【鈴木里美さん】若い子が増えて、もっと褒めて盛り上げていきたいです【ザ・クラフツマンシップ】

趣味性の高いバイクだからこそ、こだわり続けたい技術がある。オフロードバイクのジャンルにおいて、豊富な経験と高い技術、プライドとスピリッツを持つ職人を訪ねるコーナー。第55回はJNCCなどエンデューロレースのMCとして活躍中の「楽さん」こと、鈴木里美さんが登場。四輪、ロードバイクも含めエンジンが付いた乗り物が大好きな彼女がオフロードに熱中した理由は? そしてこれからのレース界に思うこととは?

PHOTO&TEXT/D.Miyazaki 宮﨑大吾

なんでオフロードバイクは上手く乗れないんだ!?

エンデューロ界でこの方を知らない人はまずいないだろう。「ラクさん」として親しまれているMC、鈴木里美さんである。彼女が20代の頃に四輪ジムカーナに熱中していたことは、かつて本誌の「エンデューロ人」というコーナーでも紹介したことがある。

「18、19歳の時は毎週のようにスポーツバイクで峠を走りに行っていたんですよ。20代でジムカーナを10年くらいやって、割と私速いやつだったんです(笑)。2シーターのMR2やランエボを、そこで出会って結婚した主人と乗っていました。妊娠してからは子どもを育てるのにお金がかかるので、なるべく安くできるものを探していたら、『そういえばオフロードバイクはやっていないな』と思ったんです。

通勤電車の窓からライダースランドYOYOさんの店が見えて、フラッと立ち寄って当時は安く買えたセローの中古車を購入したのが最初です。YOYOさんにはパレ那須やF2小湊とか大島などツーリングに連れて行ってもらいました。

 エンジン付きの乗り物がとにかく好きで、車もバイクもずっとやってきたけど、『なんでオフロードバイクはこんなにも上手く乗れないの?』と思って、どんどんハマっていきました」

何も考えずに飛び込んだ日高。これが初めてのオンタイムED

オフロードバイクを始めた当時はモトクロスとエンデューロの違いも分からなかったというラクさん。最初に出たレースが、かつて大井松田で行われていたディシエンブレエンデューロ。ギャロップにも参戦していたという。

「秋ヶ瀬の土手で捲れていたら助けてくれたのが松尾くん(松尾英之選手)とまちゃ(小林雅裕選手)でした。JNCCに誘われて出たのが定義。どこも、もう走れないコースばかりですね(笑)。当時は女性ライダーも少なかったけど、AAライダーの皆さんも優しいし、なんだか嬉しかったですね。モトクロスと違ってメーカーの壁がなくてワイワイ楽しんでいるのがエンデューロの良いところですよね。

JNCCのレース実況、MCとして活躍中の楽さん。ベテランはもちろん、若いライダーを大事にするスタンスで場を盛り上げる

子どもが小さい頃は日帰りで行けるところへ、手間が掛からなくなってからは遠出ができるようになりました。その後BAJAを知り、そして日高2デイズエンデューロを知ることになります。北海道4デイズラリーに出た時に日高のポスターがあって惹かれて、何も考えずにエントリー。これが私の初オンタイムエンデューロです(笑)。内地から参戦する女性も珍しくて、斉藤まなちゃんくらいしかいませんでしたから、驚かれましたね~」

ガレクライムを制覇してMCに専念するように

エンデューロの世界にハマっていったラクさんは、やがてMCとしても目立つ存在になっていく。

「実は私JNCCのWAAチャンピオンになったこともありまして(笑)、当時はFUN-GPを走り、COMP-GPはおやじちゃんと掛け合いで実況していました。COMP-GPで爺ヶ岳のガレクライムを一人で制覇したのが2011年。これで一つの目標を達成できました。そうしたらJNCC星野さんから『MCに専念してくれないか』ということで、現在に至ります。元々ジムカーナでもMCをやっていたし喋ることが好きなので、自然な流れでしたね。

 MCをやる上で気をつけているのは、まず下調べをすること。レース実況のつなぎとして、その地域ならではのグルメや温泉などのローカル情報を盛り込んでいるのは、旅行好きな性格にもよりますが、必要かなと思っています。また公式に話す以上不公平であってはいけないですし、シリーズポイントなどもチェックする必要がありますよね。今はライブ中継もあるので、現場にいない方にも伝わるような実況を心がけています。

 他には出店情報などは必ず話しますし、オフロード祭りのような初心者の方が集まるイベントではパドックの徐行やヘルメット装着などのマナーを伝えたりすることも大事。専門用語、例えば『ブレストガード』なんて言っても初心者には分からないので、『体を守る防具』というように分かりやすく言い換えて話すことも大事ですね」。

自分の土台をしっかり固めてから遊ぶべし

「最近のエンデューロは若い選手が多く活躍するようになってきて楽しいですよ」とラクさんは話す。

「ハードエンデューロでもJNCCでも若い選手がたくさん活躍するようになっていますし、どんどんこういう選手を盛り上げて、伸ばしていける業界にしたいですよね。やっぱり若い人を褒めて増やさないとと思うんです。JNCCで開催しているキッズのレースなども絶対に必要だと思うし、無くしてはいけないかなと思います。

 エンデューロはそれぞれの地域性があるのが面白いし、レースによって異なる文化も面白いです」。

 最後に、普段ラクさんが何をしている人なのか知らない人に向けて。

「BAJAが大好き」という。 BAJAを楽しむメンバーとアジアクロスカントリーラリーに同行したことも。そしてJECは日高2デイズエンデューロに参戦し、ここ数年は撮影も楽しみライダーを盛り上げてくれている

「私は普段は会社員です。イラストレーター、デザイナーをやっています。自分の仕事をしっかりできていないと遊べないですよね。バイクレーサーとして食べていける時代ではないですし、ちょっと成績が良くなったからといって何でも『くれくれ』というのも違うと思う。しっかり仕事をして、楽しむべきじゃないかと思いますよ」。

 楽しいだけじゃない。苦しいことや危ないこともあるモータースポーツ。だからこそ、ラクさんのようなライダー目線に寄り添うMCの存在は、ますます必要とされるのかもしれない。

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