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なるほど!世界のバイク人「電気モーターと内燃機 本当はどちらがエコなのか?」

BEV(バッテリー式電動車)はテールパイプ排出がないのは事実で分かりやすい
しかしライフサイクル全体ではICE(内燃機関)に劣っており
そして意外と環境に厳しいことも明確になってきた
果たしてどちらが賢い選択なのだろうか?

電気モーターと内燃機。本当はどちらがエコなのか

現在市販されている電動ストリートバイクでは最も高性能なエネルジカEgo+RS。21.5kW/hのリチウムポリマーバッテリーと油冷モーターから最高速241km/h、最大出力171hp、航続距離417㎞を発揮。ライディングモードは4種類。だが充電は急速モードでも40分かかる

 2050年までに温室効果ガスの排出をなくして地球全体をカーボンニュートラルにするためには、自動車/モーターサイクルの分野では電動化がネットゼロへの道だとされている。そして、バッテリーパワーの乗り物が目標到達への有力な手段だといわれてきた。

 バッテリー式電動車(BEV)はテールパイプ排出がないというのは本当だ。しかしBEV(バッテリー式電動車)は、電力網にすべてを頼っている。供給される電力がクリーンな水力や風力や太陽光で発電されたか、あるいは排出の汚い火力を使って生産されたかどうかも、また別の問題だ。

 カーボンフットプリントという言葉をご存じだろうか。商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの量を、CO2で表したものだ。個人や企業の活動で排出される温室効果ガスも含まれる。

 BEV(バッテリー式電動車)のカーボンフットプリントが、内燃機関(ICE)の乗り物よりも多いというのは、いまや広く知られるようになった。BEV(バッテリー式電動車)は走行時の排出がゼロでも、ライフサイクル全体ではICE(内燃機関)よりも排出が多いので、かなりの距離を走って相殺しないとカーボンフットプリントが小さくならないのだ。

 それだけではない。車体全体に占めるバッテリーの質量によるカーボンフットプリントの比率がある。自動車メーカーのボルボによると、電動SUVのXC40リチャージの場合、バッテリーは全質量の16%しか占めていないが、製造段階でのカーボンフットプリントは全体の28%になるという。これをバイクに置き換えてみると、電動バイクのバッテリー質量は全質量の45%にもなる。したがって製造におけるカーボンフットプリントの比率も、これに応じて大きいはずだ。

 またBEV(バッテリー式電動車)は、テールパイプ排出がないので気候への影響が少なくても、その他の環境要素(資源の枯渇、酸性化、人体への毒性、大気汚染など)に対しては、ICE(内燃機関)よりも大きなダメージを生じ得る。これについて、産業サステイナビリティの研究で知られるフィレンツェ大学のフランチェスコ・デル・ペーロ教授は、興味深いデータを提供している。

 ヨーロッパの一般的な電力供給システムで充電した場合、温室効果ガスの排出に関して電動自動車がブレークイーブン(プラスマイナスゼロになる分岐点)に達するには、約4万5千㎞走らなければならないというのだ。この数字は国によっても異なり、例えば再生可能エネルギーによる発電比率が高いノルウェーでは3万㎞弱、火力発電が主流のポーランドでは25万㎞にもなる。

 ボルボもこれと同様のデータを発表しており、XC40リチャージの製造時と走行時の排出に関しては、ヨーロッパの通常の電力供給による充電では8万3571㎞、風力発電では4万6600㎞でブレークイーブンになるという。

 さらにデル・ペロ教授は、BEV(バッテリー式電動車)の電子機器やバッテリーに含まれる銅、ニッケル、リチウム、コバルトの採掘や精錬による排出が起こす環境汚染(水や土壌の酸性化、オゾン量の減少、粉塵排出、化学物質の放出で起きる可能性のある人体への毒性など)の影響は、実際にICE(内燃機関)よりも大きいことを認めている。 近年、バッテリーのリサイクル技術は急速に発達し、リチウム、ニッケル、コバルトなどは回収が可能になってきている。またバッテリー自体も、よりサステイナブルな素材を使う開発が進んでいる。そして現在、ヨーロッパでは発電で排出される温室効果ガスが実際に1990年当時の半分に減っていて、2030年までにはさらに半減される計画だ。

 しかし、BEV(バッテリー式電動車)のライフサイクルの真実が知られるようになって、その未来が以前ほどバラ色に見えなくなってきたのは事実だ。今年のはじめに、Eフュエル/合成燃料を使うICE(内燃機関)は、2035年以降も存在が許される法案がECによって提出されたのも、それに拍車をかけている。そして、運転で排出されるのは水だけという水素による燃料電池/フュエルセル式電動車(FCV)はすでに実用に供され、水素を直接燃焼させるICE(内燃機関)の開発も急ピッチで進んでいる。

 だがこれまでのところは、すでに長年の開発を経てきたBEV(バッテリー式電動車)が先行している。そして動力パフォーマンスに関する限り、少なくとも現在のスポーツバイクと肩を並べられるものもある。日本のメーカーが作る電動バイクは、低出力のスクーター/コミューターやファンバイクしかないが、世界的にはイタリアのエネルジカには最大効率に限界があることを、1824年に証明しているのである。この定理をガソリンエンジンに適用したときの最大効率値は70%ほどだが、実際は現在のもっとも進んだエンジンでも50~60%がやっとだそうだ。しかし、熱機関ではない電気モーターにカルノーの定理はあてはまらず、その最大効率は95%以上のレベルに達している。ということは、結局は電動式が未来の自動車の趨勢になるのだろうか。

次回は、もう一つの選択肢の水素について考えてみる。

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