【読書から考えるバイクライフ】バイク描写が魅力の「しゃぼん玉」を読んで九州を旅しよう!
バイクと読書で広がる新たな旅の楽しみ方!
秘境を舞台にした小説を片手に
未知の世界へと誘われてみませんか?
今月の一冊「しゃぼん玉」
こちらのコラムを担当するオートバイブックス代表・執筆家の武田宗徳と申します。週末はバイク専門書店オートバイブックスとして各地のバイクイベントに出張販売に出向き、平日は執筆家としてバイク雑誌・ウェブメディア向けに短編小説やエッセイ・コラムを書き、また個人出版オートバイブックスとして、著作の管理・制作・出版の仕事をしています。
オートバイブックスは書店の屋号であり、私の個人出版社(者)の名称でもあります。現在Rider’s Storyというシリーズ本を5冊出しています。これからよろしくお願いします。
さて、本の紹介をしていくわけですが、本は一年で1冊くらいしか読まないのですね。このコラム執筆のため、紹介したい本を月1冊くらいのペースで読まなければならなくなりました(汗)。読書の機会を与えてくださり感謝いたします(笑)。
【しゃぼん玉 乃南アサ】
こちらを原作とした映画が2017年に公開された当時、とても観たかったのですが見逃してしまいました。ですので、原作を読むことにしました。
乃南アサさんは直木賞をはじめ数多くの賞を受賞しているベテランの大作家さんです。ドラマ化・映画化された作品も数多くあります。この映画がきっかけで、私は初めて乃南アサ作品を読みました。
主人公の青年、伊豆見翔人は女性や老人だけを狙って強盗傷害を繰り返す常習の通り魔だ。逃亡先の宮崎県にある山深い村で、怪我をした老婆を結果的に助けた形となり、その老婆のもとで暮らすようになる。老婆の孫だと思い込んでいる村人たちに、翔人は世話を焼かれ、山仕事や畑仕事、祭りの準備にもかり出されるようになる。金を盗んで逃げ出すタイミングを見計らっていたのだが、翔人はそのタイミングを見出せずにいた。
サスペンス・ミステリーというよりヒューマンドラマのおもむきです。この作品はバイク乗り特有の感覚を描写する表現があちこちに出てきます。冒頭「耳元で風が鳴り、自分の乗っている原チャリのエンジン音が、翔人自身を追いかけているような気がしてくる。」とあります。一人バイクで走っていて後ろにもう一台走っているような気がすることって、確かにありますよね。
老婆と初めて出会った場面では「横倒しになったままのカブを起こして〜(中略)〜ペダルをキックする。」とあります。老婆はスーパーカブで走っていて転んでしまい怪我を負ったのです。「〜チェンジペダルを何回か踏み込んでニュートラルランプが点灯するのを確かめると〜」という描写もバイクに乗る人なら理解が早いでしょう。
気を失いかけている老婆を背にカブで山をくだるシーンでは「ギアをサードあたりに持っていき、アクセルをほとんど回さずに〜」と、スピードを抑えながら路面とバイク自体の振動もなるべく抑えて走ろうとします。この描写もバイクに乗る人ならよく分かる感覚だと思います。
本作では控えめな登場ですが、乃南アサ作品は頻繁にバイクが登場します。直木賞を受賞した代表作「凍える牙」もそうです。確認できていませんがご本人もバイクに乗る人かもしれません。乗っていなければ書けないような描写があちらこちらに見られます。
バイク乗りが読書をするとこんな風に、著者もバイク乗りかな? と思うことがあります。これはバイク乗りならではの読書の楽しみ方の一つだと思っています。
そして物語の舞台は九州、宮崎県の椎葉村、日本三大秘境の一つと言われる場所です。そんな秘境にもバイクなら行くことができます。バイクは道さえあればどこへでも行ける乗り物です。
バイクの登場する小説を読んで、その小説の舞台へバイクで行く。秘境なんて言われたら、なおさら行きたくなります。バイクと読書、両方が好きだと楽しさ倍増です。さあ! 書を捨てず、旅へ出よう。
しゃぼん玉
乃南アサ( 新潮文庫刊)
P r o f i l e:武田 宗徳
オートバイ専門書店・個人出版オートバイブックス代表・執筆家。1974年生まれ 静岡県藤枝市在住。20年以上前からバイク小説を執筆、関連するさまざまなメディアで掲載・発表してきた。著書に Rider’s Story シリーズ(5冊)がある