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冬の風物詩・あんこう鍋なら大洗へ!

西がフグなら東を代表する鍋といえば「あんこう」。近所のスーパーで売っている鍋セットなんて論外!
あんこうの本場・大洗へ、寒風の中バイクを走らせれば、衝撃的な美味しさの鍋に出会えること必至なんです!!

近場のツーリングでも食だけは譲れません

ちょいと走りに出かけたい。
しかし天気予報を眺めていると「真冬並みの寒さ」なんてやっている。出鼻をくじかれるよな。

などと愚痴りつつ、思えばあえて寒風をおして、かじかむ手足に充足感を味わったりした若かりし頃。長距離を自走で貫き、自己満足に浸ったこともある。それは、それでいい。

でも、今日はいいや。ちょいと走って、旨いものを食って、サクッと帰ってこよう。ということで都内から近い港町・大洗を目指すことにした。それでもツーリングテーマが欲しいから、目的は名物のあんこう鍋。伊豆や房総でもよかったのだが、峠道はいらないし、アクアラインを越えるのが面倒くさかった……。

余分な贅肉をそぎ落とした、研ぎ澄まされた刃のようなプラン(怠惰なだけともいうけれど)

やはり都内からの近場で魚介と言えば大洗でしょう。思えば幾度か大洗港よりフェリーを駆って北海道を目指したりもした。だから大洗と聞くと何となく心が騒めく。でも、いいじゃないか。大洗港にたたずみ、ロングツーリングの気分に浸れば。海の向こうに思いを馳せれば。実際は何もしないにしても……。

何もしないのだから、今回はあえて観光地を巡ったりはしない。

袋田の滝や竜神大吊り橋は、もう知ってるからいいや。余分な贅肉をそぎ落とした、研ぎ澄まされた刃のようなプラン(怠惰なだけともいうけれど)で向かうのだ。

大洗は常磐道の起点から100キロ程度なので、早起きをする必要もない。昼飯時に間に合うように家を出れば十分である。陽も上ってくるだろうから寒さも緩むだろう。鍋を食ったらお土産でも買って、トットと帰れば、陽のあるうちに十分帰り着くことができる。

その後に、あんこう鍋の余韻を楽しみつつ、近所で一杯やればいい。

という胡乱(うろん)な計画で、日差しを待ってのんびりと出発し常磐道へ。思いのほか早く大洗に到着した。しかし、いくら都内から近いといっても、やはり海はいい。港町はいい。

■那珂湊おさかな市場

鮮魚店が軒を並べるおさかな市場。大洗きっての人気観光スポットである。ずらりと並んだ魚介類を見るのも楽しいが、その安さに思わず笑みがこぼれる

茨城県ひたちなか市湊本町19-8
TEL:029-273-0116
http://www.nakaminato-osakanaichiba.jp/

港を行き交う船を見る。カモメの声に空を見上げる。見上げたついでにランドマークたるマリンタワーも見る。お土産目当ての観光客で賑わう那珂湊の市場を散策する。なんだ、これだけで十分に旅情を味わえるではないか。しかし、鮮魚が安い。カレイやイカなど小さめの魚介は、一尾幾らなどと細かいことは言わない。みんなひと山幾らである。それも300円とか500円とか笑っちゃうくらいに安価である。よくTVの旅番組で紹介されるような人気の食事処が揃っている。観光客が押し寄せるはずである。

しかし、ここは眺めるだけ。なぜなら、もうすぐあんこう鍋の時間だから。これだけは、今回のショートトリップ中、唯一のこだわりポイントなのである。

那珂湊漁港付近を流してみる。太平洋を望む港の景色、行き交う船を眺めれば、それなりに旅情を味わえる。

お目当ての店「旬の味なかむら」

おもむろに予約したお目当ての店を目指す。地図で当たりをつけておいたのだが、これが結構分かりづらい。後で店主に聞いたのだが「スマホを見ながら来ても、店前を素通りする」とのこと。なるほど納得である。

何しろ目指す「なかむら」は他に店舗なども何もない、普通の住宅街の一角にある。しかも外観はごく普通の民家。これじゃ素通りするよな。

しかし、よくよく見れば玄関に暖簾がかかり屋号も出ている。分かってしまえば、何かこう隠れ家レストランっぽくて、むしろ料理への期待が膨らむのである。

ちなみに住宅街の入り口に看板を立てる計画があるそうなので、読者の皆さんが赴くころには、多少分かりやすくなっているものと思われる。

滋味溢れるあんこうのすべてを頂きます

そして、あんこう鍋。いや、来てよかった。これを目的にして正解だった。むしろ、これだけのために来るべきである、と言いたくなるほどの満足の味。口でほろりとほどける白身の部分が潔く、皮のゼラチン質が舌にまとわりつく感じが滋味深い。この汁に浸かったおかげで白菜などの野菜の甘みが引き出される。もう何の文句もなく箸が進むのである。

締めの雑炊ですか?絶品です。
「今日は雑炊しかないよ」と言われたとしても、文句はありません。
あんこう鍋が旨いことは誰でも知っている。知っていてハードルが上がっているはずなのに、それでも旨いと言わせる。やるな「なかむら」。この秘伝の風味に関してはぜひとも追求しておきたい。そこで店主に伺ってみたところ、それは「丁寧な下処理と、事前の準備、そしてダシ」というシンプルな回答。簡素な回答であるが、実際にはかなりの手間暇がかかっている。

「あんこうは、いわゆる吊るし切りにするのは簡単。むしろそのあとの下処理が大切」とのこと。

丁寧にぬめりなどを取り雑味が出ないようにするのが肝心だとか。さらには白身とゼラチン質など、部位によって煮込み時間が違うのである。よってあらかじめ部位ごとに下煮をしておき、客に出す直前に土鍋で合わせるのだ。

ダシにもこだわる。昆布は北海道産の良いものを築地より取り寄せ、カツオ節は最高級の本枯れ節。その贅沢なダシにあん肝を溶け込ませる。味付けは味噌、醤油、酒、ミリンなど。そこに、あんこうからあふれ出した豊かな滋味が加わる。旨くないわけがない。

そして忘れてはならないのが、鍋とは別に供されたあん肝、一片を口に放り込めばトロリととろけ、口いっぱいに甘い風味が広がる。もはや感動的ですらある。街場で食っているあん肝とは全くの別物である。店主に言わせると都内の居酒屋などで食べているあん肝は「あれはニセモノ」。おっしゃる通りでございます。

誰がなんと言おうと絶品なのがあん肝ポン酢。鮮度と手入れがいいと、ここまで旨くなるものかと感心してしまう。実は昆布とカツオ節で贅沢にダシをとった自家製のポン酢にもこだわりがある

我々ライダーには、さらなる特典がある

もうこれだけでも赴く価値があるのだが、さらには我々ライダーには、さらなる特典がある。実は店主がバイク乗りなのである。しかも現役。愛車のBMW1200GTを撮影させて欲しいとお願いしたのだが、砂利の駐車場をぐるりと回って指定の位置にピタリと止めてくれた。決してお飾りでバイクを所有しているわけではない。「ああ、乗ってるな」というのが分かる腕前である。

よってバイクで訪れる場合、予約を入れておけば、クルマは道向こうのジャリの駐車場に追いやって、店前の駐車スペースに「バイク専用」の看板を立ててくれるとのこと。「バイクの方には締めの雑炊をボリュームアップさせて頂いてます」という嬉しいサービスも用意してくれている。

■旬の味なかむら

創業25年。住宅地に佇む民家風の店舗。看板のあんこう鍋はもちろん、気楽に楽しめる定食や常陸牛を使った料理、手打ち蕎麦などもある。鍋は要予約。ライダー歓迎のお店

茨城県東茨城郡大洗町五反田232
TEL:029-266-2127
営業時間:11:30 ~ 14:00、17:00 ~ 23:00
定休日:月曜

「来てよかった」と、腹ごなしに浜辺に佇んだ。海岸道路で海の景色を楽しみつつ、陽の高いうちに大洗を後にしたのであった。

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