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【第3回 】アウトドアMONOローグ「ランタン」

BikeJIN2022年8月号(Vol.234)掲載

都会生活者だけでなく、田舎に住む人でも
今の日本に生きる人は「明るい夜」に慣れすぎている
週末を外して、人の少ないキャンプ場へでも行ってみるといい
夜がどれほど暗いものなのか、よく分かるだろう
そして慣れてくると、その「暗さ」が愛おしくなってくる

 黒澤明監督の映画に「夢」という作品がある。桜吹雪の中で雛人形が舞う美しい話や、世紀末的なホラーストーリーなど、さまざまな8つの話がオムニバス形式で語られていく。その最終話「水車のある村」という話が僕は好きだ。バイカモが揺れる美しい川のある架空の村が舞台だ。近代技術を拒んだその村に住む笠智衆扮する老人の「夜は暗いからいい。明るすぎる夜なんか、いらない」という言葉がとくにいい。そう、本来夜は暗いものであり、夜は暗いからいいのである。

 雰囲気重視のレストランやバーでは夕方以降、照明の明るさを落としてテーブルにキャンドルを配する。すべてのものに影ができ、人の顔も昼間とは違って見える。少しくらい近づいても気にされないし、それどころか近づきたい、寄り添いたいと思わせる。これが大事だ。煌々と明るい居酒屋ではこうはいかない。

 キャンプで人気の焚き火にしても暗いからこそ、あの炎や火の粉が美しく見えるワケで、明るい蛍光灯の下でやっても魅力は半分以下だ。オートキャンプでは、ランタンも大きなものを持って行きがちだ。しかし、昼間のようにあたりを照らすガスやガソリンのランタンは、言ってしまえば「無粋」である。

コールマンの200A、シングルマントルの赤いガソリンランタンは僕も大好きな道具ではあるけれど、あれでさえ明る過ぎると僕は思っていて、半分以下の明るさで使っている。キャンプツーリングで僕の好みはソーラーチャージ式の折りたたみ式LEDランタンとキャンドルランタンだ。折りたたみ式のLEDランタンは携帯性に優れて、昼間お日様に当てておけば寝るまでの間十分持つし、なんと言ってもテントの中でも安心して使えるのがいい。LEDは当初青白い光のタイプしかなかったのだが、最近は温かみのある光のタイプ(電球色)もあるのでうれしい。

キャンドルランタンではUCO(ユーコ)というブランドのものが有名だ。専用キャンドルを使用して1本で約9時間の使用が可能。バネの力でロウソクが溶けた分だけ押し上げられてくるシステムも秀逸だ。タブキャンドル(ティンキャンドル)は燃焼時間は3時間程度だが早寝する人なら十分だろう。

 話は変わるが、山岳映画などで、テントの中でガスランタンを使っているシーンがあるけれど、あれは絶対にやめた方がいい。高い確率で一酸化炭素中毒で死ぬことになる。僕も大好きでよく使っていたキャンプ場で、以前この事故があり、カップルが亡くなっている。その日は雨と風で、フライシートがテント本体に張り付いて、通気性がまったくない状態になっていたのも原因のひとつであったらしい。

 しかし、たとえフライシートと本体の間にしっかり空間があり、通気性も確保された状態であったとしても、狭いテントの中ではガス機器による一酸化炭素中毒はすぐに起きる。

警報装置を置いて実験をしたこともあるが、5分とたたずにアラームが鳴った。

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