3年間エンジンを当てなかったCRF、オーバーホールをどこまでやる?【セットアップ&メンテクリニック】

今回は2012年型CRF250Rを大切に乗り続けているオーナーが、オーバーホールのために愛車を持ち込まれたので、ヘッドカバーを開けて状態を確認してみた

PHOTO&TEXT/DIRTSPORTS

今回の題材となるマシンは、2012年型のCRF250R。オーナーはこのバイクを気に入っており、オイル交換など定期的なメンテナンスを欠かさず、丁寧に扱っている。レース参戦はほとんどなく、2~3週間に1度のペースで練習走行を行なっているため、傷み自体は非常に少ない。ただし、エンジンを最後に開けたのは3年前で、その際は腰上のみのオーバーホールだった。今回は腰下やクランクケース周りの交換について、k-crossの加藤店長に相談する形となった。

ピストンやバルブなど腰上は交換する前提として、問題はクランク周辺をどうするかだ。実際には耐用時間の2倍、つまり200時間ほど稼働しているため、交換した方が確実に安心ではある。ただ、オイル管理はしっかりされており、状態はおそらく悪くない。

加藤店長はこう語る。

「キャブレター仕様車のクランクは現在、4万5000円ほどに値上がりしていますが、2012年型(PGM-FI)であれば、まだ4万円を切る価格帯かと思います。今後も長く乗り続けるつもりであれば、新品に交換しておいて、外したクランクはオイルに漬けて保管しておくのが良いと思います。

まだ使えるとはいえ、ローラーベアリングやニードルローラーを保持しているカゴ状のケージ、左右のスラストワッシャーが少しずつ摩耗しているので、オーバーヒート気味の際に金属同士が接触して破損し、その破片がほかに悪影響を及ぼすリスクがあります」

壊れる兆候としては、エンジンオイルに赤みがかった銅の粉のようなものがマーブル状に混じること、そしてアクセルを開けているのに一瞬ガス欠のように息つきする症状が挙げられるという。

「これはクランクの下部にフリクションがかかり、抱きつき寸前になっている状態です。こうした兆候が出たら、すぐにプロに見せて、二次被害を防ぐべきです」と加藤店長は注意を促した。

今回のCRFは?

2週間に1回ほどの頻度で走行してきたCRF250R。エンジンを含めたマシンの状態は良好で、これまで定期的なオーバーホールを行ってきた。オーナーは「今後も大切に乗り続けていきたいマシン」と話す。

まずはシリンダーヘッドカバーを開け、カムやバルブなどの状態を確認する。「最初に確認するのはカムずれです(タイミングチェーンの伸びによるバルブタイミングのずれ)。今回は許容範囲内かなと思います。バルブクリアランスについても、正確な数値まではこの状態では測れませんが、許容範囲内に収まっているかどうかを確認します。少なくとも、エンジンの始動性に問題が出るようなクリアランスではありませんでした。カム自体も多少の跡は見られますが、交換するレベルではないと判断しています」

CRFに最適なエンジンオイルは?

ユニカム仕様のCRF250Rエンジンは、クランク室と駆動系が完全に分離されているため、オイルによるセッティングが可能だ。つまり、エンジンオイルについては他車のようにクラッチのフリクション維持を考慮する必要がなく、オイル選択の自由度が高い。

ホンダCRFの場合、ピストンリングの張力が他車に比べて低めに設定されているため、吹き抜けが起きやすい。逆にいえば、油膜がしっかり保たれていれば、シリンダーの寿命が長くなるのだと加藤店長は語る。

ただし注意したいのは、未燃焼ガスがクランクケース内に入り込み、オイルと混ざって希釈される「ダイリューション」が起こりやすい点だ。この現象が進むとオイルの性能が著しく低下するため、定期的なオイルチェックと交換が不可欠である。

かつてセキレーシングモトロマン時代にCRF専用オイルをニューテックと共同で開発した経緯もある。「コンプレックスエステル(添加剤)の精度が高く、バランスが良い状態でのオイル稼働時間が長いのがニューテックの5W-35や0W-20。エステルベースオイルのグレードがかなり高く、ユニカムCRFとは特に相性がよく、値段も抑えられています(1L2200円程度)。これを6時間走行毎くらいで交換するのがおすすめです」

このCRF250Rのオーナーが常用しているのは、ホンダ純正のG1オイル。

「G1の良いところは、値段がさほど高くない(定価ベースで1Lあたり約1400円)ことと、洗浄性能が格段に高いことです。廃油が非常に汚れているのは、スラッジをしっかりオイルに溶かし込んでいる証拠です。

ただし、ベースオイルとしての性能には限界があるので、ニューテックオイルを3回使い、4回目にG1を“フラッシング代わり”(1〜2時間走行後に廃棄)として使うのが良いと思います。このサイクルでエンジンの劣化を抑えることができますね」

バルブを新品と比較してみよう。本来は、端がやや丸まっているのだが、摩耗してすり減ってくると、ラッパのように反ったテーパー形状になってくる。

柔らかい部分が露出してしまうため、たとえシムの厚さでクリアランスを調整できたとしても、新品バルブに交換して調整する場合と比べて、寿命はどうしても短くなってしまう。

バルブクリアランスのチェックにて、インテーク(吸気)側のバルブは問題なし。エキゾースト(排気)側は規定値より減っており、「最近始動性が悪くなってきた」というオーナーの症状に合致している。ただし、減り方としては通常の範囲内で、十分に持ち堪えてきたと言える状態だった。

加藤店長は「バルブクリアランスは詰まるのが通常ですが、ごくまれに広がることもあります。その場合は重大なトラブルの可能性もあります。オーバーヒートで剛性が落ち、シートリングが下がってバルブが上に上がらず、隙間が開いてしまうケースです。大きなトラブルを起こす前のチェックが大切ですね」と話す。

また、クリアランスの設定については「私の場合、インテークもエキゾースト側もガバガバにして上限ギリギリにします。やや音は出ますが、低速でのオーバーラップ(両方のバルブが同時に開いている状態)の時間を短くすることで、回したときにクリアランスがあり、慣性を使ってよりしっかり開けることができます。低速から高速までトルクフルで、パンチのある特性を生みます」と話す。

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