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BikeJIN

デザイン、そしてカラーリング。
バイクを彩るこれらの要素には文化的な背景やお国柄が反映される。それらを的確に掴みながらスピーディな開発を執り行う。
ヤマハ・モーター・アジア・センターは日本の本社と強固に連携しながら、常にトレンドの先端に立つことを目指している

ヤマハのモノ造り
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vol.11

東南アジア各国のデザインの好み

いかに素早く的確に
トレンドをキャッチするか

タイ人のデザイナー、シワタット・モンコンサッパヤーさんは、日本に6年の留学経験がある。日本語学校に2年、カーデザインの学校に4年。その後、約20年にわたる日系企業でのデザイナー職を経て、13年にヤマハ・モーター・アジア・センター(YMAC)に入社した。
モンコンサッパヤーさんの奥さんは日本人だ。留学、仕事、そして家庭生活を通して、日本の文化や、日本人の考え方を深く理解している。
「慣れるのには2年ぐらいかかりましたよ」とモンコンサッパヤーさんは笑う。「タイ人は気楽なところがあるけど、日本人はピシピシッとしている。例えば友達同士で消しゴムなんかを勝手に使っても、タイでは何も言われない。でも日本だと『ちゃんと断れよ〜』と怒られちゃいますからね(笑)」

日本の高品質をどの国でも同レベルで開発・生産するために
アジア地域の二輪車開発を担う
約240名が働くタイのヤマハ・モーター・アジア・センター。デザインのベースコンセプト作りやカラーリングの策定なども担い、日本の本社と連携して魅力ある製品開発を行う

日本とタイは、5000km近くの距離がある。そしてタイは、ASEAN(東南アジア諸国連合)に属しており、インドネシア、ベトナムなどにほど近い。だがASEANの各国間では、日本とタイと同じぐらい文化の違いがある。もちろん言語も違えば、考え方も、流行も違う。
モンコンサッパヤーさんは、YMACで各国向けのバイクのデザインやカラーリングを手がけてきた。現在は管理職となり、主にはスタッフの仕事をマネージメントしたり、マーケティング調査などを行っている。
「タイは特にトレンドの移り変わりに敏感です。流行を採り入れるのが上手で、すごくスピーディ。カラフルさが好まれます。ベトナムでは黒がまず間違いない人気色です。以前、インドネシアは『10年はトレンドが遅い』なんて言われてましたが、今はだいぶ近付いてきました」

ヤマハの生産台数60%を占める屋台骨となった東南アジア

ヤマハの生産台数60%を占める
屋台骨となった東南アジア
静岡県磐田市に本社を構えるヤマハだが、バイクの生産は90%以上が海外拠点で行われ、60%はタイ、インドネシア、ベトナムなどの東南アジアが占めている。品質の高さが向上し続けているのは、各国の生産レベルが高まっているからこそ

ASEAN諸国とひとくくりにしても、実際のところは各国によってデザインやカラーリングの好みはかなり異なる。それぞれに合わせた作り込みが必要だ。
YMAC設計部門のゼネラルマネージャーを務めている室尾振郎さんは、デザイン業務の流れについてこう説明する。

「基本的には日本の本社デザイン室が主導となっていますが、いち早くトレンドをキャッチするためにも、現地の情報やアイデアを積極的に採り入れています。最近ではモンコンサッパヤーを中心に若手デザイナーの育成も進んできています。彼らのコンセプトデザインをスタートラインにして日本で調える、というやり方も増えているんです。
やはり各国のニーズは各国に近いところじゃなければ掴み切れませんし、SNSを始めとして情報の拡散スピードがものすごく上がっていますからね……」

スピードという言葉は、YMACの面々がデザインを語る時にたびたびキーワードとして登場する。SNSの爆発的な普及は情報の伝達速度をどんどん高め、トレンドの移り変わりを早めている。
一方で、バイクの設計にはどうしても時間がかかる。タイミングを逃せば、「時代遅れのデザイン」にもなりかねない。より早く、より正確にデザイントレンドを把握するために、現地の力がますます必要になっている。

「超スピードが必要なんです」とモンコンサッパヤーさんは笑う。「とにかく、タイムラグを減らさなければなりません。デザインサイドとしても、可能な限りの努力をしています。例えばカラーリングを提案するにしても、できる限りの下準備をして確認事項を減らして、物事がスパッと決まるように心がけています」
前回、「四季がないから、先を読んでの段取りが苦手な面がある」というタイの国民性が語られたが、特に迅速さが求められるトレンドシーンにおいては、そのようなことは言っていられない。日本のビジネスをもよく理解するモンコンサッパヤーさんは、うまく段取りして仕事を進めている。

世界のどこで造られた製品でも、日本で造られた製品と同じ高品質を守ること。海外で事業展開する日本メーカーにとって、これは非常に大きな課題だ。
日本の開発能力や生産技術の高さは間違いなく世界随一と言える。その反面、コスト高となりやすいという課題がある。一方タイは、二輪車の主要マーケットであるアジア諸国へのアクセスが非常によいうえに、製品のコストを抑えることも可能だ。

YMACは、タイを生産拠点としてだけ捉えるのではなく、開発の拠点としようとするヤマハの強い意志の表れだ。
ただし、その手法は決して強引ではない。段取りを始め、高品質な製品を効率よく開発するためにどうしても覚えてもらう必要がある事柄はあるにしても、それを無理矢理押しつけたりはしないのだ。

これはYMACに限った話ではない。ヤマハの海外事業展開のやり方はどの国でも共通している。現地の人々の国民性や、個々人の特性に寄り添いながら、ヤマハのモノ造りを理解してもらい、それを実践してもらうという、手間と時間のかかるやり方である。

主体性のある取り組みが製品の品質を高める
キースケッチはYMACで仕上げは日本の本社で
現地の強みを生かし、デザインコンセプトの提案などを積極的に行うYMAC。先進的デザインの125ccスクーターQBIX(キュービックス)もYMACでコンセプト出し、日本のデザイン本部がまとめ上げるというグローバルなデザイン作業が行われた

お話を伺った方

シワタット モンコンサッパヤーさん

YAMAHA MOTOR ASIAN CENTER
General Manager
Product Design Division
シワタット モンコンサッパヤーさん

「しっかり下準備して、適切な提案をする」

13年YMAC入社のデザイナー。主にカラーリングを手がけながら、後に生産車のスタイリングも担当。現在はデザイン業務全般のマネージメント役を務める。休日はSR400やX-MAXなどでツーリングを楽しむ

お話を伺った方

室尾振郎さん

YAMAHA MOTOR ASIAN CENTER
General Manager
Design Engneering Division
室尾振郎さん

「トレンドを捉えることが出発点」

90年のヤマハ入社以来、オンオフモデルやビッグバイクなど、多くのモデルの車体設計を手がけた。現在はYMACで設計業務全般の取りまとめ役を務める

「トレンドキャッチングは本当に大変です」

タイをバイクで走ると、その数の多さに圧倒されると同時に、実に多種多様でさまざまなスタイルが混在していることが分かる。モペットと呼ばれるアンダーボーンのMT車、スクーター、小排気量のギヤ付きスポーツモデル、そしてビッグバイク。どこにトレンドの柱があるのか、一見ではほとんど掴めない。

「それがタイなんです」と苦笑いするモンコンサッパヤーさん。 「とにかくマインドや好みがバラバラなんですよ。タイはビッグバイクも増えてきたし、市場がどんどん成熟してきている。すると、どの国でも同じなんですが、好みが細分化していきます。基本的にはスポーティ路線が好まれるのかな、と思いますが、最近ではのんびり派も増えてきている。トレンドキャッチングは本当に大変です」

誰が先に「これから来る流行」を捉えて、それを製品に落とし込めるか。熾烈ともいえる競争が繰り広げられている。 「日本と同じように、ヤマハ製品のデザイン性はタイでも高く評価されてます。特に『デザインを先取りするヤマハ』というイメージが強く、トレンドに敏感なタイでのシェアもどんどん高まっている。でも、あまりにも先端的なデザインを狙うと、受け入れられにくくなってしまいます。でも、常に期待を超えたデザインをしなければいけない。その辺りのバランスの難しさは、たぶんどの国でも同じではないかと……」

さらに、各国の事情が覆い被さる。タイでは、都市部と地方のバイクに対する温度差が、想像以上に激しい。バンコクをはじめとする都市部ではホビーとしてのバイクが受け入れられているが、地方でのバイクは実用的な生活必需品だ。当然、求められる機能性やデザイン性も大きく異なる。
モンコンサッパヤーさんは都市部や地方のディーラーを巡り、こまめな情報収集やトレンド調査を欠かさない。足で稼いだ情報を、デザインに生かしていく。

「Mスラッツ」の車体は、モンコンサッパヤーさんのデザインがベースとなっている。日本の常識で考えると、前後シートが非常に近い設定だ。
テストを担当する実験部門のゼネラルマネージャーである村上豊さんは、こう振り返る。
「モンコンサッパヤーが『タイでは彼と彼女がタンデムで抱きつくぐらいにしてくっつくのがイイんだ』って言い張ったんです(笑)。日本人の感覚では『狭くないのかな』と思うんですが、タイ人の感覚を優先しました。もちろん、ハンドリングやその他の要件をヤマハとしての基準を満たす範囲内に収めて、の話ですけどね。結果的に、あのシートで大成功でした」

主体性のある取り組みが製品の品質を高める
前後シートの距離感は
タイの好みに合わせて設定
男性ライダーに抱きつく女性タンデマー。それがタイの若者のバイクデートスタイルだ。Mスラッツのシートは走りの良さを重視しながら前後の距離が詰められている

また、激しい世代差もある。タイの若者は、モノや服の選び方も上の世代とまったく違うそうだ。
情報が猛烈な速さで流れ、消費され、世代格差が広がっていく。ASEANに限らず、日本も、そして欧米も同じ傾向にある。インターネットを媒介としながら、国境はどんどん薄れつつあるのだ。

「本当に難しいんですよ」と室尾さん。「数年前に我々がインドネシアでマットカラーを採用した時は『あり得ない』なんて言われたのに、今やマットカラーだらけですからね(笑)。カラーリングもデザインも、読むのは難しい」 その中で、どのようにデザインやカラーリングを提案していくのか。村上さんが「Mスラッツ」のシートの話をする合間、デザインを受け持った当人であるモンコンサッパヤーさんは「チャレンジでしたよ」と笑っていた。 チャレンジ。つまり、攻め込むことができるかどうか。新しいモノの形を創り出すという点で、まさにクリエイティブさがキモであるデザイン業務。挑戦が許される職場であるかどうかは、製品の仕上がりに大きく影響する。

【CASE1】
同じモデルなのに3カ国でカラーリングとモデル名が違う
同じASEAN諸国でも、国によってカラーリングの好みも言語感覚も異なる。日本では「エキサイター150」と紹介されているこのモデルも、国によって車名/カラーリングを変更
ベトナム:Exciter150
ベトナム:Exciter150
マレーシア:Y15ZR
マレーシア:Y15ZR
インドネシア:Jupiter MX150
インドネシア:Jupiter MX150
【Case2】
Mslazもモデル名が違う
YMAC開発の「Mスラッツ」はタイとインドネシアに導入されている。言葉の響きの感じ取り方が異なることなどに配慮し、2カ国それぞれで個別のモデル名を使用する
【Case2】【Case2】
【Case3】
R15はASEAN各国でカラーリングの違いはナシ
08年にインドで生産が開始されたYZF-R15はASEAN各国で販売されているが、ネーミング、カラーリングともに共通。YZFシリーズの血統をダイレクトに継承している
【Case3】【Case3】

失敗を恐れない企業風土が
創造力を高めている

「ありがたいことに、ヤマハは失敗を恐れない会社なんですよ」とモンコンサッパヤーさんは笑う。「会社として、何をメインに据えるのかってことだと思うんですよね。ビジネスの観点ばかり強調する会社だと、まず失敗なんて許されない。失敗を恐れると、チャレンジしなくなる。デザイナーの責任にされたくないから、どうしたって保守的になる。
ヤマハはそうじゃない。非常にチャレンジングです。失敗を恐れないから、アドバンス(進歩的)なデザインが可能になる。それがヤマハの製品の魅力だと思います」

若きタイ人のデザイナーたちを育成する立場にあるモンコンサッパヤーさんは、若者たちのセンスとチャレンジングスピリッツを高めるために尽力している。「タイでは『上司、部下』という上下の感覚があまりないんです。スタッフとも、自分の家族のように付き合っています」
アットホームな雰囲気の中、デザインやカラーリングの新たな試みに挑戦する。見たことのない鮮やかな驚きに満ちた製品は、こういう環境からこそ生み出される。

お話を伺った方

村上豊さん

YAMAHA MOTOR ASIAN CENTER
General Manager
Testing Engneering Division
村上豊さん

「現地スタッフに任せるべき箇所を見極める」

94年ヤマハ入社。YBX125、YBR125などの空冷小型エンジンの設計業務を経て、実験ではモペットモデルの開発や各種エンジンの先行開発などを受け持った。YMACでは実験全体の取りまとめ役

お話を伺った方

ピシサック・スラウィチャイさん

YAMAHA MOTOR ASIAN CENTER
Body Design-Design
Engineering Division
ピシサック・スラウィチャイさん

「バイクに憧れてもらえるようなデザインを──」

前回大いに語っていただいたスラウィチャイさんは、01年YMAC入社。日本での研修を経て、モペットを中心に多くのモデルの車体設計を担当。M-SLAZは開発後半からプロジェクトリーダーを務めた

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