中須賀克行 通算JSB100勝へのカウントダウン|「狙える記録にはチャレンジしていく」【百”勝”錬磨】

2025年シーズンがいよいよ開幕した。中須賀克行のYZF-R1には、空力特性や操縦安定性の向上を狙ったウイングレットが新たに装着され、彼の勝利をバックアップする。昨シーズンの後半戦で未勝利に終わった理由は何だったのか。そして通算100勝という驚異の記録への想いなど、今シーズンの意気込みを聞いた。

【中須賀克行|Katsuyuki Nakasuga】

1981年生まれ、福岡県出身。2005年から全日本ロードレースの最高峰JSB1000クラスに参戦を開始し、2023年までの19年間で12回のチャンピオンを獲得。特に2021 ~ 2022年は2年連続で全勝した。鈴鹿8耐も2015 ~ 2018年に4連覇している
1981年生まれ、福岡県出身。2005年から全日本ロードレースの最高峰JSB1000クラスに参戦を開始し、2023年までの19年間で12回のチャンピオンを獲得。特に2021 ~ 2022年は2年連続で全勝した。鈴鹿8耐も2015 ~ 2018年に4連覇している
PHOTO/YAMAHA TEXT/M.SAKUMA
取材協力/ヤマハ発動機
☎0120-090-819 
https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/

昨年後半に勝てなかった理由そして新たなチャレンジ

’24年シーズンを振り返ると、前半戦は順調に勝利を重ねたが、後半は未勝利に終わった中須賀。’22年には全戦優勝した彼が、1シーズン中に7レース連続で勝てなかったのは、10年以上も遡る。

「勝てなかったのは、ライバルの台頭が著しかったということです。中でもチームメイトで後輩の(岡本)裕生は速かったですね。特に彼の走りに合っているSUGOでのレースでは、先行させたら逆転は難しいと思っていたのですが、レース2では先行されて逆転できなかった。

その裕生がチャンピオンを獲ったことで、ヤマハのJSB1000での連覇は途切れませんでした。でも今年、彼はスーパースポーツ世界選手権を戦っているので、全日本でのヤマハの連覇は私が守らなければなりません。ヤマハの創立70周年、レース参戦70周年の今年、しっかりと結果を残していきます」

昨シーズンは事前テストを含めて転倒が多く、その影響があったのだろうか。

「確かに転倒が多かった。今振り返ると、台頭するライバルを意識して無理をしていたのかもしれません。

そして、改めて転倒はダメだと実感しました。転倒すれば、ケガはなくても身体へのダメージは蓄積していきます。何よりセットアップを進めていたマシンを壊してしまうと、ゼロからやり直しとなってしまう。

チームスタッフには迷惑がかかるし、時間的な余裕がなくなってテストスケジュールがこなせなくなる場合もあります。だから今年は、転倒しないよう心がけていきます」

昨年は、ライディングスタイルの改造に取り組んでいたと聞くが。

「改造というと少し違いますが、裕生のコーナリングにヒントを得て、彼のいいところを取り込もうと。

走行データを見ても明らかなのですが、私と裕生のコーナリングはサーキットや特定のコーナーではまったく違っていて、裕生が速い場所もある。どのように違うのかを言葉で表現するのはとても難しいのですが、裕生のいいところ、そして自分のいいところの融合を目指しています。

開幕戦のもてぎは自分本来の走りで戦えますが、第2戦SUGOでは、昨年の裕生のデータを活用していきます」

気になる中須賀と岡本のコーナリングの違い。中須賀はレイトブレーキングからスピードを落としてクルッとマシンの向きを変えると、一気にコーナーを立ち上がっていく。それに対して岡本は、中排気量車で用いられるコーナリングスピードを落とさずにクリアしていくタイプ。

そして使用燃料がETSに変わってから、中須賀は従来のライディングだと、コーナーの立ち上がりでアクセルを開けた際にリアタイヤの空転が顕著になったと明かしている。対する岡本は、空転している時間が短く、ここの違いがタイム差になり、レースでの戦法に大きく影響していたようだ。

ウイングレットの装着と100勝という大記録

今季の中須賀のマシンには、新たにダウンフォースを得るための空力パーツである、ウイングレットが装着された。

「ウイングレットの開発は、シーズン中に変更できないので、本当に難しいんです。

単にダウンフォースを意識するならば、大きなものを取り付ければいい。しかし、そうすると車重も増えるしマシンの前後バランスも崩れてしまいます。さらに強風時にはデメリットになる可能性もあり、コーナーでの切り返しが重くなることも想定されます。

2025年仕様としてウイングレットが装着された中須賀のYZF-R1。カウルサイドには「日の丸」をイメージする白地に赤がデザインされる

だから、いろいろなシチュエーションを想定してテストを重ね、しっかりと効果が得られる現状の大きさ、形状、取り付け位置が決まりました」

一方で、今年の鈴鹿8耐へ、ヤマハレーシングチームからの出場が発表されている。

「再び鈴鹿8耐の舞台に立てるのは楽しみですし、出場するからには優勝を狙っていきます。

パートナーライダーは、MotoGPやスーパーバイク世界選手権などから選抜されると聞いていますが、ヤマハには素晴らしいライダーが揃っているので、お互いにリスペクトしながら戦うことができると思っています。

そして誰が選ばれても、いいマシンに仕上がっていると言ってもらえるように、しっかりと鈴鹿8耐用マシンを作っていきます」

2019年以来のファクトリー体制での参戦となる鈴鹿8耐。カラーリングの白×赤は、1990年代後半のYZF-R7からインスパイアを受けている

全日本では、JSB1000で通算100勝の偉業がかかっている。

「今年44歳になりますが、今もなおJSB1000で優勝争いや、チャンピオン争いに絡んでいられることに自分でも驚いています。

これも、自分のレース活動を強力にバックアップしてくれるヤマハ発動機や、戦闘力の高いYZF-R1、そしてチームスタッフやファンのみなさんに支えられているからで、だからこそ、みなさんが期待している通算100勝を目指したい」

新デザインのレーシングスーツ。これが今シーズンの中須賀克行の正装となる

レースに向けてしっかりと準備を進めて、一戦一戦で全力を出し切る、というのが従来の中須賀の常套句だが、ここに来て優勝、そしてチャンピオンを意識するコメントに変わっているのは興味深い。

「年齢的に、現役ライダーとしての残り時間が限られているのは理解しています。だからこそ狙える記録には貪欲にチャレンジしていきたい。

ただ、今年も強力なライバルが多く、記録にこだわると足元をすくわれます。やはりいつも通り、しっかりと準備を進めて、一戦一戦で全力を出し切る、ということになりますね」

  • 2025 MFJ全日本ロードレース選手権
    • 第1戦 4月19~20日 モビリティリゾートもてぎ(JSB1000 1レース制)
    • 第2戦 5月24~25日 スポーツランドSUGO(JSB1000 2レース制)
    • 第3戦 6月21~22日 筑波サーキット(JSB1000 開催なし)
    • 第4戦 8月23~24日 モビリティリゾートもてぎ(JSB1000 2レース制)
    • 第5戦 9月13~14日 オートポリス(JSB1000 2レース制)
    • 第6戦 10月4~5日 岡山国際サーキット(JSB1000 1レース制)
    • 第7戦 10月25~26日 鈴鹿サーキット(JSB1000 2レース制)
  • 2025 FIM世界耐久選手権 第3戦
    • 鈴鹿8時間耐久ロードレース 8月1日~3日 鈴鹿サーキット

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