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なるほど!世界のバイク人「ライダーは猫好き?」

動物の行動を管理するのはなかなか難しい
柵などは野生動物の前には無力なものも多い
交通と動物の関係は国によっても対応は異なる
そんな中で見えてくるライダーと猫の特異性

交通社会と野生動物問題 あなたは犬派? 猫派?

バイクやクルマを運転していてもっとも体験したくないことのひとつは、路上に飛び出してきた動物を轢いてしまうことだ。それまでの楽しいツーリングやドライブが一瞬にして終わる(あるいは少なくとも水を差される)このアクシデントは、避けられなかったこととはいえ、多くの場合、ネガティブな記憶として尾を引き、人によってはトラウマになってしまうこともある。

 不幸にしてこういうアクシデントに遭ったとき、相手が野生動物でもペットでも、警察やRSPCAのような動物保護団体に報告する義務があるのは、多くの国で共通している。RSPCAというのはRoyal Society for the Prevention of Cruelty to Animals(動物虐待防止協会)のイニシャルで、ロイヤルの名の通りイギリス王立のこの組織は、連邦王国のほとんどの国で活動をしている。

 どの国でも、アクシデントが起きたら必ず停まって、轢いた動物の状態を確かめることが法律で決められているが、中には苦痛にあえいでいる動物を楽にすることを求めている国もある。つまり、助からないとみた場合は殺してやることが推奨されているのだ。動物愛護の観点からは合理的だが、非情さも必要だ。また、轢かれてけがをした動物を獣医に持ち込んだときの治療費は、払わなくてもいいという国もある。負傷した動物を善意で獣医に運んだ人に、治療費の全額が請求される日本とは大違いだ。

 しかし、すべての動物がこういった扱いの対象になっているわけではなく、多くの国では鳥は含まれていない。また、オーストラリアでは、カンガルー、コアラ、ウォンバット、ポッサム、ペンギンなどのユニークな動物が、対象動物としてリストアップされている。

 イギリスは動物愛護の発祥国と思われている。そして、道路交通条例1988という法律に、犬、馬、ロバ、羊、ヤギなどの動物と事故を起こしたら、停まって警察に報告し、自分で獣医に運ぶなり、愛護団体に援助を求めるなり、何らかの救護をしなければならないと定められている。だが不思議なことに、これまではこの中に猫が含まれていなかった。 イギリス最大の猫保護チャリティのキャッツ・プロテクションによると、イギリスには約1100万匹の猫が飼われており、イギリス全家庭の26%、4軒に1軒に猫がいるという。また、イギリス議会の発議機関によると、2022年には全国で約
23万匹の猫が交通事故にあった。1日あたりにすると630匹だ。けっして少ない数字ではない。

 猫に関するイギリスの慣習的法律には、他国では例を見ないものがある。それは、犬が単独で公共の場所をうろつくのが違法なのに対して、猫にはどこでも自由に歩き回る権利が認められていることだ。

だから日本と違って、猫を家の中に閉じ込めて飼うという考え方は少数派だ。 猫はドアや壁に取り付けられたキャットフラップを通って、自分の家だけでなくよその家にも自由に出入りしている。そこで、猫にはいくつも家がある、猫は立ち寄り先の数だけ違った名前を持っているなどのアフォリズムが生まれた。人々も概して猫には寛容である(園芸愛好家の中にはそうでない人もいるが)。

 しかし、飼い主がいっしょにいない犬が路上にいると、ほとんどのドライバーはスピードを落として慎重に走ったり、ときにはクルマを停めたりするのに対して、路上を歩いている猫に同じレベルの注意を向けるドライバーは少ない。しかも猫は、事故に遭ったときに犬と同じケアを法律で保証されていなかった。これには政府も疑問を持ったようで、数年前に公式の世論調査が行われた。その結果、今年の初めに条例が改正された。 

もちろん、それ以前からもドライバーの多くは、不幸にも猫と事故を起こしたらクルマを停めて介抱したり救護したりするなど、当然のことをしてきた。だが、中にはこういう状況で何もしないことが処罰の対象になることを、認識する必要があるドライバーもいる。

 なぜ、今回のコラムは猫に肩入れしているのかって? それは、猫はバイクライダーと無縁ではないからだ。トキソプラズマ・ゴンディーという原生生物の名前を聞いたことがあるだろう。ほぼすべての温血脊椎動物にひっそりと寄生しているが、増殖するのは猫の胃の中でだけという特徴を持っている。しかし、トキソプラズマが寄生したネズミは猫の尿に異常に誘引されるようになり、その結果、猫に捕まりやすくなる。

 人間でも、3~5人に1人がトキソプラズマを持っているといわれている。寄生されても、ほとんどの場合は軽いインフルエンザのような症状しか発症しない(もしくは自覚症状なし)とされているが、脳化学的にはネズミと同様に生化学反応を呼び起こすらしい。

 その反応は性別によって違うそうで、男性の場合は権威に対してより強い不信感を抱き、嫉妬深くなり、規則を曲げたり破ったりする傾向が現れる。そして、これに突出して影響を受けるのが、男性モーターサイクリストなのだそうだ。

 ここから導き出せる結論はなんだろう。それは、男のバイクライダーが警察の取り締まりに盾突き、隣を走るバイクを妬み、追い越し禁止の場所で追い越したりするのは、すべてトキソプラズマのなせる業であるということだ。そして隣のバイクを妬んだ男は、もっといいバイクを買うだろう。したがって、トキソプラズマはバイクの販売台数も伸ばす。そして、そのトキソプラズマをそもそも生み出したのは猫だ。だから、バイク産業は猫の恩恵にあずかっていることになる。バイクライダーに猫好きが多いのは、けっして偶然ではなかったのだ。

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