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なるほど!世界のバイク人「中国製品の台頭、未来のバイク市場を席捲する⁉」

70年代以降日本のバイクの高性能化により、
海外の老舗メーカーが苦境に立たされた
中国のモノ造りは確実に実力をつけている
バイクの世界も中国なしには成り立たない?

中国産のメリットはコスト面だけではない

 今から20年前に、いや10年前でもいい、ベテランライダーたちに中国製のバイクを買いたいかと聞いたら、彼らは大笑いして冗談はよせと言っただろう。

 しかし時代は変わり、ヨーロッパや日本のバイクの低品質で安物のコピーという中国製のステレオタイプは、いまや急速に過去のものになりつつある。他の分野の工業製品でもアイフォンやテスラがいい例だ。デザインは西洋かもしれないが、製造の大部分は中国だ。

 バイクの世界は、だいぶ前からすでにこのことを知っている。たとえばBMWは、20年近く前から重慶のロンシンが作るエンジンをいくつかのモデルに使っている。KTMは杭州のCFモトと、ピアジオはゾンシェンとジョイントベンチャーを行ってヨーロッパブランドのバイクを作り、ベネリはQJの子会社だ。そして、ヨーロッパのメーカーのためにエンジンやコンプリートバイクの製造を引き受けてきた中国のメーカーは、いまやそれらと競合する自分たち自身のモデルを展開する用意ができている。

 中国のメーカーは、これまで安いだけが取り柄の使い捨てバイクの市場を選んできた。顧客の大半は、何よりも安さを望むビギナーやスクーターのライダーだった。だが、彼らがそういうバイクやスクーターに何年も乗ることはない。長くてもせいぜい2〜3年で、その後はたいていスクラップになる。だから、こういうライフスパンの短い製品に、整備やスペアパーツのサポートを何年も供給するより、単に売りっぱなしにすることが、ある意味では企業の論理にかなっていた。世界市場への急速な浸透を目指した中国のメーカーは、こうして小排気量の安いローエンド製品で輸出市場を築いた。

 しかし、いまや流れは変わり、ヨーロッパの大排気量バイクの中にも中国で製造されているものがある。そのよい例はKTMだ。同社で3番目によく売れている790デュークと、5番目の790アドベンチャーは両方ともCFモト製で、オーストリアの本社で作っている890よりもずっと多く売れている。しかしこれはヨーロッパで設計され、ヨーロッパのブランドで販売されているので、顧客の多くはだれがこれを作っているのか単に知らないか、あるいは気にしないのかもしれない。同じことはQJが作るベネリTRK502/502X、TRK702/702Xにも言える。イタリアでは、TRK502が国内のベストセラーバイクの地位を維持している。

 最新のトレンドは、ヨーロッパブランドを名乗らない中国製大排気量バイクの増加だ。ロンシンはヴォージュブランドで、BMWのF900並列2気筒を使う900DSXを用意している。CFモトにはKTMのLC8エンジン(CFモトが製造)の800MT/NKのほかに、国内では1279㏄のVツインがある。グァンドンのゾンテスは700㏄3気筒のスポーツ/アドベンチャーバイクだ。

QJモーターは昨年のEICMAで、MVアグスタの並列4気筒エンジンを搭載するSRK921RRを発表した。これらは、最近のバイクショーに突然現れた3/4気筒を含むハイパフォーマンスバイクの一部だ。中国は、排気量の大きい多気筒で高性能なハイエンドバイクの、成熟した市場へ進出を始めたのである。

QJ Motor のSRK 921RRは、MVアグスタと同じ直列4気筒エンジンを搭載したスーパースポーツだ。トラクションコントロールやコーナリングABSなどの各種電子制御の充実に加え、ドライブレコーダーやタイヤの空気圧モニターまで装備している

 これらのバイクは、以前の中国製バイクのような使い捨てではない。大排気量・高性能の市場では、信頼性、耐久性、クオリティが必要とされている。なぜなら、こういうバイクの顧客は単に価格だけではなく、リセールバリューにも目を向けているからだ。その理由は、イギリスやヨーロッパではバイク(やクルマ)を買う際に、ほとんどの顧客がPCPファイナンスに頼っていることにある。

 日本では残存価格設定ローンに相当するPCPで重要なのは、MGFV(最低保証将来価格)というローン返済後の予定残価/査定価格だ。残価が高ければ月々の支払い額が低くなって財布に余裕が出るが、高い査定価格を得るには、バイクの寿命が長くて中古販売が容易なことが重要だ。それには、信頼性、耐久性、品質はもちろん、十分なサービスやパーツのバックアップも必要になる。かつては使い捨てのポリシーで市場を拡大した中国のメーカーは大排気量市場ではこれがもっとも大事であることを承知しており、そしていまやそのための能力がある。

 現在、各国のメーカーはネットゼロ・ターゲットに向けて、バッテリーや燃料電池による電動化の開発に力を注いでいるが、中国は電動バイクで先制的なスタートを切って、利用できる技術的知識を豊富に持っている。その中国が、なぜ逆行的とも思え
る大排気量の内燃機関バイクを次々に、明らかに急ピッチでリリースしているのだろう。2035年(国によっては2030年)に化石燃料を燃やす内燃機関を使う新車の販売が禁止されるまでに、利益の上がるビッグバイク市場の一角を切り取って、フルレンジのバイクメーカーとしての世界的なステータスを獲得したいからだろうか。

 ヨーロッパのメーカーの多くは、昨年EUが2035年以後もEフュエルを使う内燃機関の存続を許す政策転換を行ったことによって、250〜300㏄以上のスポーツバイクに内燃機関を使い続けるつもりでいる。Eフュエルが中国の大排気量・内燃機関バイクにも、より長期的な戦略を与えることはたしかだ。

 これらから想像できる中期的な将来の姿は、バイク市場全体への中国メーカーの安定的な進出だ。私たちは、かつて日本のバイクが世界を凌駕していったのと同じ勢いを、いま中国のバイクに見ているのだろう。

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