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【Thinking Time】⑦自治体と駐車場事業者から見るバイク駐車場の難しさ

*BikeJIN vol.217(2021年3月号)より抜粋


駐車場法が改正された2006年前後から、繁華街や駅前などの路上駐車対策の一環として、
自治体と民間駐車場事業者が協定を結ぶなどしてバイク駐車場も整備が加速した時期があった。
しかし、今ではそれも停滞し、赤字で苦しむ事業者も出るほどに採算性の悪いビジネスとなってしまった。

各自治体に託された附置義務条例の制定

「自動二輪車駐車場の整備は、地方公共団体(以降、自治体)の取組によるところが大きい」とコメントしたのは国土交通省(以降、国交省)だ。駐車場法を所管する国交省は、2006年の駐車場法改正以降、「バイクも駐車場に停められるように、法律が整備されたのだから」と全国の自治体に附置義務条例の制定や改正を促した。駐車場の設置にはその土地の実情にあった整備が必要なので、その判断を含めた実務的な役割は各市区町村にまかされているからだ。
 

駐車場の附置義務とは、一定規模以上の商業施設や事務所、マンション等には、その敷地面積に応じて駐車場を作ることを国が課したものだ。自治体が事業者等に「駐車場法が改正されたのだから、四輪だけでなく二輪用も整備しなさい」と指導するためには、各自治体の附置義務駐車場整備に関する条例を制定または改正し、「二輪車も含めること」としなければならない。こうした附置義務駐車場条例の制定状況は、2007年2月の塩釜市から2020年1月施行の那覇市まで、13年でわずか10市に留まっている。
 

自工会が政令指定都市ほか全国69の自治体に向けたアンケート調査(2014年)の結果を見ても、自治体間の温度差は明確だ。「法改正後も新しい動きがない」「今後も駐車対策は不要」と返答している自治体が約4割もいる。自治体としては、放置駐車対策のメインはあくまでも自転車だった。
 
しかし、一度、附置義務条例にバイクが盛り込まれれば、駅前の再開発、商業施設の改築等のタイミングでバイク駐車場の設置が永続的に義務付けられる。長い目で見れば、附置義務条例の効果は大きく、街全体を変えていく効力を持っている。

温度差の大きい自治体と採算性が悪化した駐車場事業者
2006年に駐車場法が改正され、50㏄超の自動二輪車も駐車場に受け入れ可能となった。しかし、附置義務条例を制定した自治体は現状でわずか10市。その間、自動二輪車の違法駐車は減少したが、それは駐車場が足りていたからではない。バイクに乗らなくなった人が増えたからであり、民間駐車場事業者の経営も悪化した

東京都の事例

駐車場問題の本丸とも言える東京都の事例を見てみよう。自民党時代はオートバイ議連のメンバーでもあった小池都知事の下で施策は進んでいるが、附置義務駐車場の条例を制定・改正したという市区町村はない。上位規範となる都の都市計画等に基づき、駐車場整備に関わる条例やまちづくり計画等の中で駐車場の整備が行われてきた。
 特に、バイクの違法駐車が千数百台を超えるなどメディアでも大きく取り上げられた渋谷区では、民間駐車場事業者と協定を結ぶなどし、歩道上や公園の敷地内まで活用し、バイクを停められるよう急激な整備に取り組んだ。
 しかし、近年では利用者が減ってしまい、赤字となる駐車場も出ている。設置への初期投資は四輪駐車場とさして変わらないのに「利用料金は自転車並みでないと……」というバイク利用者の意識があり、売り上げがなかなか上がらないのだ。都(公社)や区が運営するバイク駐車場は「最初の1時間は無料」の所も多く、収益よりも利用促進を狙った料金設定が目立ち、民間事業者の経営を圧迫する所もある。
 

一方、利用者としては、「駐車場が満車だったらどうしよう」と考えるのが普通だ。特別な理由がなければ停められないリスクを冒してまでバイクで出かけることはない。バイクの利用が減るからバイク駐車場の利用も減る。当たり前の負のループだが、この現象を放置駐車対策の成功と捉え、「バイクの違法駐車問題はすでに解決した」と考えている自治体担当者が実際にいるのだから問題は根深い。
 

事業採算性が悪化してしまった民間駐車場事業者と「足りている」と勘違いしている自治体が負のループをもう一巻、大きなものとしてしまっている。
 
全国の自治体で附置義務条例の制定・改正がなかなか進まないのは、バイクの放置駐車対策が場当たり的なもの、すでに解決したものと考えられているからだ。緊急的な設置のみで永続的な駐車設備ができなければ、バイク利用者も定着しない。今後はEV活用など新たな視点も求められている。

JR新宿駅西口には歩道上に白線を引いて囲っただけの自転車等駐車場が数カ所ある。停められるのは年間契約を結んだ自転車と原付一種のみ、放置駐車対策として新宿区が緊急措置的に対応している。自転車等駐車器具の設置もないが区の整備条例計画に基づく

2004年、バイクの違法駐車が千数百台を超えていた渋谷区は、民間駐車場事業者と協定を結び、2年間で40カ所ものバイク駐車場を整備した。2006年の道路法改正以降は、暫定措置として駐輪用器具を用いての歩道上への整備も認められた。渋谷区は先駆者的存在だった

渋谷区は、立体都市公園制度を活用した複合商業施設「ミヤシタパーク」に2 カ所計99 台分を新設した

バイク通勤経験者の 小池都知事が推し進める 東京都の施策

キャスター時代に原付スクーターでテレビ局へ通勤していた小池都知事はバイク駐車場の整備を促進。2018年には約900台分の駐車場整備を開発計画に盛り込んだ。また、都内オートバイ駐車場MAPや都の駐車場検索サイトを周知するなど利用促進にも努めている

最新の「都内オートバイ駐車場MAP」はこちら

ZEV(Zero Emission Vehicle)化を見据えた充電可能な駐車場も
東京都の関連団体である東京都道路整備保全公社によるバイク駐車場の整備拡充も行われている。昨年、公社は民間バイク駐車場設置への助成条件をバイク5台以上から2台以上で助成可能と緩和した。これにより、既存の四輪スペース1台分を改造しバイク2台分として活用することに期待している。対象は23 区内だが、ぜひ都下にも拡充してほしい。

公社のバイク駐車場には電動バイクの充電ができる所もある。電動バイクの駐車規制緩和に期待したい

全国の自治体はバイク駐車場について どう考えていたのか

駐車場法改正以降に自治体はどう対応したのか。担当を決めた、整備予算を付けた、需要を調査したなど新しい動きがあったのは約3割に留まった。今後については、「駐車対策は不要」と答えた自治体が約4割に上った

法改正後の自治体の対応変化(2014年10月時点)

今後の取り組みについての見通し(2014年10月時点)

条例により附置義務を制定する自治体はまだ少ない
2006年の駐車場法改正以降、附置義務条例を制定または改正し、附置義務駐車場の中に自動二輪車駐車施設の設置を義務付けたのは10市だけだ。なお、附置義務の履行は新築・増改築・用途変更時が多いため条例ができてもバイク駐車場がすぐに増えるわけではない

Writer 田中淳磨(輪)さん

二輪専門誌編集長を務めた後、二輪大手販売店、官庁系コンサル事務所への勤務を経て独立。三ない運動、駐車問題など二輪車利用環境問題のほか若年層施策、EV利活用、地域活性化にも取り組む
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