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BikeJIN

世界各地に生産拠点を設け、現地生産に積極的に取り組んでいるヤマハ
各地で展開されているのは、効率や成果だけを重視するような
スタイルではない。タイでの取材から見えてきたものは
「働く人々の喜びを高めれば、成果は後からついていくる」という柔軟さだった

ヤマハのモノ造り
連載記事一覧

vol.9

生産の重要拠点は東南アジアへ

誇りと喜びを持って「自分のこと」として
仕事に取り組む

はつらつとした選手たちの掛け声と、実況放送が柔らかい風に乗って響く。観客から声援が上がる。ボールを追う選手。軽快なドリブルで相手ディフェンスをかわし、シュートを打つ。キーパーがボールを弾く。実況がひときわエキサイトする。観客が大いに湧く。

サッカーを楽しんでいるのは、タイヤマハの従業員たちである。昼休みが始まったほぼ直後から、ユニフォームに着替えてプレイする者や、ピッチの周りに陣取って観戦を決め込む者、お弁当を広げる者まで、たくさんの人々がグラウンドに集まっている。

ほんの少し前まで、彼ら/彼女らの多くはグラウンドのすぐ隣にあるバイクの組立工場にいた。広々とした工場内には、明るい光とともに前向きなやる気が満ちていた。

年間約500万台のヤマハバイク「美」という付加価値をもたらした

集中とリラックスのメリハリが効いている
就業時間内は真剣に。休み時間は伸び伸びと。タイ人はオンとオフの切り替えがはっきりしている。このメリハリにより仕事に集中でき、最適な成果が得られる

ヤマハの生産台数60%を占める
屋台骨となった東南アジア

ヤマハの生産台数60%を占める
屋台骨となった東南アジア
静岡県磐田市に本社を構えるヤマハだが、バイクの生産は90%以上が海外拠点で行われ、60%はタイ、インドネシア、ベトナムなどの東南アジアが占めている。品質の高さが向上し続けているのは、各国の生産レベルが高まっているからこそ

整理整頓が行き届いた工場内で、てきぱきと作業にあたるオペレーターたち。骨組みだけだったバイクには、ラインの流れとともに的確にパーツが組み込まれていく。

この工場では現在、月2万台ものバイクが生産され、タイ国内や日本など世界各国へと続々と出荷されていく。

1日にして約1000台。圧巻のスケールとスピード感で物事が進んでいる。その勢いを支えているのが、タイの人々だ。

真摯で、真剣で、朗らかな眼差し。誇りと喜びを持って自分たちの仕事をこなす姿からは、国籍を超えた「人としての」充実が感じ取れる。

「モノ造りにこだわるヤマハの姿勢は、しっかりとタイでも浸透していると思います」 工場の責任者である村木健一さんは言った。

「タイヤマハの創業は64年3月。50年以上の歴史がありますから、ヤマハイズムが隅々まで行き渡っている。優秀なタイ人の層がとても厚くて、監督職からオペレーターまで、バランスのよい構成になっているんです。先人たち(ヤマハ本社から送り込まれた日本人駐在員)の教育の賜物ですよ」

「教育」。この言葉しか使いようがないのだが、ヤマハの海外における事業展開のスタイルは、「教壇の上から先生が生徒にものを教える」といったいわゆるトップダウン形式の「押し付け」とはまるで正反対である。

生産企画のアドバイザーや日程管理などを務めている高野徹さんの話が象徴的だ。「私たち日本人駐在員の間は、『自分が帰る時には、後任がいないこと』が目標になっています。つまり『次の日本人駐在員はいない』という意味。現地の人たちだけで仕事が回せるようになり、日本人駐在員がいらなくなることが理想です」

目線で一丸となって目標に向かい、ともにそれを達成しようとする。教育とは言っても、「先生と生徒」というより、仲間と呼ぶのがふさわしい関係性だ。

「タイ人は、日本人や日本という国、日本文化に対して強い憧れを持っています」と村木さん。

「よくタイ人は『国ごと日本の隣に引っ越したい』なんて冗談を言うんですが、それぐらいの親日感情を持ってくれている。しかもポジティブで、すごく素直だしマジメ。マジメすぎて融通が利かない時もたまにあるんですが(笑)、日本人以上に人間同士のコミュニケーションを大事にしますから、ちゃんと相互に理解し合える。そういうバックグラウンドがうまく仕事に生きているという面もありますね」

主体性のある取り組みが製品の品質を高める

主体性のある取り組みが
製品の品質を高める
失敗は起こり得る。闇雲に「ミスするな」と叱るのではなく、「自分ごと」として捉えてもらう。「私がヤマハ」は、そういう考え方

柔軟な生産体制により低コスト・高品質を両立

柔軟な生産体制により
低コスト・高品質を両立
タイ国内で開発から生産まで完結するモデルもあれば、部品をタイで生産し、別国で組み立てるモデルも。各国の貿易事情に合わせた柔軟な生産体制で、低コストと高品質を両立させている

お話を伺った方

THAI YAMAHA MOTOR
Chief of Manufacturing Operation
村木健一さん

「日本のユーザーにもよりよい製品を」

本社での製造技術部門勤務などを経て、海外で工場や部品会社の立ち上げなどを手がける。「各国の密接な連携を軸に生産レベルは高まり続けている。高品質な製品を適切な価格で提供できることは、日本の市場にも大きなメリット」

お話を伺った方

THAI YAMAHA MOTOR
Advisor/Production Planning, Manufacturing Operation
高野徹さん

「納得した上での仕事が高品質な製品を生む」

タイ駐在はもうすぐ5年。親日感情が良好で仕事も進めやすいタイでの駐在はうらやましがられることも多いそう。「現地の人たちとじっくり話し合い、納得して仕事してもらえるよう心がけています」

働く人が感じる喜びは
製品を通してユーザーに伝わる

現地の人々の特性を明確に把握しているのは、まさに「仲間」として同じ目線に立っていることの証だ。そしてヤマハは、タイに限らずどの海外生産拠点においても「現地の人々と一緒になって働き、やがては日本人駐在員がいなくてもヤマハらしい高品質なモノ造りが継続されることが目標」というスタイルを貫いているのだ。

ヤマハには、「ME500」という研修システムがある。海外から製造スタッフを日本に招聘し、日本の工場で1~2年ほど実務経験を積んでもらうのだ(リーダー・職長クラスは「6カ月研修」)。

彼ら/彼女らは実際の業務にあたりながらヤマハのモノ造りを体感・吸収し、自分のものとして、各国に帰っていく。そして未来のリーダーあるいは職長として、ヤマハイズムを自国の人たちに伝播していくのである。

村木さんは、「国が違えばどうしても言葉の壁がありますからね。ものの考え方や微妙なニュアンスは、絶対に現地の人たち同士の方が分かり合える。だったらコアとなる人を育てて、現地で広めてもらった方がいい」 言葉や文化という基盤から違う各国の人々を介するやり方だけに、ヤマハイズムは完璧に正確に伝わるわけではない。国によってわずかな誤差が生じることもある。

アジア専売モデルが個性を放つ!

実績ある日本の生産手法を基に
各国事情に応じて最適アレンジ
正確な組み立て作業が迅速に行われている工場。日本語そのままの表記が随所に見られるなど、日本の本社工場で培われた方法論をベースに、タイ独自のアレンジを加えて最適なスタイルを採る。タイ人は失敗を恥じる傾向が強い。ミスをバネにさらに向上できるよう、率直に語り合える風通しのよい職場環境作りが心がけられている

現地開発モデル M SLAZも登場!

仕事が評価される喜びと、磨き合う喜びと
だから敷地内には病院を
優れた仕事ぶりはしっかり評価され、ラインごとにメダルが授与される。競争好きなタイ人のメンタリティにマッチし、健全な切磋琢磨が生まれる

現地開発モデル M SLAZも登場!

現地開発モデル M SLAZも登場!

従業員の健康がよりよいモノ造りには必須
だから敷地内には病院を
体調不良などの際にも迅速によりよい医療が受けられるよう、敷地内にはクリニックが設けられている。「従業員が健康であることが、優れた製品造りの出発点という考え方を具現化したもの。将来的には家族も診察を受けられるよう計画中

高野さんが言う。
「仕事に取り組む人たちに、自分が何をやっているのかをちゃんと納得してもらいたいんです。誰だって、理由もよく分からないまま押し付けられたことなんて、やりたくないものですからね」「国による誤差」は、そのままでは終わらない。相互の密接な情報交換により共有されるのだ。タイのスタイルがベトナムで応用される、といった事例が頻繁に起こる。

そうやってお互いの「いいとこ取り」により結果的に各国の生産技術が向上し、生産国に関わらずヤマハ製品の品質が高まるのだ。

海外生産にあたってのやり方は、いろいろだ。日本人駐在員が大挙して押し寄せ、日本のやり方を強力に推進する企業もある。その方がスピーディに物事が進む可能性が高く、効率も良く、日本企業としての達成感も得やすいだろう。

しかし、ヤマハは決してそういう道を選ばない。各国の人々の考え方や生き様を尊重しながら、同じ目標に向かって同じレベルの意識を携えて、ともに歩む仲間を作っていくのだ。

時間も、手間もかかる。決して効率はよくない。しかし、どんな木だって最初から大樹であるはずがない。丹念に土を耕し、丁寧に種を蒔き、大切に細木を育んでこそ、その地にどっしりと根を下ろした大木になるのだ。ヤマハはそうやって、各国に企業文化を根付かせてきた。

村木さんが冒頭に言った「先人たち」のやり方は、海外展開を始めた当初から現在に至るまで、また洋の東西によることなく、変わらず貫かれ続けているのだ。

なぜそうなったのかは、ヤマハの誰に聞いても判然としない。当たり前のこととしてそうやって始まり、当たり前のこととして受け継がれていることだから、理屈も理由もそこにはない。

ひとつ言えるのは、ヤマハは主に「楽しむための道具」を製造している会社だ、ということだ。世界の人々に喜びを授け、暮らしを豊かにするために、ヤマハはある。

それは従業員も同じだ。ヤマハで働くことに喜びを感じられ、幅広い意味で豊かな暮らしがもたらされているからこそ、心からユーザーに喜んでもらおう・楽しんでもらおうと思えるのだ。「タイ人の従業員から、『ヤマハはマイルドだよね』と言われることがあるんです」と高野さん。

工場内に展示される実車で自分の作業の意味をより具体的にイメージ

工場内に展示される実車で
自分の作業の意味をより具体的にイメージ
工場内には、実際に組み上がった車両が展示されている。自分の作業範囲だけではなく、仕上がり全体が目に見えることで、自分がどんな仕事をしているのかが具体的にイメージできる。

「やれ作れ、やれ急げというイケイケドンドンなやり方じゃないから、『ヤマハは優しい』って言われます。それってもしかしたらビジネスとしては甘さがあるってことかな、と思うところもあるんですが……」と笑いながらも、「でも、離職率の低さは自慢できますね」と付け加える。

村木さんも言った。「ひとりひとりが『私がヤマハ』という意識を持って、仕事に喜びを感じてくれているのかな、と思います。その結果、より良い製品を世界各国に提供できるんですから、いいこと尽くしですよ」

さて、昼休みが終わったようだ。サッカーを楽しんでいた人々が、お弁当をたたみ、ユニフォームを脱ぎ、作業着に着替え、それぞれの職場へと戻っていく。今日という日も、充実の1日になるだろう。

フィーノ

キュービックス

トリシティ125/155

グランドフィラーノ

フィン

Mスラッツ
タイ生産モデルが日本の二輪市場を彩る
生産レベルの向上に伴ってタイ生産モデルが増加中だ。トリシティのように独自性の高いモデル、低価格で求めやすいモデルなど、タイ生産・日本販売というケースがますます増えることが期待される

ヤマハのモノ造り
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