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なるほど!世界のバイク人「道路の穴『ポットホール』を知っているか?」

ポットホールは英語で道路の穴のことだ
ひび割れに入った水が凍って膨張して起こる
冬になると現れる風物詩的な現象だ
補修方法や予算は大きな課題なのだ

ビートルズも歌った道路の穴、バイクにはサイレントキラー

 1967年、ビートルズの曲「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」でジョン・レノンは、ランカシァ県ブラックバーンには4000個の穴があるというニュースを読んだ、と歌った。このニュースは、地元自治体の調査をタブロイド紙のデイリーメールが記事にしたもので、「穴」は道路が傷んでできた穴だった。そして同紙は、もしブラックバーンの数字が典型的なものだとしたら、ロンドンの道路には30万個の穴があると推計した。

 英語で道路の穴のことを、縦に開いた穴という意味のポットホールという。ジョンが読んだ新聞が1月17日付けだったことからも分かるが、ポットホールは冬になると決まって取り上げられる話題だ。というより、ポットホールは冬になると現れる現象で、市街地だろうがオープンロードだろうがモーターウェイだろうが、舗装道路には必ず出現する。

 発生のメカニズムは単純だ。道路の表面にできた小さなひび割れ/クラックに、雨水や晩秋から初冬にかけて多く起きる洪水が浸み込む。夜間に気温が氷点近くまで下がるとこの水が凍って硬い氷となり、膨張してクラックを成長させる。日中に路面が暖められて氷が溶けると、このクラックの下に空洞ができる。そして、この上を走る車両の重さで舗装が崩れ落ちて、ポットホールになるというわけだ。冬の間はこのプロセスが繰り返されてポットホールが成長し、さらに周辺のもろくなった舗装が通過する車輪の衝撃でさらに崩れ、穴はどんどん大きく深くなる。

 深さが5㎝以上でディナー皿ほどの大きさのポットホールを、クルマがヒットするとどうなるだろう。市街地のスピードでは大きな衝撃で驚くだけかもしれないが、モーターウェイを120㎞/hで走行中にまともにポットホールに嵌ると、サスペンションを壊す可能性がある。極端なロープロファイルタイヤを履いている場合はホイールのリムも曲がってしまう。実際、大きな町にはアルミホイールの修理業者がいくつもあり、どこも繁盛している。イギリスのアスファルト産業連盟によると、道路の不具合に起因する昨年の損害賠償額は約900万ポンド(約17億円)に上ったが、そのうちの78%はポットホールに関連していたそうだ。

 ポットホールによる損害は、クルマだとほとんどの場合は高額な修理代がかかるダメージで終わるが、バイクや自転車ではそれ以上だ。走行中に道路の穴でクラッシュすれば、深刻な肉体的損傷や死に至る事故さえも起こりうる。穴を避けるためのラインの変更はクルマよりも機敏かもしれないが、ブラインドコーナーで目の前にポットホールが現れたら、なかなかそうはいかない。

 ポットホールは存在自体が違法である。なぜなら、道路の管理者は交通のための道路を安全な状態に保たなければならないと、法律で定められているからだ。だから、これまでは春になるとパッチ補修で穴が埋められていたが、しかし最近のイギリスは、夏になってもポットホールが放置されている。自治体に道路の補修をする財源がないのだ。

 しかし、補修をしてもポットホールは戻ってくる。イギリスの典型的な補修は、たいていの場合、アスファルトなどの瀝青混合物で穴を埋める対症療法だからだ。根本的な治癒には路床まで掘り下げて舗装し直さなければならないが、それにはかなりの費用がかかる。

 ポットホールはイギリスだけの問題ではない。道路に水分があって気温が零度近くまで下がる国なら、つまり南ヨーロッパ以外なら、どこにでも起きることだ。その修理方法は、私が見聞した範囲ではドイツがもっとも徹底しているように見える。ドイツでは多くの場合、パッチ補修で穴を埋めるのではなく、穴の周辺のかなりの面積を基盤まで掘り返して舗装をやり直しているようだ。

 しかも、以前の舗装とやり直した部分との境目が完璧である。一般道を制限速度の100㎞/hで走っても、その継ぎ目がほとんど感じられないほど滑らかなのだ。もちろんこれは、道路のランクや補修後の交通量にもよるだろうが、しかしイギリスのように穴にアスファルト入りの砂利を詰めてコンパクターでならすだけ(だから1年もたつとまた穴が開く)というのとは、根本的に違う。これに関する限りは、ドイツでは税金が正しく使われているように思える。

 ポットホールができないような方法はないのだろうか。一部の人はコンクリートで舗装したり穴埋めしたりすれば良いという。確かにコンクリートは水をわずかしか吸収しないし、アスファルト舗装よりも丈夫で耐久性がある。だからヒトラーは、アウトバーンをコンクリートで作ったのだ。しかし、コンクリートの路面は荒い。東西ドイツが統合された後、アスファルト舗装に改良する経済的余裕がなかった旧東ドイツに残っていた、オリジナルのコンクリート舗装のアウトバーンを走ったことがあるが、乗り心地があまりにも悪いことに驚いた。それに、コンクリート舗装は工事のコストが高く、完成までに時間がかかる。

 期待が持てそうなのは、イギリス政府機関のナショナル・ハイウェイズが行っている、新素材のグラフィンを舗装路面に使って道路の寿命を延ばすテストだ。グラフィンは炭素原子が結合したシート状の物質で、世界最強の引っ張り強度を持ちダイヤモンドよりも固いとされている。グラフィンを使ってポットホールができる可能性を減らせれば、イギリスの道路の安全性はかなり改善されるだろう。

 ポットホールの多さで悪名を馳せるイギリスだが、ヨーロッパにはイギリスよりも道路にたくさんの穴が開いている小さな国がある。それはマルタだ。マルタ島は温暖な地中海の島だから、凍結でできたポットホールではない。この島の道は、昔から穴だらけなのだ。

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