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[Thinking Time]①三ない運動

*BikeJIN vol.212(2020年10月号)より抜粋

バイクに乗る者ならば、一度は聞いたことがあるだろう「三ない運動」
バイクの免許を取らせない・バイクに乗せない・バイクを買わせない
バイク好きからすると、この上なく悲しい運動であり、
この運動を理由にバイクに乗ることを諦めた若者がどれほどいただろうか
今、この「三ない運動」が少しずつ変化を見せている

 

「三ない運動」の始まり

日本自動車工業会による埼玉県の三ない運動見直しの記録によると、「三ない運動」の目的は、二輪車による交通事故から高校生の命を守ることと、暴走族への加入など非行を防ぐ狙いがあった。

昭和 55 年当時、埼玉県内での高校生の二輪車事故による死傷者数は年間 1,557 人にも達し、緊急的かつ強制力のある二輪車指導が求められる状況にあった。「三ない運動」の推進により、同県の高校生の二輪車事故による負傷者数は大幅に減少し、死者数に関しても平成 8 年以降は1桁台に抑えられている。また暴走族による反社会行為は、全国的にみて終息への一途をたどっており、こうした趨勢をつくってきた要因の一つが「三ない運動」の効果であったと考えられる。

埼玉県教委の指導主事は、「学校現場では生徒をバイクに乗せないのが当たり前であって、免許取得の禁止を疑うことなどありませんでした」と振り返る。「三ない運動」は、長年にわたって根強く浸透していたもので、生徒指導の立場からは「見直そう」という発想が出てくることのない基本的な原則であった。

三ない運動撤廃

「三ない運動」が始まった当初から、本田技研工業の創業者である本田宗一郎は、著書『私の手が語る』にて「教育の名の下に高校生からバイクを取り上げるのではなく、バイクに乗る際のルールや危険性を十分に教えるのが、学校教育ではないのか」として、三ない運動を批判していた。

かつて「高校生にバイクは不要」というチラシを配布していた埼玉県は、松澤正議員による一般質問(2016年9月定例会)を受け、教育委員会主催で「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する検討委員会」を設置。1年以上の議論を経て指導要項を改定し、保護者の同意や学校への届け出といった条件付きで三ない運動を撤廃した。見直しに関する情報は、公益財団法人 日本自動車教育復興財団による、「Traffi-Cation」第50号にも特集されている。

以下は、検証を行う理由として挙げられた、社会情勢の変化である。

①現行指導要項の施行から 35 年が経過し、道路交通法の改正、道路の整備向上など交通環境が大きく変化しており、交通事故は大幅に減少した。
②暴走行為を行う青少年が大幅に減少した。
③平成 28 年 6 月から、選挙権年齢が 18 歳に引き下がった。
⇒高校生が自ら考えて判断する自主・自律の教育が強く求められている。
④関東では埼玉県だけが「三ない運動」を実施しており、全国的にも「三ない運動」を推進している教育委員会は少ない状況になった。

高校生の自動二輪車等の交通安全に関する検討委員会

禁止するのではなく、「乗せて教える」教育へ

埼玉県は、三ない運動をやめ、安全運転講習を開催するようになってから2年目の夏を迎えている。かつては三ない運動の急先鋒とも言われていた埼玉県だが、今では教育委員会が先頭に立ち、子供たちに「乗せて教える」教育を施しており、さながら交通安全教育先進県への道を歩んでいる。

三ない運動は、1982年に全国高等学校PTA連合会により決議採択され、全国各地の高校がPTAと協調し推進。その過程において教育方針として学習指導要項に取り入れた自治体も多い。

今回、埼玉県では「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する検討委員会」において、三ない運動をやめるか続けるかではなく、「高校生が生涯にわたって事故の当事者とならないために必要なことは何なのか(稲垣具志会長)」という視点に立ち、情報や意見を集めて整理しゼロベースで話し合われた。

その中で「当事者である生徒の声を聞くべきである」と行われたのが高校生を対象とした「埼玉県高校生の原付・自動二輪車に関する意識調査」だ。「今の高校生はバイクについてどう考えているのか?」を知るための調査だが、調査当時(2017年)はまだ三ない運動が行われていたため(秩父エリア等を除く)、回答した生徒自身は、バイクの免許を取る、実際に乗るということに関しての現実感は希薄で、フラットな高校生の考えとなっている。

埼玉県内でも中山間地の秩父エリアでは特例としてバイク通学が認められてきた。
埼玉県立秩父農工科学高等学校の通学風景

次の記事では、「埼玉県高校生の原付・自動二輪車に関する意識調査」の結果についてお話しよう。

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Writer 田中淳磨(輪)さん

二輪専門誌編集長を務めた後、二輪大手販売店、官庁系コンサル事務所への勤務を経て独立。三ない運動、駐車問題など二輪車利用環境問題のほか若年層施策、EV利活用、地域活性化にも取り組む
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