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ハーレー和尚のバイク説法「温故知新(おんこちしん)」

バイク寺として親しまれる大阪府能勢町にある「妙見宗総本山 本瀧寺」の執事長。40歳の時に大型二輪免許を取得。ショベルに乗るハーレー和尚として、バイク講話など交通安全普及に努める

本瀧寺のシュウケンです。まだまだ暑い日が続いておりますが、暦の上では秋分も過ぎました。この秋分を境に、昼間より1日の夜の時間が徐々に長くなっていきます。私ごとですが、基本的に私は夜にバイクを運転することはありません。僧侶という職業柄、朝のお勤めが早いので夜は早く就寝するのも理由のひとつですが、やはり一番は暗くて危ないからです。とくに当寺の周辺は街灯も少なく、冗談のように思われますが、鹿や猪などの野生動物と遭遇することも珍しくありません。昼間見慣れた景色も、夜はガラリと雰囲気が変わります。

紅葉の名所としても知られる本瀧寺。11月中旬〜下旬には境内のカエデなどが色づき、また「ほんたき寺巣(テラス)」で周囲の山々の紅葉が楽しめる

 古くから日本には夜にまつわる迷信が多くあります。“夜に爪を切ると親の死に目に会えない”“夜に新しい靴をおろしてはいけない”など。どれも本当なら、世の中大変なことになります。しかし、迷信にも理由があるのです。

夜に爪を切るに関しては、昔は今のような爪切りがありませんでした。しかも灯りも暗い。そんな暗い中、小刀などの刃物で爪を切っていて、もし手元が狂うと怪我をして、それが原因で死んでしまうこともあります。つまり親より早く亡くなってしまい、親の死に目に会えないことになります。

“夜に新しい靴をおろしてはいけない”にも理由があります。昔はお葬式などは自宅で行っていました。出棺は夜にされることが多く、その時に新しい草履やワラジを履いて火葬場や埋葬地へと向かっていました。そこから夜に新しい靴をおろすと、死を連想して縁が悪いとされているのです。しかし、それだけではないようです。ほとんどの人は新しい靴をおろすと嬉しくなると思います。とくに子供たちは嬉しさのあまり、それを履いて歩きたくなります。しかし、暗い夜道を歩き回ると危ない。そんな子供を戒める意味もあるといわれています。

午前中がオススメと言われる寺院などでのお参り。午前中が比較的空いているなどが理由に挙げられるが、山間地などの寺院は夕方になると急に暗くなり、足元が危険なのも理由の一つ。本瀧寺の拝観時間も基本朝9時から夕方の5時まで

以前、こんな噂を知人から聞いたことがあります。“自分のバイクや車の写真を撮ると事故に遭う”。多くの人がSNSを利用している昨今、もしこれが本当ならライダーの大半が事故に遭っているはずです。しかし、この噂を単なる迷信だと笑い飛ばすのもどうかと思います。考えてみてください。みなさんが自分のバイクの写真を撮る時って、どのような状況が多いでしょうか。恐らくツーリング先や、仲間たちと盛り上がっている時などではないでしょうか。走り慣れていない旅先や、仲間とのバイク話で気持ちが昂っている時など、普段とは状況が違います。また、写真撮影に集中するあまり、立ち入ってはいけない場所についつい入ってしまうこともあるのではないでしょうか。魔が差すと言いますが、そのような普段と違う時に、人は判断を誤ることが多いものです。普段とは違う自分に対する戒め。そう考えれば、このような噂も単なる迷信ではないと思うのです。

『温故知新』。“故きを温(たず)ねて新しきを知る”といいます。いろいろな事物が発展した今、生活様式も昔とは変化しています。“昔と今は違う”。その一言で終わらせる前に、古きものの本質を今一度考えてみるのも、悪くはないと思います。

合掌

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