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なるほど! 世界のバイク人(Vol.150)

世界中で続く燃料高騰 複雑な原油供給問題

COVID-19のパンデミックは収まらず
宗教や民族紛争ではない先進国の侵攻
現代社会の基盤を揺るがす原油価格高騰
想像を超える災厄を脱出できるのだろうか

さまざまな課題を突き付けられた
人類は乗り越えて行けるのか?

 もし2020年代にタイトルをつけるとしたら、「災厄の10年」は有力な候補のひとつになるだろう。爆発的なパンデミックの勢いが静まる方向に向かうように見えたと思ったら、また感染者数が増えだしたCOVID-19は改めて言うまでもない。

その次の災厄はモンキーポックス(サル痘)という耳慣れない感染症のブレイクアウトだ。

 そしてこれらに追い打ちをかけるのは、かつて例を見ないほどのガソリン価格の高騰である。ガソリンやディーゼルの値段は私たちの生活に直結しているので、これは保健衛生上の問題よりも深刻だと考える人もいる。

20年代が始まってまだ3年もたっていないのに、これでは先が思いやられるというものだ。

 ガソリンの高騰は世界的な現象である。7月13日の時点で、日本のレギュラーガソリン(90RON)の価格は、政府の補助金によって1リッター168.70円にとどまっているそうだが、世界的に見るとこれは安い。仮に補助金がなくなって200円を突破しても、まだ安い。

というのもイギリスでは、レギュラーガソリン( 95 RON)の値段がリッター1.91ポンド、日本円に換算すると311円だからだ。つまり、今や典型的なファミリーカーを満タンにするには、100ポンド、1万7千円近くが必要になる。

 ヨーロッパでも同様だが、中でも1番高いノルウェーでは1リッターが2.40ユーロ、換算すると329円である。

その他の国はそこまで高くないが、それでもフランスの1.98ユーロ(272円)、イタリア2.03ユーロ(279円)、ドイツの1.83ユーロ(251円)、スペインの2.04ユーロ(280円)などは、むしろ安い方だ。

 なぜガソリン(とそれ以上にディーゼルも)がこんなに高いのだろう。最大の理由は、ガソリンやディーゼルを作るのに使われる原油の価格の急上昇だ。

原油価格は、COVID-19のパンデミックが始まったころがもっとも安かった。ビジネスの多くが一時的に閉鎖してエネルギー需要が激減したからだ。

その後、生活が平常に戻るにつれてエネルギー需要が復活し、供給がそれに追いつかずに価格が上昇したのである。


 さらにヨーロッパの場合、サウジアラビアに次ぐオイルと天然ガスの最大の生産国であるロシアが、ウクライナへの大規模な侵攻を始める前から、燃料の価格が上昇していた。

ロシアの侵攻はそれを悪化させ、国際的な制裁が始まってからは石油供給に関する著しい混乱の可能性も高まった。

また、制裁そのものは主に経済と金融に対してだが、ロシアはそのしっぺ返しとしてヨーロッパへの石油輸出を大幅に減らすことも可能だ。

 そして、ガソリンの価格を押し上げているもうひとつの要素は、ロシアからの輸出が減った場合に、それを補うだけの原油増産能力をサウジアラビアに期待できないことだ。

専門家によると、ОPECは、ロックダウンの制限が緩められた後の原油需要のリバウンドに対する目標達成に、すでに困難を抱えているという。

 また、近年の比較的安かったバレル価格によって、アフリカや南米では新しい油井の採掘計画が見合わせられていることも問題だ。

現在の高いバレル価格が新しい油田の開発を促すとしても、新しい油井が市場に効果を与えるほどの量を産出するようになるには何年もかかることがある。

つまり、現在のガソリンの高騰は、ウクライナの危機のせいだという単純な問題ではないのだ。

 最後にイギリスがとくに高いのは、原油の取引がすべてアメリカドルで決済されるからだ。ドルに対して弱いポンドが、イギリスのガソリンをいっそう高価にしている。

 日本と比べると2倍に近いイギリスのガソリン価格は、あらゆる生産活動のコストを押し上げて物価全体の上昇を加速させている。

消費者への直接の影響はもちろんガソリン代で、日常生活にクルマが欠かせない多くの人々は、とりあえず必要な量だけを給油するなどの対処をしながら、これを受容せざるを得ない。

しかも時は夏、人々がレジャー活動にもっとも勤しむ季節なので、ガソリンの需要が落ち込む気配はそれほどない。

だが、ホリデーシーズンが終わって人々が財布の中身をのぞいたときに、現在の購買力が維持されるかどうかは疑問だ。
 日本はもともとガソリンの値段がヨーロッパよりも安いので、いくらぐらいになると、イギリスの「リッター311円」と同レベルのインパクトになるのか分からない。

それに、国民1人あたりの経済力も、両国の法定最低賃金を考えると異なるから(最低時給は日本が全国平均で930円、イギリスは23歳以上が9ポンド50ペンス=約1600円)、単純に価格だけでは比べられない。

 いずれにしてもバイクなら、仮にR 1250GSを満タンにしたとしても、それほどのショックはないかもしれない。

しかし、この価格上昇がいつになったら和らぐのか誰にも見当がつかないし、実際に元に戻る可能性があるのかどうかもわからない。

 今はスカイロケット並みのガソリンの値段が頭痛の種でも(食品の価格はすでに大幅に上がっている)、10月に入って暖房が必要になれば、すでに信じられないほど値上がりしているガスと電気の料金が、暖房をする金銭的余裕のない人々の数を昨年の冬以上に深刻にするのが目に見えている。

尽きることのない災厄が終わる日は、来るのだろうか。

BikeJIN2022年9月号 Vol.235掲載

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