[キャンプで”火”を使いこなせ!]LIGHT MY FIRE「オリンピックの火」
今回は時事ネタでパリオリンピックの話
聖火リレートーチの燃焼部分とガスボンベ
これを担当したのがアウトドア界では
SOTOの名で知られる新富士バーナーである
アウトドア用品で培った成果が
世界の晴れ舞台で輝くこととなったのだ
BikeJIN vol.260 2024年10月号参照
パリオリンピックも閉幕して、やっと普段の生活が戻ってきた感じがする。ブレイクダンスが「ブレイキン」の名で競技種目になったり、閉会式ではトム・クルーズが会場の天井からワイヤーで降りてきてバイクに乗ったり、話題にこと欠かないオリンピックであったが、アウトドアライターである僕にとってパリオリンピック最大の話題は聖火リレートーチであった。
新聞報道を含めて様々なニュースでも取り上げられたからご存知の人も多いと思うのだが、あのトーチの心臓部はSOTOブランドでも知られる日本のメーカー「新富士バーナー」が担当した。SOTOは今では燃焼器具だけでなくクッカーやテントなども生産していてアウトドア好きなら、知らない人はいないブランドネームになっている。
聖火リレートーチについては、2022年8月頃に「パリ五輪用聖火リレートーチの燃焼部とガスボンベの製造委託に関する入札を実施する予定だが、興味はあるか?」というメールがフランスからいきなり来て、最初は迷惑メールかとも思ったらしいが、それがきっかけだったという。
「1時間に50㎜の雨、時速60㎞の突風でも消えない」などという過酷なオーダーが課せられ、実質の製作期間は1年を切っていたが「当社のアウトドアなどの製品や東京五輪のトーチ燃焼部の性能的な実績。また、短期間で設計から納品までこぎつけられる見込みが高いと感じていただけたのではないかと思います」と担当の山本氏は語る。実際、開会式の日、パリは雨だったが、ちゃんとその役目を果たしていた。
苦労した点はデザイナーから来た炎の形のオーダーで「静止時は自然な炎が立ち上がり、走っている時など風を受けている時は旗のように炎がたなびくようにしてほしい」というもの。側面の縦に細長く開けられたスリットからも炎が出るように設計し、要望にみごと対応してみせた。
僕もこれまで多くのアウトドア製品を使ってきたが、新富士バーナーの製品は一言でいうと「使いやすさを考えて、心底丁寧に作られている」ように思う。愛知の本社に取材にうかがったことがあるが、そのモノ作りの姿勢は「真摯」の一言に尽きる気がする。 コールマン製品のようなポップなイメージでもなく、スベア123Rをはじめとするオプティマス製品のような渋さでもない。MSR製品のように「ちょっとハードな作りだけど、それが持ち味」ともまた違ったメイド・イン・ジャパンならではの真面目さに溢れているのだ。
ふだん使っているアウトドア用ストーブやランタンの技術がそのままオリンピックの舞台で使われたということは特筆すべきことであると思うし、それが日本の大好きなアウトドアメーカーであったことが、僕にとってはとてもうれしいことだったのだ。「真面目に仕事をしていれば、必ず誰かが見ていて声をかけてくれる」というのを再確認した夏だった。
❶外観と内部構造。左端はガスボンベ。外側のデザインはマチュー・ルアヌール氏、筐体製造はアルセロール・ミッタル社、燃焼部及びガスボンベの開発・製造を新富士バーナーが行なった。
❷燃焼部のアップ。ガスと空気を混ぜ合わせる混合管の穴はシングルバーナーでもお馴染み。同社のマイクロレギュレーターシステムが組み込まれ、外気温や連続使用によるボンベの冷えに影響されない。アウトドア道具で培われた技術がそのまま応用されている。
❸プラチナのメッシュはSOTOのプラチナランタンにも使用されている技術。これが種火になっていて雨や風に強い。
❹新富士バーナーは、元々は配管溶接用の工業用トーチや草焼きバーナーの専門メーカーだ。
❺製品にはエベレストなどの過酷な状況でフィールドテストを行なっているものもある