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なるほど!世界のバイク人「自動変速バイクの登場でライダーはどう変わる?クラッチレスシステムの利点」

エンジンの力を変換して車輪を回すために
ギヤボックスとクラッチは欠かせない部品
大切な機能部品だが楽しみも提供してきた
自動変速機構はバイクの未来なのか

※BikeJIN vol.262 2024年12月号参照

便利な自動変速バイクをユーザーが求め始めた?

自動変速、セミオートマチック、クラッチレス、フィンガーシフト、あなたが思いつく名前のなんでもいい。クラッチを使わずに発進したり、シフトペダルに触れずにギヤチェンジしたり、あるいはギヤチェンジそのものもしないですむ機構を持つバイクが、この数年で立て続けにさまざまなメーカーから登場した。

クラッチ操作とギヤチェンジを省略するバイクの最初は、1976年にホンダがアメリカで発売したCB750Aエアラと、その2年後に続いたCB/CM400Aだった。トルクコンバーターとハイとローの2速だけのギヤを組み合わせたホンダマチックを装備したバイクは、しかし商業的にはそれほど成功せず、1981年のCM400Aを最後にラインナップから消えて、いわゆるオートマチックバイクは市場から姿を消した。

だが、メーカーは諦めたわけでなかった。時間を早送りして2006年、30年前のホンダの自動車的なオートマチックから離れた変速機構を、ヤマハがYCCS/ヤマハ・チップ・コントロール・シフトとして開発し、FJR1300AE/ASに搭載した。そして翌年には、アプリリアがCVTと7速シーケンシャルギヤボックスを備えたマーナ850を発売し、2008年にはホンダからCVT/6速のDN-01が登場した。

やがてホンダは開発の方向を変え、2010年にDCT/デュアル・クラッチ・トランスミッション付きのNC700を発表し、2016年にはアフリカツインが、2018年にはゴールドウイングがDCTを搭載した。そして今年、クラッチの作動だけを自動化したEクラッチが、CB650Rに搭載された。

一方、ヤマハも今年、YCCSを発展させたY-AMT/ヤマハ・オートメイテッド・マニュアル・トランスミッションを搭載したMT-09を発表した。そしてカワサキも、独自のAMTを装備したニンジャ7ハイブリッドを用意している。

海外のメーカーも後れをとってはいない。最初は2020年にSCS/スマート・クラッチ・システムを開発したMVアグスタだった。アメリカのリクルスが開発したオフロード用アフターマーケット遠心クラッチがベースのこのシステムは、ブルターレ800とドラッグスター800を経て、現在はツーリズモヴェローチェに使われている。

BMWはヤマハのYAMTと似たASA/オートメーテッド・シフト・アシスタンスを開発し、今年、R1300GSAに採用した。KTMもAMTを開発し、11月のEICMAで発表するはずの新しい1390シリーズがこれを装備すると予想されている。

これらの変速システムのひとつひとつがどのように働くのかは、すでに多くの雑誌やメディアで解説されているが、ここでの疑問は、なぜ自動変速のバイクがこれほど急激に市場に現れたのかということだ。その理由を、ヨーロッパ最大のバイクメーカーであるKTMグループのボスのシュテファン・ピエラーは、顧客が求めているからだと断言している。すると次の疑問は、なぜ顧客はこういうシステムを求めているのかだ。

包括的な言い方をすれば、それは新しいライディングエクスペリエンスへの欲求ということになるだろう。だが、その動機の大きな比率を占めるのは、よりイージーなライディングの希求だ。具体的に言えば、クラッチワークやギヤシフトに煩わされずにバイクに乗ることである。

これは、私のようなオールドスクール出身のモーターサイクリストにとっては驚きだ。というのも、初心者だった時代を除けば、バイクでそれらの操作を煩わしいと感じたことはほとんどなく、むしろ娯楽のうちだと思っているからだ。レイジー(怠惰)なイージーさはスクーターの領域である。

イージーさを求める背景にあるのは、ライダーのスキルの低下という近年の傾向だという分析がある。かつて人々はまず50㏄や125㏄でバイクライディングに入門し、経験とともに排気量を上げながら、時間をかけてスキルを磨いた。その伝統が近年では忘れられ、短期間で上級バイクに進もうとする傾向が現れた。しかも、バイクに乗る時間が昔よりも短くなっているので、当然、スキルアップに費やす時間も短くなる。しかしそれにもかかわらず、ライディングが上手になりたい/上手に見られたいという欲望はある。そこで、経験とともに会得するスキルのひとつである巧みなクラッチワークやギヤシフトを、電子制御の機械を使ってショートカットすることが顧客の求めるものとなったというのだ。

興味深いことに、この分析はヨーロッパと日本のメーカーの両方でほぼ共通している。個別の事情を加味するなら、ヨーロッパの場合は電動バイクの普及によって、バイクのいわゆるツイスト&ゴーに対する拒絶が薄らいでいるらしいこと、日本ではむやみに信号が多いことなどがあるだろう。驚いたことに、最近の日本では信号待ちの間、ギヤを1速に入れたままクラッチレバーをずっと握っているライダーが多いそうだ。クラッチの原理や構造を知っていればやらないことだが、しかしこれではクラッチレスの自動変速が欲しくなるのも無理はない。

ヨーロッパと日本の背景の違いはあるにせよ、こういうライダーがこれから増えるのなら、メーカーはイージーに乗れて、上手そうに走れるバイクを作らないと、販売台数の増加どころか維持すらも望めないことになる。それが、市場に急に増えた感のある自動変速バイクの理由かもしれない。

10月にKTMが発表したAMT付きLC8エンジン。リクスルと同様の遠心クラッチを使う。ギヤシフトは電動アクチュエーターでシフトドラムを回転させる。チェンジに要する時間はクイックシフターなみの50ミリセカンド。また、ギヤボックスをロックするパーキング機能を持つ

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