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なるほど!世界のバイク人「未来の環境への配慮とは。動力と燃料を考える」

ネット環境の整備で移動が不要になってきたが
しかし、生活からすべての移動が不要にはならない
特に我々のツーリングは「リアル」が良いはずだ
近い将来、バイクの主役になるであろう動力を考える

バイクの未来はどうなる。原動力は3種類が有力

グローバル・ウォーミング(地球温暖化)は終わり、グローバル・ボイリング(地球沸騰化)が始まったと、アントニオ・グテーレス国連事務総長に言わしめたこの夏の世界的な異常気象は、環境に関する懸念が一段と深まる中で、温室効果ガスの排出を可能な限りゼロに近づけ、それでも排出される分は海洋や森林に再吸収されることを目指すネットゼロ排出への取り組みを、ますます重要なものにしている。

 2050年までに地球全体をカーボンニュートラルにする計画の「ネットゼロ・ターゲット」の一環として、化石燃料のガソリンとディーゼルを燃やして走る自動車(バイクも含む)の新車販売が禁止されるのは、読者もよく知っているだろう。国際エネルギー機関(IEA)のシナリオによると、この禁止は2035年から発効するが、イギリスでは2030年という早い時期に、50㏄と125㏄の小排気量バイクが新車市場から消滅することがすでに発表されている。

 今から12年後の2035年に私がまだ生きているかどうかは分からないが、培倶人の読者の多くは、きっとまだバイクに乗っているに違いない。となると、そのときにあなたは何を期待すればいいのだろう。バイクの原動力に関しては、まだ選択肢があるのだろうか。

 現在の時点では、いくつかのオプションがあるように見える。それらは、Eフュエル/化学合成燃料を使う従来と同様の内燃機関モデル、バッテリーを使う電動車(BEV)、水素を燃やす内燃機関または燃料電池/フュエルセルのバイクだ。一部のメーカーが視野に入れているようなハイブリッドもあるが、これはEフュエルを使う場合にだけ有効になるので、この考察からは除外する。

世界各国に新興EVメーカーが多数生まれている。高度な内燃機の技術を取得することなく、既存コンポーネントとモーター、バッテリーの組み合わせで比較的簡単に参入できる。デザインや技術に斬新なものも登場している

Eフュエル

 これらのオプションには、それぞれ長所と欠点がある。まず、現段階でもっとも有力に思えるのはEフュエルだ。Eフュエルの製造原理と、Eフュエルが2035年以降の有力な選択肢として浮上したいきさつは、2018年10月号と今年6月号のこのコラムで解説した。昨年末から今年のはじめにかけて、ヨーロッパの政治情勢の変化によってEフュエルはより可能性のあるものになった。つまり、化石燃料が禁止になった後も、慣れ親しんだ内燃機関のバイクに乗り続けられそうになってきたのである。

 Eフュエルは、製造に水力、風力、太陽光などの再生可能エネルギーで発電する膨大な電力が必要だ。しかし最大の長所は、原料が水と空気から抽出される水素と二酸化炭素なので(工業生産で発生した二酸化炭素も原料になる)、Eフュエルが燃焼すると最終的にカーボンニュートラルになることだ。

 欠点は、現在の技術では産業的スケールでの量産が難しいことだ。したがって、製品の価格はまだ驚くほど高い。これは今後の投資と技術開発で解決するだろうが、しかし合成燃料はいぜんとして炭化水素なので、硫黄やベンゼンが含まれていないとはいえ、燃やせば化石燃料と同じように有毒物質が発生して空気を汚染する。一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物などの汚染物質は、クルマではユーロ6、バイクではユーロ5(クルマのユーロ6とほぼ同等)で排出の削減が実現しており、2025年にはユーロ7が待っているが(バイクのユーロ6の実施はまだ決まっていない)、それでも排出がゼロになるわけではない。

バッテリー式電動

クルマでの採用が成功しているおかげで、多くのバイクメーカーが電動バイク市場に参入した。成功しているメーカーもあればそうでないメーカーもあるが、現在の電動バイク市場では、アメリカのゼロ、イタリアのエネルジカ、イギリスのメイヴィング、スウェーデンのCAKE、中国のスーパーソコなどが、新しいメーカーとして注目されシェアを伸ばしている。また、ハーレーダヴィッドソン、BMW、トライアンフなどの大手メーカも電動バイクの開発を進めている。

 BEVの長所は、なんといっても走行中のテールパイプ排出がゼロであることだ。しかし、電動バイクには多くのネガティブな要素がある。エネルギー密度とパッケージングの妥協、短い航続距離、重量、長い充電時間、充電インフラの不足、高価格、そして多くのバイクライダーにソウルがないとして嫌われるフィーリングの欠如だ。さらに、電力を供給するバッテリーは多くの有害物質を使って作られており、その原料の採掘が人道的でないことも批判されている。また、原料の調達から廃車/リサイクルまでのライフサイクルで生じるカーボンフットプリントが内燃機関よりも多いことが明らかになり、以前ほど旗色はよくない。

水素(ハイドロジェン)

水素には2種類の使い方があり、両方とも排出はゼロカーボンだ。ひとつは、ガソリンのかわりに水素ガスを内燃機関で燃やす方法。もうひとつは燃料電池で発電して、電動モーターを回す方法だ。 燃料電池は、総合的な排出のクリーンさという点ではもっとも好ましい。というのも排出物は水だけだからである。また、燃料電池は有害・有毒物質を使わないので、同じ電動でも製造時に環境や健康に関して疑わしい物質を使うバッテリーに対して決定的な利点がある。

一方、燃料と空気を直接的に熱エネルギーに転換する水素パワーの内燃機関は、従来のガソリンエンジンと同様の技術や素材が使えるので、製造コストを低く抑えられる。また、燃料電池に必要なほど純度の高い水素を使わなくてもよい。

 だがバイクに水素を使うには車載での貯蔵容積に問題がある。また、カーボンゼロにかなった製造方法の「グリーン水素」は水を電気分解して作らなければならないが、それには再生可能エネルギーによる電力でないと意味をなさない。また、内燃機関ではいぜんとしてNOXのような有毒汚染物質を排出する。

 クルマやバイクのネットゼロ排出の方法が、一時は電動化しかないように見えたことを考えると、選択肢が増えることは魅力的だ。

次回はBEVと水素のふたつのオプションの実際を解説する。

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