参戦できなくなってしまった小川氏は、日本に滞在するようになった時のことを振り返る。
「やはり日本なんだな、自分が生きていく世界は。と痛感しました。海外の大会に出て肩書きをつけていくことに頑張ってきましたけど、自分は日本でご飯を食べていくんだと実感したのがその頃でした。
だったら日本向けに発信しようと始めたのがユーチューブです。当時はスタントのハウツーなどを載せて好評でしたが、それはもうやり切りましたし、それだけだとつまらないなと」。
現在の小川氏の活動はスタントでのショー、動画コンテンツ(OGAチャンネル)の作成や、映像クリエイターとしての仕事に加えて、最近ではオフロードイベントにも呼ばれることも。
「今はOGAチャンネルの中でも色々な製品の紹介があって、コンテンツ作りや撮影にも力を注いでいますし、動画の編集は時間がかかります。もちろんWebikeの業務もあって、温かい季節はスタントショーの仕事も多くなるので、オフロードバイクに乗れる時間も限られていますね。バイクの整備の時間も必要ですし。 今もWebikeの社員として働いていますが、映像クリエイター、社内インフルエンサー的な活動がメインとなっています。ここまでライダー活動を頑張ってきたことが、臨機応変に対応できるスキルを身につけることに繋がってきたんだなと思います」。
最後に今年9月6日(土)に長野県大町市で開催する「Webike×DIRTSPORTSオフロード祭り」について。
「大町はハードエンデューロっぽいセクションが多いので、初心者の方でも僕がヘルプしながら楽しめる山遊び体感ツアーを開催したいですね。元々スキー場だったところなので、初心者の方や大型アドベンチャーバイクでも楽しめますので、ぜひ参加してください」。