1. HOME
  2. COLUMN
  3. なるほど! 世界のバイク人(Vol.151)

なるほど! 世界のバイク人(Vol.151)

新時代を切り開く!? 2ストロークエンジン

シンプルな構造で軽量ハイパワー
音質と排気煙で印象が悪かったが
燃料噴射装置でクリーンにもなる
2ストロークの「今」を語ろう

クリーンになって
2ストローク再び

 アナタが最後に2ストロークのロードバイクに乗ったのは、いつだっただろう。

日本国内で最後にこういうバイクが発売されたのが1997年(スズキR G V 250)、ヨーロッパでは2003年(アプリリアRS250)だったから、もしかすると乗ったことがない人や、あるいは2ストロークそのものを知らないという人さえいるかもしれない。


 オフロードバイクやコンペティションマシンは別として、ストリートでは20年近くの間、2ストロークモデルの不在が続いているので、2ストロークはもう絶滅したと思う人がいても不思議ではない。

だから、2年前の9月にイギリスのサロン・プリヴェというハイプロファイルなモータリングショーで、ランゲン・モーターサイクルズという小さな会社から200ccVツインの、その名も「2ストローク」というロードスターが発表されたとき、それが実際に路上に到達するのかどうか半信半疑の人もいた。


 しかし、ランゲンは昨年の終わりに100台の限定生産が始まり、最近になって日本でも販売されることが発表された。

ランゲン2ストロークと、兄弟車であるイタリアのヴィンス250(ドゥエチン

クァンタと読む)の詳細は、輸入元のモータリスト合同社から、雑誌編集者が泣いて喜びそうなプレスリリースが発表されたので、すでにさまざまなバイクメディアに載っているだろう。


 ランゲン/ヴィンスが世界的に注目されている理由は、2ストロークロードバイクに乗ったことがある人なら簡単に理解できる。

理論的には4ストロークの半分の排気量で同じパワーが得られる2ストロークエンジンの軽さとシンプルさ、そして2ストロークの最大の魅力であるにもかかわらず、もう味わえないと諦めていた、あのフーリガン的なパワー特性が戻ってくるからだ。


 そもそもなぜ私たちは、この魅力を諦めなければならなかったのだろう。それは、2ストロークエンジンそのものに理由がある。

2ストロークと4ストロークの違いをいまさらここで解説する必要はないだろうが、従来の2ストロークはその構造上、どんなに優れた設計でも、掃気ポートを通じて燃焼室に導かれるフレッシュな混合気の一部が、着火する前に近道して排気ポートから逃げ出してしまう。

そのせいで、同じパワーを発生するのに4ストロークより約25%余分に燃料が必要だった。


 昔は、これは燃費の悪さに反映するだけだったが、1960年代の終わりにアメリカで自動車の排ガスによる汚染が問題になり、マスキー法が制定されると、未燃焼ガスと潤滑オイルが燃えた煙を排出する2ストロークが、光化学スモッグの元凶の一つしてやり玉にあげられた。

そして、アメリカ環境保護庁の基準が厳しくなり、公道で2ストロークに乗ることが違法になった。


 一方ヨーロッパでは、価格の安さで東欧製の2ストロークに一定の人気があったが、旧共産圏メーカーの技術的に遅れたイメージと排気のせいで、2ストロークは時代遅れで汚いエンジンという刷り込みが広まった。

そして、ヤマハR D 350LC(RZ350の輸出名)の爆発的な人気にもかかわらず、2ストロークロードバイクはフェードアウトし、やがて市場から消えた。


 だが、大気汚染の化学反応の研究が進み、やがて混合気が排気ポートに近道をするのを防ぐ効果的な技術が、燃料の直接噴射(DFI)と間接噴射(IFI)として開発された。

そして、いずれにしても必要な触媒を併用してそれまでの排出問題が克服され、2ストロークエンジンはむしろ低排出で、技術的な利点の多いエンジンとして見直され、1980年代の半ばから1990年代半ばにかけてトヨタ、GM、フォード、プジョー、ジャギュアなどの主要自動車メーカーがそれぞれ開発を行った。

独立系のエンジニアリング会社ではオーストラリアのオービタルがもっとも進んだ開発を行い、アプリリアがスクーターにオービタルD FIを採用した。

ヤマハも日立のDFIを船外エンジンに採用した。


 それなら、なぜ2ストロークは市場から消えたのだろう。ひとつには噴射装置が非常に高価だったことがある。

だがそれよりも大きな要素は、当時、EPAとユーロ排出基準の要求が将来的にどのようになるか、だれも予測がつかなかったことだ。

そこで、だれもが良く知っていて、厳しくなるはずの排出規制に対応しやすい4ストロークを続けることが、企業にとってもっとも安全で経済的ということになり、そしていったんそう決まってしまうと、2ストロークへの再投資の正当化は難しくなった。


 しかし、スペシャリストによる開発は決して廃れることがなく、エレクトロニクスによる燃料の正確な噴射タイミングとメータリングで排出はグリーンになり、ユーロ5も達成された。

ある程度の煙はいぜんとして出るが、オイルはもはや燃料と直接混ざらなくなり、エレクトロニクスでコントロールされる噴出量も以前とは比較にならないほど少ない。


 クリーンになった2ストロークロードバイクに再び乗れる道は開けたのかという質問に対しては、ランゲン/ヴィンスを見る限り、技術的にはイエスだ。

だがそのコストは、まだ普通の人々が正当化できるものではない。マランカ125E2CSからスズキG船外エンジンに採用した。


 しかし、スペシャリストによる開発は決して廃れることがなく、エレクトロニクスによる燃料の正確な噴射タイミングとメータリングで排出はグリーンになり、ユーロ5も達成された。

ある程度の煙はいぜんとして出るが、オイルはもはや燃料と直接混ざらなくなり、エレクトロニクスでコントロールされる噴出量も以前とは比較にならないほど少ない。


 クリーンになった2ストロークロードバイクに再び乗れる道は開けたのかという質問に対しては、ランゲン/ヴィンスを見る限り、技術的にはイエスだ。だがそのコストは、まだ普通の人々が正当化できるものではない。
 マランカ125E2CSからスズキGT750まで、7台の2ストローク歴がある私としては、単に選択肢が増えるという以上に、2ストロークロードバイクが戻ってくることを期待している。

あのフーリガン的なテイストとともに。

BikeJIN2022年10月号(Vol.237)掲載

関連記事