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250㏄クラスに現れた真のアドベンチャー-KTM250ADVENTURE-

KTMがやってくれた
車検がなくお手軽な250㏄本格アドベンチャーをラインナップしたのだ
しかも走れば走るほどKTMらしさが味わえる
こいつを相棒にするだけで人生に冒険の二文字が加わる

高速道路からダートまで快適に旅するという矛盾

十年ひと昔前、ここまで世の中にアドベンチャーツアラーが溢れることになると誰が予想できただろうか? というのもちょっと前までアドベンチャーツアラーは、いわゆる一部のマニアに好まれはするが、決して王道ではない〝ゲテモノ〞ジャンルだった。

考えてもみよう、アドベンチャーツアラーとは、世界一周を標榜し、オンロードから未舗装路まで、世界中を旅する性能が与えられたバイクだ。有り体に言えば〝高速ツアラー〞と〝オフロードバイク〞を足して割ったようなキャラクターであるが、このコンセプトがそもそも破綻している。

〝高速ツアラー〞ということは、高速道路を快適に旅できるバイクであるということ。それなりの速度を出すには、剛性が高めで安定感のある頑丈な車体や高出力なエンジンが必要になる。当然車重は重くなる傾向にあるし、旅ともなればさらに荷物を積む必要も出てくる。世界一周とは言わなくても長旅になればパニアケースを装着するし、2人乗りすることも多いだろう。車体は相当頑丈に作る必要がある。

しかし、一方の未舗装路ではまったく逆の要素が求められる。不安定で踏ん張りの効かないオフロードで安定して走るためには、剛性が低めのしなやかな車体の方が路面をしっかり捉えられる。凸凹とした路面に振られる車体をライダーが体重と腕力を駆使してコントロールするために、車体は1グラムでも軽い方がいい。

〝頑丈で重くなってしまう〞が〝軽くしなやかである必要〞もある。そんな大きな二律背反を抱えているのがアドベンチャーツアラーというワケなのだ。だからこそ、大きく、重く、扱いづらいくせにパワフルで、オフロードも走れるらしいが、誰がダートで走ろうと思うのだろう……? という矛盾だらけの〝ゲテモノ〞が出来上がる。

ところがである。そんなゲテモノをゲテモノではなくしてしまったのが、このところ目覚ましく発展し続ける電子制御技術だ。

2000年代に起きた二輪業界におけるフューエルインジェクションの普及は、トラクションコントロールを急激に進化させ、最近では6軸IMU(慣性計測装置)なんてものまで登場させた。加減速の状況に、車体の傾きや進行方向まで加味してトラクションコントロールやABSなどの制御を行なっている。アドベンチャーツアラーが抱える大きな矛盾を電子制御が成立させてしまったわけだが、近年における国内外メーカーの傾向具合たるや、花形のスーパースポーツバイクよりもむしろ、このジャンルの方に力を入れているのでは? と感じる進化、ラインナップ拡充なのだ。

そんなアドベンチャーブームはついに車検のない250㏄クラスにまで波及。2017年にはホンダ・CRF250ラリー、カワサキ・ヴェルシスX250、スズキ・Vストローム250をラインナップ。だが先に長々と述べたアドベンチャーツアラーの要件からすると、どれもがちょっとキャラクターが微妙にずれているのだ。島国である日本メーカーが世界一周という旅をイメージしにくいからなのか? その理由はよく分からないが、CRF250ラリーはやはりベースがオフロードバイクとあってかオフロード寄りであるし、ヴェルシスX250はもともとの〝ヴェルシス〞のコンセプトからしてアドベンチャーツアラーではない独自路線。Vストローム250はロードバイクのGSRをベースにロングツーリングに特化した。

それぞれに個性があり、面白いバイクたちなのだが、アドベンチャーツアラーの要件である、〝高速ツアラー〞と〝オフロードバイク〞の矛盾に真っ向から取り組んでいるかというと、ちょっと言葉を濁したくなる。

そこでようやく現れるのが、今回紹介するKTMの250アドベンチャー。乗ってみれば、さすがはユーラシア大陸のモデルだと舌を巻くことになったのだ。

250㏄クラスの軽さが最大の武器。純然たるオフロードバイクではないが、相棒がタフだと大抵の場所に行ける気がしてくる。

舗装路はもちろん、高速道路での安定性は強め。オフ車と違い高速道路を延々走るような場合にも疲れにくい。

シートは855㎜と高めで、単気筒だがシートもちょっとワイドめ。ということで足着き性は抜群とは言いがたい。踵が10㎝近く浮く。ただ両足の親指の付け根は着くので不安はない。
テスター:172㎝ 75㎏

旅もオフロードもきちんと両立している

まず驚かされたのはその旅性能の部分だ。この250アドベンチャー、高速ツアラーとしてのキャラクターがものすごくしっかり作り込まれている。ベースの車体は、コンパクトなロードスポーツモデルの390デュークと共用であるハズなのだが、延長されたスイングアームと、19インチのフロントホイールといった専用装備が作り出すハンドリングにはとても落ち着きがある。車体は半乾燥重量で158㎏と同社の大型アドベンチャーに比べれば50㎏以上も軽いのでそれなりの安定感だが、それにしても250㏄クラスと考えれば十分。むしろ250㏄でよくこの高速ツアラー感を出したと感心させられる。そのぶんトップスピードこそ単気筒の250㏄ということもあり、日本の法定速度の上限である時速120㎞+αというところ。だが、流れに乗って高速道路を走っている分にはまったく不足を感じない。

ツーリングセクションのインプレッションにあたっては、大きめの荷物を積んで走ってみたのだが、積載性も十分。なにより走行時に荷物の重さを感じにくいことに感心する。バイクに乗ったまま長時間走り続けることになるツアラーにとってこの要素はとても重要なことだ。シート、ポジションといったエルゴノミクスに関しても丸一日走ってみたが快適だった。

ただ、それだけで終わらないのがKTMである。オーストリア発のこのメーカーは〝READYTORACE〞という理念に掲げて二輪製品を作っている。直訳すれば〝すぐさまレースへ〞。臨戦態勢って感じでおよそ旅とはかけ離れた標語だが、KTMのバイク作りにおいてはアドベンチャーツアラーもこの例外ではない。

ワインディングに差し掛かれば、エンジンはついついスロットルを開けたくなるような元気なパワーフィールを見せる。一方の車体は、ひらひらとコーナーを駆け抜けられるような軽快感がある。だからだろう。走るほどに楽しくなってくる。乗る者をスポーツランへと導くモノづくりこそ、〝READYTORACE〞の真骨頂なのだ。

そんなスポーティな特性はオフロードセクションに入ってもやはり同じだった。ダートに入る前は〝フロントホイールも21インチじゃなくて19インチだし、そもそもOEM装着タイヤがそういうキャラクターじゃないかな?〞。なんて思っていたのだが、意外や意外。ダートセクションも結構いけるクチだったのだ。

林道レベルのフラットダートは言うに及ばず、ちょっとした河川敷の起伏で遊んでみれば、意外なほど楽しく走れる。流石に大きなギャップでガコンとフロントフォークを使い切った時には、〝兄貴分の390アドベンチャーなら減衰特性を変えられるのになぁ……〞なんて思ったりもしたが、そこまで攻められる車体であることがそもそも素晴らしいと思い至る。

それにメーカーとしてきちんとした方向性が定まっているからだろう。兄貴分の390はもとより、1290、790アドベンチャーといった大排気量モデルにも通じるアドベンチャーツアラー感をきちんと備えているのもいい。このキャラクターが車検のないお手軽な250㏄クラスで成立させているのがとにかくすごいと思うのだ。

ライディングポジションこそアップライトだが、オンロードではシングルスポーツとしても高い資質を感じさせる。これはKTMエンジン出力特性と車体のパッケージが優れているためだ。多くのライダーにバイクに乗ることの楽しさを提供する。

メインフレームは390DUKE由来だが、スイングアームが50㎜ほど伸ばされ、パニアケースなどの積載物にも対応できるようシートフレームも強化されている。

ダカール常勝メーカーが作る本格アドベンチャーの車体

直近2年こそホンダに苦渋を飲まされているが、KTMと言えばそれまでダカールラリーにおいて前人未到の18連覇を成し遂げたオフロードを得意とするメーカーである。エンデューロやモトクロスにも力をいれているだけに、オフロード性能へのこだわりはとにかく高い。フレーム構成は同社が得意とする鋼管トラスフレームだが、これはダカールラリーを走るレーサーの450ラリーも同じ様式。アドベンチャーモデルにも、KTMのフィロソフィーである“READY TO RACE”はしっかりと息づいているのだ。

ABSの制御具合にオフロードへの愛着を感じる

多機能メーター

機能的には、Bluetooth通信機能のある最新のカラーTFTではなく一世代前のモノクロディスプレイだが、ABSの切り替えに航続可能距離などかなり多機能でツーリングには必要にして十分だ。

①燃料計 ②エンジン回転計 ③時計 ④速度計 ⑤ギヤポジション ⑥トリップA/B/モード ⑦積算距離計 ⑧トリップA/Bに対する平均燃費、平均速度、平均燃費から算出した航続可能距離、ABSモードの切り替えなどに使い、水温上昇警告や燃料減少警告も文章で表示される。 ⑨水温計 ⑩スクロールボタン ⑪SETボタン

周囲の明るさを感知して照度を変更。暗い場所ではディスプレイ照度を明るく切り替える。

スタンディングを多用するオフロードで重要視されるハンドルポジション。クランプの向きでハンドル位置が前。

メーター下にはイグニッション連動の12Vのアクセサリーソケットを装備している。ツーリング中の携帯電話の充電にも困らない。

390とは違い250にはフロントフォークに減衰調整機構が装備されていない。ストロークはフロント/リヤで170/177㎜。

燃料容量は14.5ℓでハイオク指定。航続可能距離も表示され満タン時には430㎞の表示が出たが、走行の状況によって変動する。

樹脂と金属板を組み合わせたアンダーガード。岩角へのヒットはともかく、飛び石ならカードできそうだ。最低地上高は200㎜。

スイッチボックスにはLEDが内蔵されており、透過光で光るようになっている。地味だが夜間走行にはけっこう便利である。

シートには、1日走っていてもお尻が痛くならない快適性があった。タンデムシート下のスペースにはETCぐらいは入りそうだ。

ヘッドライトの光源はH4ハロゲンで、スクリーンはボルト一本で高さが変えられる。ただ避風性は大きく変わらない。

オフロード&オンロードABS

さすがは世界有数のオフロードバイクメーカーのKTMと思わされるのはABSシステムへのこだわりだ。一般的にこのクラスにはオフロード仕様といってもリヤのABSカットぐらいのものだが、250アドベンチャーは、ABSをオンロード仕様から、オフロード仕様に切り替えると、リヤのABSの介入がカットされるだけでなく、フロントのABSもしっかりオフロードセクションに合わせた遅めの介入に切り替わるようになっている。しかもイグニッションオフでいちいち設定がデフォルトに戻らないところも、オフを得意とするKTMならではのところだ。

SETボタンでABS設定を表示させ、さらにSETボタンを長押しするとABSのモードが切り替わる。

オンロードでは前後輪ABSが介入。介入時期も舗装路用に早めとなり、介入時もフロントが滑る間隔はない。

オフロードモードでは後輪のABS介入がカットされるとともに、前輪のABS 介入が若干遅くなるよう設定されている。

オフロードABSを選択すると、前輪がグリップを失うまで踏ん張り、「ズッ」と滑ってからABSが介入する。

後輪のABSがカットされると後輪の意図的なロックが可能となり、ブレーキターンなどができるようになる。

DATA

価格:67万9000円
エンジン:水冷4st、単気筒248.8 ㏄ 
最高出力:30㎰ /9000rpm
最大トルク:2.4㎏ -m/7250rpm
重量:159㎏(燃料除く)
シート高:855 ㎜
燃料タンク容量:14.5ℓ
タイヤサイズ:F=100/90-19 R=130/80-17

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